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0章
聴こえているのは、少女の泣き声。
焼け落ちて行く村のはずれを、一人ふらつきながら。
実のところ、少女は声を出していなかった。
声を上げれば、気づかれる。
熱から火傷を庇い、煙から喉を庇いながら逃れようとする少女は、俺に捕捉されていることに気づいて絶望を悟る。
少女の眼には恐怖が浮かんでいるが、同時に放たれた鋭い眼光は、最期の瞬間までも敵である俺に抗い抜く闘争心の表れだ。
一思いに処分した方が苦しみも少なかろう。
哀れみを施したところで、少女が生き延びられるとは思えない。
万一生き延びても、この村を襲った被害が、少女の流れ着いた先で拡大すれば、さらなる悲劇を生む。
正しい道を知りながら、俺は少女に背を向けた。
次に振り返った時には、少女の姿は見えなかった。
まだ遠くまで行けていないことは聴こえているが、俺は背に生えた翼を開くと部隊指揮のために空中へ戻る。
少女の声なき泣き声、村を焼く火よりも熱い憎しみはやがて、俺の耳や目でも捉えきれない距離まで遠ざかったようだった。