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第10話 講義がはじまる

新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。


『鋼の精神を持つ男――になりたい!』 https://ncode.syosetu.com/n1634ho/ 月水金0時投稿予定。


『相棒はご先祖サマ!?』 https://ncode.syosetu.com/n1665ho/ 火木土0時投稿予定。



「なあ、なあ。おっさんのスキル教えろよ~。俺も教えたんだしよ~」


「……後でな。今胃が痛いから……ほら、偉い先生たちが来た。自分の席に戻れ」


「は~い……って、学校じゃねーだろうよ」


 翔太郎が神の御業とやらの理不尽さに頭と胃を痛めていると隣の不良リーダーがしつこく絡んでくる。

 幸い予定の講師陣が入室してきたので有耶無耶にできた。オレンジリーダーも護衛の騎士たちが睨みを利かせると渋々元の席に戻っていった。


 講師陣の中に翔太郎が知っている顔があった。

 宮廷魔術師団総長と騎士団長である。おそらくは単なる付き添いなのだろう。

 総勢8人が翔太郎たち勇者候補の対面に座る。助手らしき人たちもいるが、講師たちの後ろの傍聴席のような場所に座っていた。


「昨日も会ったな。宮廷魔術師のフェロメールじゃ。今日からおぬしたちにこの世界について学んでもらおうと王国が誇る学者たちに集まってもらった。特にそこの5人、しっかり話を聞くんじゃぞ!」


 講義に先だって魔術師総長からの訓辞があった。

 不良5人組には名指しで釘が刺される。

 金髪ABCDは嫌そうな顔をしていたが、オレンジは相変わらずヘラヘラしている。


「え~! 勉強ヤなんだけど~。それよりダンジョン行きたい」


「「「「ダンジョン! ウェ~イ!」」」」


「小僧どもが! 鍛えもせんで甘えたことを抜かすな!。今の貴様らでは一層目で死ぬのがオチじゃ。ダンジョンに行きたかったらここで腕も頭も鍛え直すことじゃな」


「え~? じゃあ、勇者辞めようかな~?」


「何を今更! ……まあよいわ。辞めたくば勝手にせい。じゃが、ここから一文無しで放り出すぞ。チキュウとやらにも帰れんし、そうじゃな、ダンジョンの探索も許可せんし、冒険者にも登録できなくなるじゃろうな」


「なっ! ずりい! 脅迫するのかよ!」


「この程度が脅迫であるものか。おぬしらが何もせんのなら、わしらもおぬしらに何もしてやらんだけのことじゃ。じゃが、勇者として功績を挙げれば報酬は思いのままじゃ。貴族になって領地も好きなだけやるぞ」


 激昂しかけた老魔術師は一呼吸の間を置いて懐柔策に出た。飴と鞭、メリットとデメリットを非常にわかりやすく、しかも大袈裟に説明した。


 オレンジリーダーはあの歳にしては多少悪知恵が働くし口も達者なようだが、流石に老練な宮廷魔術師には勝てないようで、ついには陥落した。


「うう~っ。わかったよ。やればいいんだろ、やれば」


「「「「え~、ケンちゃん……」」」」


「でも報酬は絶対もらうからな! ダンジョンにも行くからな!」


「わかっておるわ。真面目に働いたらじゃがな」


 翔太郎はホッとしていた。

 不良たちがゴネるにしても『拉致問題』を持ち出されたら泥沼化する、と考えたからだ。


 ファンタジー作品で多用される異世界転移の一つ『勇者召喚』、これにも複数のパターンがある。『悪徳召喚』というジャンルもあるが、実は『悪徳』と『召喚』は全く別のファクターであり、重要なのは召喚対象者に事前に同意を確認しているかどうか、なのである。

 対象の同意がないのなら間違いなく拉致であり、ファンタジーの場合拉致する方法が『魔法』というだけで、某北の国で『労働者が足りない・先進国の技術を学びたい』『よし、外国人を拉致ってこよう!』となって工作員が無理矢理攫っていくのと全く同じ理屈である。


 だが、被召喚者が拉致被害者として騒ぎ立てるのは悪手である。大使館もない、国交もない、電話はおろか手紙で連絡する方法もない。訴える相手が違うのだ。言うなれば誘拐犯に助けを求めるようなものである。

 実行側にも『お国のため・世界のため』という大儀名分があり、そのまま相手の責任を追及しているとお互いに悪感情が増加し、ついには実行側が更なる実力行使に出る可能性がある。最悪処刑、よくて強制労働・奴隷である。

 ならば一時表面上は妥協し、相手側と友好関係を模索するのが建設的ではないだろうか。そうすれば少なくとも『客人』扱いにはなるだろう。悪くても『用心棒』というところだ。

 妥協とは事後承諾すなわち同意であり、その後為政者の態度が悪ければ『悪徳』に繋がることになるが、前述の通りそれは別の話だ。


 翔太郎は上記の考察に加えて、召喚されたその日の内に『この世界に骨を埋めよう』という気になっている。故に、この場ではどうしてもフェロメール側の立場でものを考えてしまうのだ。

 自身は病身で勇者としては役に立たないとも思っており、ならば若者5人に勇者として頑張ってもらいたいとも考えている。


 であるから、フェロメールが首尾よく説得できたことに賞賛を送りたい気持ちだった。

 フェロメールとふと目が合い、翔太郎は笑顔で頷く。

 フェロメールも顎鬚を弄りながら苦笑で返したのだった。


 不良たちが少し大人しくなって、魔術師総長の話が再開される。次は自己紹介だった。

 今後知識面で何かとお世話になる人たちである。翔太郎はしっかりと挨拶を交わしながらメモしていた。

 メモといえば、植物紙と万年筆をメイドのアリッサが用意してくれていた。この世界は羊皮紙と羽ペンレベルではないらしい。これらが王宮御用達の超高級品なのか、それとも一般に出回っている日用品なのかで文明レベルが変わってくる。

 非常に面白いテーマだが、翔太郎は、いずれわかることだとメモに専念した。


 しかし、又気付いたことがある。

 始めは日本語で書いていたものが、いつの間にかこちらの世界の文字を書くことができていたのだ。翔太郎の脳裏に単語・構文がローマ字に近い表音文字として浮かんでくるのだ。

 ステータスを見られない翔太郎にとっては確認することができなく、もどかしくはあるのだが、異世界ものでよくある設定『異世界言語』のようなスキルなのだろうと考え、それ以上の考察は必要ないと判断した。

 が、またまた思い出してしまう。昨日異世界転移してきた時に既に現地人と会話が成立していたではないかと。そして苦笑とともにメモを続ける。


 新たに紹介された講師陣は代表者が6名。見た目は40~50代。

 王都中央学院・学院長のマイコル・シャクソン

 王都魔術学院・学院長のヴェッセル・バンダン

 王都騎士養成学院・学院長のアナトル・ノエミ

 王都中央学院・神学課主任のジェラール・デプイ

 王都中央学院・経済学課主任のロック・マリオン

 王都中央学院・政治学課主任のエウゼピオ・アルマニ


 三大学院と呼ばれる一流の教育機関の代表者が集まっている。特に王都中央学院は総合大学のように幅広く人材を輩出することで文官志望者に人気のようだ。

 魔術学院と騎士養成学院の代表者は1名ずつだが、宮廷魔術師総長と騎士団長以下団員多数なのでバランスは取れているのだろう。


 今日はほぼ顔合わせ、挨拶程度なのでこのメンバーだが、勇者の学習進度如何で講師の人選は変わるそうだ。確かに毎回学院長が来る必要はないだろう。


 ちなみに不良5人組の名前も今回翔太郎の知るところとなる。お互い様だが。

 オレンジリーダーは明日見健二ケンジ・アスミ

 金髪Aは井上海斗カイト・イノウエ。以下B、臼井大樹ダイキ・ウスイ。C、遠藤竜也タツヤ・エンドウ。D、大久保蓮レン・オークボというらしい。


 翔太郎は特に興味はなかったが今後も塩対応すると絶対に揉め事になると思ったので一応メモしておいた。そのうち髪の毛も染色部分がなくなってオレンジでも金髪でもなくなるからでもある。

 面白かったのは、オレンジリーダーよりも金髪Aの方が勇者っぽい名前だったことだ。翔太郎は密かに笑いを堪えていた。


 さて、講義の本番はこれからである。


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