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夢ふたつ

作者: 水無飛沫

車には妻と、見知らぬ男が乗っていた。

その車へ近づいていき、どういうことか、と問いただす。

「私はあなたのことが好きなのよ? でも、あなたは何も私に伝えてはくれない」

そう言って、男の手を握る妻に、自身の心が凍っていくのがわかる。

全部あなたのせい。そう告げるような妻の目に、俺は何も言い返すことができなかった。


未だ妻を愛している。

けれど、妻の心はもう俺には向いていない。


そのことが悲しくて、ふらりと街へ出る。

気が付くと、そこはどこかのパーティー会場らしい。

席に座り酒を飲んでいると、場にそぐわぬ最悪の表情を心配してか、女が一人隣に座った。

ぽつりぽつりと、身に起こったことを彼女に話す。

「かわいそうに。あなたは優しい人なのに」

彼女が慰めるように俺の腕に手を添える。

そこでやっと女を見る。ふくよかな身体に白いドレスを身に着けた、どこにでもいそうな女であった。

当たり前の幸せを築けそうで、少しだけ好感を抱く。

「連絡先を教えてもらえるかしら?」

言われてスマホを取り出すと、あっ、という顔をして彼女が席を立った。

「ごめんなさい、鞄に入れっぱなしだったわ」

いそいそと席を離れる彼女。

特にやることもないのでそのまま彼女を座って待つことにする。

すると、ヌッと背後から2本の腕が伸びてきたかと思うと、しっかりと抱き寄せられる。

「お前は誰にも渡さないわ」

視線を右に向けると、そこには女の顔がある。

人間ではない特徴が、そこかしこにあった。

「名前は……?」

問いかけると、つまらなそうに「和氣」とだけ答えた。

続けて「どうせお前は忘れてしまう」と寂しそうに笑った。

その表情に引っかかるものがあって、どうにかして覚えていようと思う。

メモ帳を探し、ペンを探し、なんとかその名前を留めようと努力をするのだが、

上手く文字を綴ることができない。

……消えてしまう。記憶も女も消えてしまう。焦燥感だけがどこまでも木霊していた。



目が覚める。

右側にある襖から何者かの気配を感じる。

静寂と耳鳴り。エアコンすら音を立てぬように気を遣っているようだった。

金縛りというわけではないが、体を動かす気が起きない。

どこかで期待しているのかもしれない。

そのまま身じろぎもせずにいると、気配がどんどんと濃厚なものになっていく。

それは枕に手をかけると、徐々に抜き取っていく。

枕から頭が落ちる瞬間、柔らかな手の感触に抱きとめられる。

目線を上げると、そこにいたのは女であった。


見知った女。この瞬間をずっと待ち焦がれていた。

どうしようか迷ったものの、組み伏して抱きしめる。

何度も接吻を繰り返しながら、これもまた夢なのだとどこかで理解する。

2人によって生み出された妙に生々しい音も、服の質感、肌の柔らかさも、全てが夢なのだ。


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