セッ〇スは1日1時間! ~超真面目で堅物の学級委員長にエッチになる催眠アプリを使ってみた~
母親どうしが知り合いなせいか、クラスの学級委員長は事ある度に俺の生活にいちゃもんを付けてくる。
家にも上がり込んでくるから尚更たちが悪く、俺はとても嫌な思いをしていた。
「滝沼クン、勉強ははかどってる?」
「ゲッ、委員長……」
「何がゲッ、よ。相変わらずゲームで遊んでばかりで何もしてないじゃない」
「うるせーな。俺には俺のペースがあるんだよ」
「そんなこと言って! ずっと勉強してないじゃない!! ゲームは1日1時間! 昔の偉大なる先人もそう言ってるじゃない」
腰に手を当て、まるで子供を叱る母親のようにプリプリと声を荒げる委員長。
俺は気にせずゲームを続けた。
「若いときに勉強しないと、大人になって子供に『お父さん頭悪いね』って言われるわよ!」
「どうせ俺は結婚なんてしないよ」
「そういう人に限ってすぐ結婚して子どもを山ほど作るのよ!!」
「へーへー。委員長は物知りな事で」
「少しでも勉強しておけば『パパ、昔は勉強沢山したんだぞ?』なんて言えるし、私だって『昔のパパは凄かったのよ』ってフォローできるじゃない!!」
「そんな会話は未来永劫することはない。それよりも委員長腹減った。ハンバーガーでも食いに行こうぜ?」
「ジャンクフードは敵よ! 食べ過ぎるし外食でお金は使うし、何より太るわよ!! いつものご飯をしっかり食べなさいな!」
「おーおー、委員長は相変わらずお堅い事で」
「それが私の仕事だからよ! それよりいつまでゲームしてるのよ! 勉強する!!」
「今いい所だから」
「今すぐセーブすればいいじゃない! つべこべ言わずに勉強する!!」
「あと五分」
「勉強!!」
「ちぇっ……」
今にもゲーム機を破壊するような剣幕の委員長に根負けし、俺は仕方なく机に向かった。
「……Zzz」
「寝るな!!」
「うすしお美味ぇな」
「ポテチを食うな!!」
「おし、休憩!」
「まだなんもしてないでしょーが!!!!」
隣で委員長が騒いでいるので、仕方なく、それはそう仕方なく英語の教科書を読む。
しかし……つまらん。てか、読めない。
「今度横道にそれたら椅子に縛り付けるわよ!! どうせやるならちゃんとやりなさいよ!?」
「別に俺のことで時間を使わなくてもいいんだぜ? 委員長も自分の勉強があるだろ?」
「わ、私はアンタのお母さんに頼まれたから仕方なく……!!」
「ふーん……」
「ドーナツも貰っちゃったし……」
「安い買収だな」
「そう思ったら勉強しなさいよ!!」
「いてっ」
側頭部を思い切りどつかれ、英単語が一つこぼれ落ちた。多分itかthat辺りだろう。さらばあやふやな奴らよ。
「あ、ごめんごめん。殴ったら英単語が抜け落ちるわね。ほら、catが落ちたわよ」
「キャットくらい読めるわい!」
それからずっと委員長に張り付かれ、その日は何だかんだで夜遅くまで勉強させられてしまった。
夜飯まで食って、更には取っておいた俺のメロンまで食われ、普段から委員長にとやかく言われ続けた俺の怒りのボルテージは、ついに最高潮まで達した。
メロンの怒りは来世まで続くのだ……!!
「ついに催眠アプリを手に入れたぞ!」
ある日、スマホの怪しい広告を誤タップしたのが事の始まりだった。
そこにあった謎の催眠アプリは、使った人の理性をねじ曲げる強力な催眠効果により、どんな人でもスケベ人間になってしまう代物らしい。しかも効果は多少の個人差はあるが概ね一週間。
時間停止モノと催眠アプリ系のシチュは9割が偽物らしいが、どうやらこれは本物らしい。
親父のクレジットカードでこっそり買ったから、バレはしないだろう。すまぬ親父よ……。これも可愛い息子のためだ、許してたもれ。
「……よし、委員長に使うか」
ククク……これであのクソ真面目でガチガチにお堅い委員長をクソビッチでガバガバにお緩いスケベ人間にしてやるぜ!!
メロンの恨みは末代まで続くのだ!
「委員長、ちょっといいか?」
「なによ。また変なやつ?」
「猫のアプリ」
「ええっ!? 猫ちゃんの!? どれどれ!!」
委員長は大の猫好き。猫ともあれば目の色を変えて飛んでくるのさ。チョロいチョロい。
もはや当たり前のように俺の家に来て家庭教師面している委員長と、二人きりになるのは日常茶飯事とも言え、アプリを打ち噛ますのは至極簡単だ。
「ここを押すと、だな」
「うん、ココね」
委員長は何の迷いもなく催眠アプリのボタンを押した。
「……ッ!!」
その瞬間、電流が走ったかのように委員長の体が少し跳ねた。
そして、委員長の目つきがトロンと緩んだ。
勝った! 俺の勝ちだ……!!
「滝沼クゥン……」
「お、おう……」
委員長の声に、妙な色っぽさを感じた。委員長のくせにメスみたいな声出しやがって……!!
「明日の保健体育……予習したかしら?」
「……?」
なんだ? 予習復習だなんて、いつもの委員長と同じじゃ……。
「私の体で予習しないかしら……?」
「──!?」
ありえない!!
絶対にありえない!!
いつもの委員長ならそんなことは地球が何回回ろうが絶対に口にしない……!!
イェス!
イェス! イェス!
イェス! イェス! イェス!!
「なにブツブツとイェスイェス言ってるのぉ? 私、滝沼クンとなら保健体育の実習も予習復習再試験も大歓迎よ♡ そ の か わ り♪ 御セッ〇スは1日1時間まで。いいわね?」
「……」
そっと、ティッシュを引き抜き鼻に詰める。気を抜くと鮮血が吹き出そうなので、深く考えたり思い出したり、これから起こり得るであろう未来を想像したりしてはいけない。
しかしアプリのお陰でスケベ人間になったのは実に喜ばしい事だけど、お堅いのはそのままなのは、ある意味委員長らしくて良いのかもしれない。
「ねぇ、滝沼クゥン。わたしお腹空いちゃったな」
「お、おうおう」
「ハンバーガー食べたいな」
「おおうおうおう」
「ね、行こ?」
「おうおうおうおう」
なんたる事態! あの委員長がハンバーガーを食べに行こうだなんて!!
俺は秒速で支度をし、委員長と近くのハンバーガー店へと向かった。
「い、委員長。腕とか組んでもいいんだぜ?」
「お外でそんなこと恥ずかしいわ。フォークダンスなら良いわよ♪」
「今時フォークダンスなんて原始人でもしないって!」
ハンバーガーショップへ着くと、俺と委員長は一つずつハンバーガーを注文し、ポテトを二人で一つ食べることにした。お財布事情的にセットは変えないのだ……!!
「あらあら、しっかり食べないとダメよ?」
と、委員長がポテトをつまみ、俺の口へと向けた。これが伝説の【あーん】とやつなのか……!?
「あ、あー……ん」
「ふふ、おいしい?」
「お、おー……ぅ」
おかしい。まるで味がしない。
片肘突いた委員長ばかりに意識が向き、まるでフワフワと俺の魂が空気に漂っているみたいだ。
「ん、おいしい」
ハンバーガーをかじる委員長の仕草の一つ一つが、俺の脳細胞を確実に死滅させにきている。
あれか、これが艶めかしいってやつなのか!?
「あー、おいしかった」
気が付けばあっという間に食べ終わり、委員長がチラリと俺の方を向いて微笑んだ。
「い、行こうか……」
「ええ」
そうか。俺達はこれからするんだな。
ついにデビューを果たす時が来たんだな!
俺は嬉しさと緊張で頭が真っ白けになってしまった。緊張を紛らわす為に、少しだけフォークダンスを踊ることにした。
「フォークダンスってどうやるの?」
「んー、待って。スマホで調べるから。どうせやるならちゃんとやらないと、ね?」
んー。お堅い。
家に着き、部屋に戻ると、緊張で吐き気を催しそうになる。あれだ、心霊スポットに行って謎のオッサンがゲーゲー言ってるアレだ。オッサンよ、今からアンタの気持ち、分からなくもないぜ……。
「委員長……」
「滝沼クン♡」
もう二人の間に言葉は要らない。
俺は委員長の肩に手を置いた。
──ピピピピ
「ん?」
委員長のスマホのアラームが鳴った。
「残念、1時間経っちゃったわ。勉強はおしまい♪」
「ええっ!?」
突然の打ち切りに否応無しの不満の声をあげた。
こんな所で終わるなんて酷い!!
「まだ部屋に来て五分も経ってないぞ!?」
「ふふ、女の子の御セッ〇スはデートの時から既に始まってるのよ? 覚えておいてね♪」
そんな……!!
そんなんアリかよ……!!
「せっかく良い所なのに……!! あと五分、な!?」
「だーめ♪」
「うおおおお……!!!!」
やりきれなさから、ベッドにダイブしてゴロゴロとのたうち回る。
「大丈夫♪ セーブすればいいじゃない?」
「どういう原理!?」
「じゃ、わたしはそろそろ帰るわね。おやすみ滝沼クン♡」
投げキッス一つを残し、委員長は帰ってしまった。
放置プレイをされたような、やりきれない感情が湧く。
まあいい。明日は土曜だ。
明日こそデビューを果たしてやるぜ!
「……部屋掃除しておこ」
俺は夜遅くまで部屋を掃除した。
「……き、昨日の事は忘れなさい」
次の日、朝早くから委員長がやって来た。
その顔は今にもお湯が沸きそうな程に赤く熱を帯びており、とても恥ずかしそうに俯いたり横を向いたりと落ち着きが無い。
「委員長?」
「昨日の事は忘れなさい!!」
側頭部を思い切りどつかれた。今のでthisかinが落ちたぞ。
──てか、催眠アプリの効果はどうした!?
見る限りいつもの怒りっぽい委員長じゃないか!!
まさかもう解けたのか!?
個人差あり過ぎだろ!!
「委員長、可愛い猫の画像があるんだが」
「……見るわ」
顔は赤いまま、スマホを受け取る委員長。
解けても同じ手で催眠アプリを打ち噛ませば良いのだ。楽勝にも程がある。
「なによ、何もないじゃない……」
「あれ?」
催眠アプリを起動させても、委員長はいつもの委員長のままだ。
もしかして……一回限り?
高かったのに!!
親父のクレジットカードなのに!!
……まあいい。許せ親父よ。青春の代償は高く付くのが相場だ。
「…………」
委員長は何も言わず、横を向いたまま俺のベッドに腰掛けた。
昨日の事を覚えてはいるようだが、迂闊に聞くことは死を意味しそうで恐ろしい。
「勉強……しなさいよ」
「お、おう」
なんだか急にしおらしくなった委員長に何かを言い返す気力も起きず、とりあえず言われた通りに英語の教科書を開いた。
「言っとくけど……勉強しない人は嫌いよ」
「え?」
「べ、勉強が終わったら……」
委員長の顔が更に赤く染まった。既に耳を通り越して首までも赤い。
ここまで恥じらう委員長を見るのは初めてで、思わず緊張が走った。
「勉強が終わったら……1時間だけ…………」
なんだ? 委員長爆発するのか?
すげー真っ赤で見ているこっちが恥ずかしいぞ。
「昨日セーブした所から…………」
「あ」
頭の中のムエタイ選手が、回し蹴りで俺のやる気レバーをMAXに入れた。全身に活力が漲るのが分かる!
さっき落ちたthisを片手で広い、ありとあらゆる英単語を頭の中へと押し込んでゆく!
「うおおおおッッ!!!!」
ひたすらに勉強をした!
人生で初めて四時間勉強した!
「あ、あーん……」
昼飯のチャーハンを委員長が【あーん】してくれた。俺は死んだ。
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」
その後も五時間勉強した。
委員長も俺の隣で勉強をしている。
「あ、あーん……」
無心で口を開け、夜飯を食った。
「……お疲れさま」
「も、もう疲れた……」
もう勉強は無理だ……。
朝から全力疾走で走り抜けたから、さすがにこれ以上は……。
頭の中のムエタイ選手も回し蹴りで足を痛めて湿布を貼ってうずくまっている。
「……委員長」
「な、なによ……」
「セーブは残ってるか?」
「……お気の毒ですが──」
「ふえっ!?」
ガックシと力が抜けた。
「──残ってるみたい……」
「あ」
ムエタイ選手が起き上がり、痛めた足もいとわずに回し蹴りで俺の別なやる気レバーをMAXまで入れた。
「い、1時間だけよ!? タイマーかけるからね!?」
「お、おう……!」
「言っておくけどエッチなのは無しよ!? フォークダンスくらいにしてよね!」
「お堅いのな」
「それから学年上位に入らないと許さないから……!!」
「善処する」
「や、約束よ……」
「おう」
そっと委員長の肩に手を置いた。
もう二人の間に言葉は要らない。
──ピピピピ
「……え?」
「……ごめん、帰る時間」
「えっ!? ええっ!?」
「また明日ね」
凄い恥ずかしそうな顔で、委員長がキスをしてくれた。投げじゃない。直キッスだ。
「……勉強しよ」
俺はその日寝落ちするまで勉強をした。
次の期末、学年二位に急浮上した俺は、満面の笑みで委員長に結果を見せた。ちなみに一位は委員長だ。
「どや?」
「これで子どもにもちゃんと言えるじゃない?」
「おう」
「……い、1時間だけだからね♡」
その日は別な意味で凄かった。
さすがにこれは子どもには言えないだろう。