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第9話 キミ、危ない薬とかキメてませんか?

新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。


『鋼の精神を持つ男――になりたい!』 https://ncode.syosetu.com/n1634ho/ 月水金0時投稿予定。


『相棒はご先祖サマ!?』 https://ncode.syosetu.com/n1665ho/ 火木土0時投稿予定。


 翔太郎は食事を終え、メイドが用意してくれたこちらの世界の服に着替える。

 メイドが着替えを手伝おうとしてくるので断ろうとしたが、『郷に入っては郷に従え』の精神と『これは試練だ!』という自己暗示で乗り切る。


 無言のままだと流石に照れくさかったので情報収集のついでに会話を試みた。


「この服、この国じゃ一般的なものかな? あ、名前聞いてもいい?」


「はい。私はアリッサと申します。ショータロー様のお世話を任せられております。勇者様のお世話ができて大変光栄です」


「あれ? オレの名前知ってるの?」


「はい。この館で働く者には通達されております」


「そっか。あ、それで、この服って……」


「あ、はい。そうですね、下級貴族でしたら日常用にしても問題ない品質です。平均的な平民であれば晴れ着として使えるでしょうか」


「へ、へえ……結構高級なんだ……」


 バリバリの庶民である翔太郎は『郷に入っては郷に従え』の精神で頑張ったが、身体が強張るのは避けられなかった。恐る恐る既に身に着けた服を触ってみる。

 流石の異世界も化繊はないと思われるので天然繊維だろうが、コットンよりも光沢がある感じがする。開襟シャツにストレートのズボン、革のショートブーツ。しかもボタンにベルトのバックルまであるのでほぼ現代地球のデザインと変わらない。


『誰だ、ファンタジー世界は中世ヨーロッパレベルだって言い始めたヤツは!』


 責任転嫁的問題発言は胸に秘め、翔太郎は身支度を整える。


「本日は一階の大会議室で歴史の座学を予定しております。主席講師は王都中央学院・学院長のマイコル様になります。他に魔法学や神学、政治学などの講師陣も同席なさいます」


 メイドのアリッサは翔太郎にジャケットを着せながら、まるで秘書のように説明する。


「へえ、座学があるとは聞いてたけど、何かすごい顔ぶれだね」


「はい。今日は第一回の座学になりますので専門的になりすぎず、広く浅く、勇者様たちにこの世界の成り立ちを知ってもらいたいというのが狙いです」


「へえ、しっかりとカリキュラムが組まれてるんだ。この世界の常識を学ぶ講座はあるのかな?」


「常識……でございますか?」


 アリッサが腑に落ちないという顔をする。

 それはそうであろう。常識とは学校の授業で専門に習うものではない。物心ついた頃から親とのコミュニケーションを始め、近所の子供同士、保育園、小学校とだんだん活動範囲を広げながら実体験とともに身に着けていくものなのだから。

 活動領域が違えば常識も違うことは間々ある。自分の常識他人の非常識と言うヤツだ。外国に行ってトラブルになるのもほぼこれが原因だ。

 ましてやここは外国どころか異世界。物理法則ですら地球と違っていても不思議には思うが納得はできると翔太郎は考えている。


「そう、常識。長さとか時間とか、お金の単位だとか。物価や庶民の平均収入、税金の払い方なんかも全然知らないんだ。それはまだマシで、必要な時に聞けば済むけど、マナーとかタブーは知らないうちに失敗すると大変だからねえ」


 知っていて当然とされていることでも、知らないと自覚していれば問題は少ない。特に現代ではインターネットのおかげで調べやすくなっている。

 だが、知らないということがわかっていないと失敗するか偶然誰かに教えてもらうかまでは知らないままだ。

 特にローカルなマナーやタブーについては外の人はお互い知らないことが多い。

 例えば、日本では家に入る時に靴を脱ぐ。当たり前に思っているのは日本人だけ。グローバルな昨今日本在住の外国人や日本好きの旅行者は学習してきていると思うが、それ以外は意外と知られていない。というより興味を持たれていない。

 更に問題が大きいのがタブー。

 例えば贈り物。日本では入院の見舞いに鉢植えや菊の花はダメ。これを知っている外国人がどれほどいるだろうか。

 中国語圏では掛け時計や置時計は贈り物としてはいけないそうだ。これは中国語の発音に関係し、時計を贈ることを『送鐘』と言い、『送終』と発音が同じで『御臨終・葬送』を意味するからだという。中国語すら知らない人は思いもよらないだろう。

 これはほんの一例。

 宗教上や身分制度上のマナー・タブーになると一体どれだけ在ることか。

 自分の身を守るためにも知ろうと努力する翔太郎であった。


「わ、わかりました。上役に相談の上対処します」


「ええ。是非お願いします」


「で、では会場まで御案内いたします」


「よろしく」



 アリッサに連れられて翔太郎は大会議室に入った。昨晩のステータス検査を受けた部屋よりも広くてテーブルも大きかった。

 そこには既に不良5人組が片側に座っていた。後ろには同人数の騎士が立っていた。警護というよりも見張り役なのだろう。

 講師たちはまだ来ていないようだ。


 オレンジリーダーと目が合う。


「あれー。昨日のおっさんじゃん。元気ー? 昨日はオタノシミでしたねーですか? 何メイドさん連れて来てんの? ずっりーじゃん。俺らなんて騎士よ、騎士。交換してよ」


 先ほどまでマナーについて考察していた翔太郎にとって、礼儀も何もないこの若者の態度はよっぽど怒鳴りつけてやろうかと思うものだった。

 まず謝罪が先だろう。そうサラリーマン経験者は考える。


 だが、親でも教師でもない自分が何を言っても効果が無いどころか逆に恨まれる恐れすらあるので、ここはぐっと堪えた。


「……おはよう。キミ達も元気そうで何よりです。これからの勇者としての活躍に期待しています。頑張ってください」


 抑揚のない、誠意の篭らない挨拶の後、翔太郎は不良たちから椅子一つ空けて座った。


「あっれれー? 何かフキゲンー? なに? 昨日のこと、まだオコなわけ? チョーうざいんですけど? もう謝ったじゃん。おっさんのせいで騎士のおっさんにも怒られたワケ、責任取ってくれるよな? 何だよ! いいだろ、おっさんの隣に座ったって」


 オレンジリーダーが見張りの騎士の制止を押し退けて翔太郎の隣に座る。

 それよりも驚いたのは、彼の中では既に翔太郎に謝罪したことになっている、ということだ。勿論翔太郎には覚えがない。


 そしてもう一つ。彼の人となりなど知る良しもないが、昨日の襲撃時に言葉を交わした時よりも明らかにテンションが高い。まるで危ない薬でも使ったような……

 こんな場合、否定的な態度は相手を激昂させてしまう。いくらこちらが正論だったとしてもだ。前の会社のクソ課長がそうだったな、と翔太郎は思い出した。


 謝ったと本気で思い込んでいるなら、業腹だが、実害もなかったので受け入れてやった方が今後の被害が少ないかもしれない。本当に腹が立つが。


「……ええと、謝ったのならもう気にしませんよ。これからは仲良くやりましょう」


「何だよ、話がわかるじゃん! じゃあ、俺が怒られた責任も取ってくれる?」


「……どのように、ですか?」


「現金……は日本円なんか今更いらねえなあ。俺ら勇者だし、ガッポリ稼げるからな。じゃあ、おんな! 後ろのメイドさん貸してくれよ。今夜さあ」


「……彼女は私の物ではありません。恋愛なら自由ですが、女性を物扱いすると、また騎士団長に怒られますよ」


「なんだよー! けちー!」


「ところで、キミ、危ない薬とかキメてませんか?」


「お、わかるか? おっさん。おっさんもヤル? 分けてやってもいいぞ?」


 マジかこいつ、と翔太郎は驚いた。

 アリッサから目を逸らさせるためイヤミ半分で聞いただけなのにズバリ的中してしまうとは。しかも翔太郎を悪の道に引き入れようとしている。


「……勇者がラリってるとか、ヤクの売人してるとかって大問題じゃないか?」


「アハハハ。うそ、うそ。昨日おっさんから金もらって合法ドラッグ買うつもりだったケド、結局買えてねえよ。マジで」


 まさかの犯行目的の自白。翔太郎は異世界から日本の青少年の行く末を心配した。


「じゃ、じゃあ、何でそんなにテンションが高いんだよ。徹夜明けか? マラソンでもしてランナーズハイにでもなったか?」


「惜しい。俺ランナーじゃなくて勇者じゃん。ユーシャズハイ?」


「は? 何だって?」


「だから、勇者のスキル、ギフトってヤツ。おっさんもあるだろ? 俺のはねぇ、『戦意高揚』って、対象の戦意を高揚させるんだと。アハハハ、そのまんま。今はまだレベル1だから一人にしか掛けられないけどレベルが上がると増えるってさ。

 試しに自分に掛けてみたら、これが気持ちイーのなんのって。どう? おっさん、掛けてやろうか? ただでいいよ」


「結構だ」


「遠慮シーだな。テンション上がるのに」


 翔太郎は頭を抱えたくなった。胃も痛くなった気がする。

 神の与えたスキルがこんな使い方をされるとは。スキル名は大層勇者っぽいのに。

 これでまた、神がワザとやっているのか、それとも素でポンコツなのかがわからなくなった。


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