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第3話 災難? どれのことだろうか?

新作始めました。


二作品あります。是非よろしくお願いします。


初回連投。4/2、第2話投稿、4/3、第3話投稿予定です。


『鋼の精神を持つ男――になりたい!』は、月水金0時投稿予定。


『相棒はご先祖サマ!?』 https://ncode.syosetu.com/n1665ho/火木土0時投稿予定。


「助けてくれ! 強盗だ!」


 強い光で目が眩んだものの、体感で数秒後には男の視力が戻った。

 そして男にとって幸いなことに不良たちも目が眩んだらしくその間攻撃はなかった。

 更に男は不良たちの囲みの外側に人影を見つける。

 救援だ! そう考えるのは当然で、男は不良たちが混乱している間に無理矢理金髪ABの間を通り抜け、人影に近づいた。


「助けて、えっ?」


 警官だと期待したが違った。

 それは仕方がない。

 では帰宅途中のサラリーマンか。

 それも違った。


 男が縋った相手は金属の西洋鎧を身に着けていて、どう見ても日本人には見えなかったのだ。


「ぷ、プリーズ! こーる、ぽりーす!」


 この際外人のコスプレーヤーでも構わないと、男は世界中どこでも何とか通じそうな英単語で救援を求める。


「囲め! 武器を取り上げろ! 抵抗するなら拘束しろ!」


 男は呆気に取られた。鎧の外人の口から出た言葉が日本語だったからだけではない。気付くと回りには似たような鎧姿の男たちが何人もいたからだ。


 いつの間に、と考えるうちに、周りを見渡す余裕ができて更に驚くことになる。


「……ここはどこなんだ?」


 男と不良たちは間違いなく都内の某公園にいたはずだ。

 だが今いるのは室内。

 パッと見ると床も天井も壁もレンガか石でできているような広い部屋だ。そして照明も蛍光灯やLEDとは感じが違う、火を灯すタイプのように感じられた。


 カランカランと音がする。

 男が見ると、不良たちは自分たちの倍ぐらいの鎧姿の外人たちに囲まれていて、あまつさえ西洋剣らしきものを突きつけられては大人しくバットを手放すしかなかったようだ。


「な、何なんだ、お前ら……」


 先ほどまでは威勢のよかったオレンジリーダーは引き攣った声を出している。


「どうなっているのでしょう? 勇者が強盗などとは? しかしご神託に間違いはないはずですし、勇者同士のいざこざでしょうか? それもそれで問題が……」


「司祭様、これからどうしますか? 陛下への謁見は取りやめるべきでは?」


 広い石室の中には鎧姿の人間ばかりではなく、男にとってもわかりやすいような、一目で『神父さん』だと思われる格好をした者もいる。

 偶然ではあろうが、男が助けを求めた鎧男は責任者的立場らしく、『司祭』と呼ばれた宗教関係者と話し合っている。


 武器らしき物を持っていない男はそれほど警戒されていないようで、責任者の側に立ったまま放置されていた。それゆえ責任者同士の話が漏れ聞こえてくる。

 その中には、普段なら笑って聞き流せる程度の、今は目を瞑って耳を塞ぎたくなるようなワードが含まれていた。


『勇者』『御神託』『陛下』などである。


「まさか、そんなこと、あるわけ……」


 男は自分の想像が信じられなかった。

 男は所謂社畜である。余暇らしい余暇などなかった。一人暮らしの男がハマりそうなネットゲームも纏まった時間が取れず給料を課金に注ぎ込まずに済んだのは不幸中の幸いだ。そんな男の趣味は通勤時間や外回りの合間にスマホでネット小説を読むことぐらいだった。

 元から社会に適応できていないと自覚しつつあったので『異世界もの』は男の心の癒しでもあり、その手の知識は十分得ている。


 その知識が男に訴えている。

 ここは異世界。これは勇者召喚なのだと。


「あ、あの! これは一体どういう状況なんでしょうか。説明していただけないでしょうか」


 男は状況打破のため声を掛けるしかなかった。

 宗教関係者と話し合っていたり部下に指示を出していたりしていた騎士の責任者っぽい鎧男は、話を中断させられたことに対し特に不満そうな態度も取らず男のほうに顔を向けた。


「ん? ああ、お前も勇者候補か。もう少し待て。場所を変えてから説明してやる。ああそうだ、お前とあの5人は仲間か? 知り合いか?」


「い、いえ。仲間ではありませんし知り合いでもありません。先ほど出遭ったばかりで、金を寄越せと襲われました」


 男に不良5人組を庇う理由は欠片もない。話しそびれるとまたぞろ濡れ衣を着せられかねないのでありのままを説明する。

 幸い男の発言は受け入れられることになる。


「は~、やっぱりか。召喚されてきた時お前が囲まれていてあいつらが金棒を振り上げて構えているのは俺たちも見ていたからな。多対一の戦闘訓練だったなんて誤魔化しも無理だな。せめて仲間同士の揉め事だったなら無視することはできたんだがな。は~、問題が大きくなったな。


 司祭さま、これは、部屋は別々にした方がよろしいでしょうな」


「ええ。それならこちらの方は私が担当しましょう。騎士団長殿にはあちらの5人を任せてもらってもよろしいでしょうか?」


「……まあ、仕方ないですな。予定通りといえば予定通りですからな。

 おい、そこの5人は第3会議室に連れて行け。ああ、お前とお前、司祭様の護衛に就け。俺は魔術師を手配し直してから行く。さあ、動け!」


 鎧男はやはり騎士団長であった。

 騎士団長の指示でテキパキと動き出す騎士たち。

 連行される不良たちは恨みがましい表情で男を睨みつけていた。


「さあ、あなたは私が案内しましょう。どうぞこちらに」


「は、はい。わかりました……」


 ここで同行を拒んでも意味がないと、男は素直に連行されていく。

 数人の宗教関係者が前に立ち、後ろに騎士二人が続いた。


「あ、あの、ここはどこなんですか?」


 後で説明すると言われたが、男は聞かずにはいられなかった。


 司祭も特にもったいぶる様子もなく答えてくれた。

 ただ、男の質問の仕方が漠然としたものであったため答えのほうも男が知りたかった内容ではなかったが。


「ここは王宮にある普段は使われていない建物です。確か第五宮殿でしたかな? 先ほどの部屋は警備の都合で選んだ大広間です。本来は御神託による勇者召喚ですから大神殿で行いたかったのですが、結果的にはよかったようです。災難でしたな」


「ええ、まあ……」


『大掛かりなイタズラじゃなければ、ここが異世界なのは決定的だな。

 災難? どれのことだろうか?

 不良たちに襲われていたことか。勝手に異世界転移させられたことか。それとも……』


 異世界転移に関しては、男が読んだことのあるネット小説には、勇者召喚させられた人物が元の世界に帰せと喚く描写が多々見られた。

 確かに、日本での生活が順風満帆であったならばその環境を取り戻すのに必死になるだろう。

 翻ってこの男の場合、生活環境自体がブラックなので未練も何もない。強いて言えば病気治療についてだが、今は生死に関して妙に達観しているのでやはり問題はない。

 それどころか、先ほどの騎士団長の発言の中に『魔術師』というワードを聞き逃さなかった。これはネット小説どおり『治癒魔法』や『神聖魔術』、或いは『エリクサー』や『ソーマ』など癌など簡単に治せる方法があるかもしれないと希望さえあるのだ。


 そして不良に襲われた事に関しては、あと少し召喚のタイミングが遅かったなら、男は大けがを負った、或いは殺されていたかもしれないので感謝している。欲を言えば、不良たち5人でいたときに召喚してくれれば襲われることもなかったのだが、そこは『神』にしかわからない理由があるのだろう。今さら男があれこれ言っても始まらない。

 ただ、将来的な懸念はある。

 同じタイミングで勇者召喚された以上あの不良たちとは今後も最低限の付き合いをしなければならないかもしれない。

 間違いなく逆恨みなのだが、あの不良たちが友好的に接してくることはないだろうと男は思っている。


「えーと、勇者についてなんですが……」


「着きました。詳しくは中で説明します。さあ、どうぞ」


「は、はい。わかりました……」


 召喚された大広間と同じ建物内をしばらく歩かされた男はある部屋へと招き入れられるのだった。



次話4月4日月曜日0時投稿予定です。

以後この作品は作者がエタらない限り毎週月水金0時に投稿します。


【作者からのお願い】

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