1章 5
自分にしてみれば至極当然の疑問だったのだが、ロイヴォとギーダーは目を見張った。
「グンティーヴァ様?ここはご自身のご寝所ですよ」
ギーダーは困惑したような顔で答えるが、ロイヴォの顔は強ばっていた。
「お待ちを。このようなお尋ねをするご無礼をお許し下さい。落ち着いてお答え頂きたいのですが、ご自身の名前を仰れますか」
「…さっきから貴方達が僕のこと、グンティーヴァって呼んでる」
ギーダーがますます混乱したように身を乗り出したが、ロイヴォがそれを制し、話し続けた。
「そうです、それが貴方様のお名前です。そしてここは貴方様のご寝所です。このご寝所があるこの場所は、お分かりですか?」
なんとか答えようとしてみるが、口から出たのは誰が聞いてもあからかに自信の無い言葉だった。
「僕の部屋ってことは、ここは僕の家なの?」
ロイヴォはなんとか笑顔を取り繕っているように見えた。
「ここはチャイトラン竜皇国皇宮です」
「お城ってこと?どうして僕、お城にいるの?」
「貴方様は我が国の皇太子殿下であらせられ、次期竜皇にお成りになることが決まっているからです」
「僕が王子様?王様になるの?」
話を続ければ続けるほどに混乱していくようだった。
ギーダーは震えている。息を乱してロイヴォに尋ねた。
「ロイヴォ先生…これは、どういうことなのでしょう…グンティーヴァ様は一体どうなさったのですか…?」
「今の時点で断定すべきではありません。が、ご記憶を無くしておられるように見受けられます」
「そんな!一体どうして?」
ギーダーは悲鳴をあげるが、ロイヴォはギーダーを抑え、少し考えた後、こちらを向いた。
「グンティーヴァ様は、急な体調不良を起こされ、ここ数日伏せっておられました。昨夜容態が急変し呼吸が停止したのです。ずっと養生しておられたのはこの部屋でございましたよ。そのことは覚えておいでですか?」
頭の中を掻き回してみるが、結局首を振ることしか出来なかった。