1章 2
「グンティーヴァ様!信じられません。心停止の状態からここまで快復されるとは!」
その声はギーダーではなかった。振り返るとギーダーよりも年配に見える男が室内に入ってきた。
ギーダーと他にも数人が扉の向こうにいるようだった。
部屋に入ってきた医師は、短い鰐のような尾が備えていた。
ギーダーがロイヴォと呼んだその医師にも、見覚えはなかった。
「休眠期は正常に始まったようですね。発病が休眠期の始まりに重なってしまい身体への負担が大きくなり過ぎて反動を受けられたのでしょう。ご心配申し上げましたが、もう安心です。お心安らかに休眠期明けをお待ちなさいませ」
そう言ってロイヴォ医師は脈を取り、腕を取った。
「鱗はだいぶ剥がれてしまいましたね。これは心停止中の酸素及び栄養不足によるものかと思います。脱皮を繰り返せばいずれまた戻りましょう。それまでは長袖の衣類で保護する必要があります。なるべく暖かくし、日中は日に当たるようになさって下さい」
次に医師は背に回った。そして翼を開く。
「翼の力も弱まっています。これは予想通りです。休眠前診察でお話した通り、休眠期の間は変身も飛翔もできませんからお気をつけなさいませ」
休眠期。脱皮。変身。飛翔。
どれも意味の分からない言葉ばかりである。
こちらの混乱には気づかず、医師は扉の外に待機していたらしい者たちを呼び入れた。
姿は自分と異なり、角や翼は備えている者はなかった。
「急拵えで粗末ですが、輿を用意しました。寝所に戻りましょう」
そう言ったのは未だ感動が収まらない様子のギーダーだった。
彼に生えた短い鰐のような尾が興奮した様子でうねる様に動いている。
また、その背に生えた小さな翼も開閉を繰り返していた。
あれよという間に輿に寝かされ、霊安室から運び出された。