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ねえレクト君。計算したら、君100万人分くらい貢献してるんだけど……

 どうせ、『僕はいらない子になったんだ!』みたいな馬鹿なことを考えているのが透けてみるが、それはとりあえず置いておく。


【000(アイン・ソフ・オウル)の栄光 ~「雑用なんて外注で十分だ」と追放された、戦闘力0、魔力量0、想像力0の少年は、補助チートを駆使して最高の仲間と栄光のギルドを作る~】


 ……というタイトルを小説投稿サイトで見つけたとして、それをタップするかどうかは個人に任せることになるが、少し、この物語のあらすじを説明させてくれ。


 大国である『アークフォルテ王国』に拠点を置き、世界で三つしかないSランクギルド、『レジェニウム・パレス』で雑用係を務める少年、『レクト』は、ある日、ギルドマスターである『ズート・プレシャー』から追放を言い渡される。


 雑用係として三年間頑張ってきたレクトだったが、数多くの専門店が軒を連ねるようになり、『雑用なんていらねえよ』と追放された。


 『とある事情』により、絶望しながら街を歩くレクトだったが、ある日、一人の魔法剣士の美少女に出会う。


 圧倒的な才能と美貌を兼ね備え、世界を旅する少女だが、圧倒的な実力とは裏腹に、致命的なほど『制御』というものができなかった。


 成長速度が制御速度を完全に上回り、自分の才能に自分が潰されることを確信し、自らを支えられるものを探して世界を旅しているという。


 そんな少女と出会ったレクトだが、『自分にできることは何もない、この程度ですよ』と言いつつ……。

 スキルの中で魔力を使わずとも発動できる【初期配布みたいなヤツを十個組み合わせ】て、少女が体内で抱えている『歪な部分』を全て修復。


 感激した少女はレクトの顔をその巨乳に埋めるように抱きしめる。

 その後、レクトは少女から『栄光のギルドを作る』という目標を聞いて賛同し、活躍していく中で次々と自分を頼ってくる美少女たちと楽園を作り出す。


 一方、追放したズートたち『レジェニウム・パレス』の方だが、雑用チートをフル装備しているレクトの代わりが町の周囲の専門店たちでは全く埋まらなかった。


 しかし、ズートの肥大したプライドがクエストの達成率を下げることを嫌って、辺境伯として溜めた財産を湯水のごとく使い、ギルドの宝物庫のアイテムを担保に借金を重ね、闇金にまで手を出す。


 ギルドメンバーの勝手な行動によって余計な出費が増えたり、傲慢不遜な『帰って来い!』という手紙を順風満帆なレクトに送って無視されたり……。


 といった経緯を挟みつつ、最終的に、『降って湧いたような奥の手アイテム』が暴走し、甚大な被害が出る。


 辺境伯の地位を剥奪され、罪人として、そして借金返済のため、死ぬまで鉱山で刑務をしなければならない状態となった。



 ……といった内容である。


 『ドリームボード』という板状の情報端末型マジックアイテムを使って閲覧できたそれは、俗に言う『追放ざまぁ』のテンプレを使いつつ、ざまぁは一応済ませて、ここからさらに巨大なダンジョンに挑む。といった内容だったのだが。


 作者が『二章以降の構成』を全く考えていなかったのか、ランキングシステムで残るために必要な『票の獲得』の下落率が高くて萎えたのか、ざまぁ完徹後の第二章の頭でサキュバスを出して以降、一年近く更新がない。



 いわゆる、『エタった』作品である。


「……はぁ」


 テンプレを踏まえつつ。といったが、ざまぁ対象のギルドマスターが顕著だろう。


 名は体を表す。をやってみようとしたのか、ざまぁ対象の名前『ズート・プレシャー』だが、これは『ずっと・プレッシャー』を改変したもの。


 名前の由来は、このズートというキャラクターが、『永遠威圧』というギフトを持っているからである。


 ギフトというのは、特定の者が五歳の誕生日にで発言する力のことだ。特定、の具体的な内容は判明していないが、主に貴族の人間は発現する場合が多い。

 ただし、何かしらのアナウンスがあるわけではなく、発現しても気が付かない場合がある。

 そのため、この世界の人間は、五歳になると『何か普段と違うことがある?』と子供に聞くのが一般的となっている。


 で、このギフトなのだが、ズートの場合、常に『威圧』のスキルが展開されており、解除することができない。


 ただ、このスキルがあることによって張りぼての『存在感』が高くなり、まあ、コバンザメみたいな馬鹿が集まったとでもいうのか。そんなところだ。


 まともにコミュニケ―ションを取れるようなスキルではないのだが、『まともなコミュニケーションを取る気がない』のであれば、有用なスキルである。と一応言っておこう。


「あれが、レクト……原作の主人公か……」


 部屋を出ていったレクトを目に浮かべる。


 中肉中世……を下回る体格に加えて、覇気も活力もない。

 いや、作業量を考えればエネルギー量は果てしないだろうし、『自分の中の能力』に限定すれば『効率化の権化』ともいえる。


 ただ、極端なほど、自信がない。


「明らかに、アイツがいないとこのギルドは破滅だ」


 口に出すまでもない。


 だって、当たり前だろう!


 というか、雑用を全部やるような脳みそがトチ狂った奴が、なんで自分の実力を評価してないんだ!


 まるで意味が分からないんだけど!


「しかし……前世の記憶を取り戻したけど、タイミングが悪い。なんで、『原作で主人公を追放する一週間前』に思い出すんだよ……」


 一週間前。俺はとある社交パーティーで、足を滑らせて、料理が並べられたテーブルの角に頭をぶつけた。


 そのまま二時間ほど気絶して、起きた時……俺は、『前世』の記憶を思い出したのである。


 そんな中で頭に引っかかったのが、先ほど説明したWEB小説。【OOO(アイン・ソフ・オウル)の栄光】である。長いのでサブタイトルは省略させてもらおう。


 前世の二十年。この世界での二十五年が頭の中でごちゃごちゃになって、やっとまとまって、確認したら『これはヤバいで!』となったわけだ。


 そこからは情報を収集することにして、『とりあえず、主人公の雑用を分散させるため』に、外注のための資料を集めていたのだ。


 いや、外注云々は原作でズートもやってたことなので、資料そのものは速く集まったのだが……。


「数字が悲惨すぎる。このギルドのメンバーって算数できないのかよ……」


 この世界には『スキル』というものがある。


 簡単に言えば、念ずるだけで起動できる『脳内のどこかにある行動パッケージ』のようなものだ。いや、簡単というより雑だが、詳しい説明は割愛させてもらう。


 スキルを二つに大別すると、『技スキル』と『補助スキル』となる。

 『技スキルって重言じゃね?』というツッコミはなしだ。そもそもこの世界の人間は、『技』という言葉と『スキル』という言葉を『同じ意味として使ってない』からな。


 ちなみに、昔は『行動スキル』と呼ばれていたそうだが、『なんかカッコ悪い』ということで『技スキル』になったそうだ。詳しいことは知らん。


 ……で。


 『技スキル』だが、言い換えれば、『特定の行動を取ろうとすること』だ。『剣術スキル』などで例えると、『スラッシュ』などが該当する。


 『補助スキル』だが、これは『クオリティを上げる技術』だ。『剣術スキル』などで例えると、『斬撃強化』などが該当する。


 そして、『付与術』の技スキルの一つ、『補助技能付与』を使うことによって、身に着けている補助スキルを、武器や防具につけることができる。


 例えば、『斬撃強化』の補助スキルを習得しているものは、『補助技能付与』のスキルを使うことによって、剣などに『斬撃強化』を付与できる。


 まあ、付与術の練度によっては、高性能の補助スキルが付与できなかったりするが。それはそれとしよう。


 その付与された剣を『剣術スキル』の所有者が使うことによって、『斬撃強化』が適用される。


 例を挙げて簡単に仕様を説明させてもらったが、ここからの解説に重要なのだ。


 補助スキルは、慣れてくると、いくつか『重ね掛け』ができるようになる。


 スキルを定石どおりに使い続けていれば、一つで、まだ二つ以上の補助スキルを同時に発動することはできない。

 だが、同時発動を意識しながら訓練を積んで、慣れたら二つできる。

 一流となれば、三つできる。


 そんな基準だ。


 そして、『スキルを使って生計を立てるものが、最高のパフォーマンスを発揮するためには、どれくらい、補助スキルの同時発動が必要なの?』と学者に問いかければ、『六つが理想』とのことだ。


 で、『レジェニウム・パレス』は千人いるギルドで、全員が、『最高のパフォーマンス』を発揮している。


 『一流(上位)』『慣れてる人(中位)』『普通(下位)』の順番で、二割、三割、五割といった内訳なので、最高のパフォーマンスを発揮するためには。


 二割に対して三つ分、三割に対して四つ分、五割に対して五つ分、【レクトが一人で補助を入れなければならない】ということになる。


 計算タイムだ。


 200×3+300×4+500×5


 正解は……4300です!


「ふざけるなああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 い、いやまて、落ち着け、まださらに『ヤバい計算』が残っている!


 忘れてはならないのが、『下位』に該当する戦闘員五百人が使用する武器や防具は、そのすべてが『量産品』である。

 中位、上位メンバーは自分専用の物を持っているが、下位は違う。


 並べられている武器や防具を、近くにあるやつから取って使っているのだ。


 結論『五百個すべてのアイテムに、五百人×それぞれに必要な五つの補助技能付与をかけなければならない』のである!


 元々、武器が製造してギルドに納品された時点で、レクトは『適正補助識別』などの付与をあらかじめかけている。


 握った瞬間に『本人確認』が行われて、適切な補助スキル構成が500通りの中から選ばれて、使えるようになるというわけだ!


 ちなみに、『いや、必要な補助スキルなんて似たり寄ったりだし盛りすぎでしょ』と思った方、ご安心を!


 補助スキルというのは、本人に適した『強度』で設定しないと、『強化値』が狂ってドエライことになるのだ。


 そのため、補助スキルが付与された武器というのは、完全にオーダーメイドの武器にしか付けられないのだ!


 要するに、先ほどの計算は仮初である。

 その真の姿はこれだ。


 200×3+300×4+500×5×500(・・・・)


 その答えは、1,251,800!


「アイツの脳みそはどうなってるんだあああああああああああ!!!!!」


 一人で……一人で百万人分!?夢じゃないよな!現実だよな!?いっそ幻覚であってほしかったわ!


 確かに、レクトは魔力量がゼロ。


 マジックアイテムに頼らなければ、初期配布みたいな、魔力を使わないスキルしか使えない。

 だが、マジックアイテムがあれば、強引に再現することができるのだ。


 道具というのは、人間の行動を補う、質を高めるためにあるのだから。


「はぁ、はぁ……取り乱したな。あー。もう、どうなってんのこのギルド。なんでレクトを追放しようとするんだよ。意味わかんねえし……」


 レクトが毛嫌いされる理由は、一番大きいのはスラム出身であるということか。


 貧民を差別する貴族なんぞ珍しくない。


 そして、ズート自身、社交界を渡り歩いているが、当然『上流階級』ばかりが相手になり、当然集まる人間もそれに該当する。


『貴族は優れており、平民は家畜。貧民など奴隷』というのは、『貴族ばかりが通う学校で習うこと』である。俺もその教育を受けてきた。


 レジェニウム・パレスというギルドの、特に『運営』に関わる人間は、そういう選民思想で一色に染まった連中ばかりで構成されている。


 運営には関わらず、戦闘しかやっていない連中には気が付いているものもいるし、まあ、激務を考えたら『こんなクソギルド辞めて他に行ったら?』と考えているものもいる。

 が、肝心の『運営』に関わる奴らは、『レクトが無能だから追い出せ』と言っているのだ。


 ……正気ですか。マジで言ってんの?


 しかも、今も虎視眈々とレクトの追放を計画してるって、マジ?


「一番ヤバいのは……レクトが雑用チートフル装備だってことを宣言できないことか」


 出来ない理由としては、『思想』と『パワーバランス』が原因だ。


 貧民など奴隷も同然。と考えているということは、『使えない奴隷』など、目に入らなければ気にも留めないが、『使える奴隷』は、永遠に搾り取ろうとするということである。


 前提として、上流階級や高ランク冒険者が多いこのギルドでは、貴族連中は使用人に任せて、高ランク冒険者はホテルのスタッフなどが雑用をやっているようなモノ。

 数多くの補助チートを駆使して行われるレクトの雑用の大変さなどわからない。漠然と『雑用だって大変だ』ということは分かっても、レクトの全貌を理解することはできない。


 わからないからこそ、特に貴族はレクトを『使えない奴隷』として認識している。

 しかし、高位の貴族といえど、理不尽な罪を捏造して追い出すというのはなかなかできない。


 貴族たちにも派閥が存在し、『冤罪』というものは、それそのものが『相手を蹴落とす証拠』になるためだ。


 そして、貧民一人殺すのに、足が着いたら面倒な暗殺者に依頼するということもない。

 だからこそ『使えない奴隷』の処分方法に『追放』を選ぶ。


 だが、ここでレクトが『使える奴隷』だと判明した場合、何の後ろ盾もないレクトは、どこかに監禁されて、永遠にかびたパンと水だけで過酷な労働をしなければならない。


 原作描写を確認する限り、レクトの補助チートは、それそのものが戦闘力になることはない。

 少しでも手を止めれば鞭が飛んでくるような場所で、抵抗もできずに作業をさせられるのだ。


 だが、それなら辺境伯の当主である俺が守ればいいという話になるが、入団や解雇であれば最終的に俺が決められるものの、ギルドメンバーの具体的な業務というのは、俺の一存では決められない場合がある。


 社交界を渡り歩いた結果……『自分と同じか、それよりも上の貴族の嫡男など』がこのギルドには多い。

 普段は派閥を作っている彼らだが、団結すれば、『伯爵以上、ほぼ侯爵』である俺を抑え込むには十分な権力になる。


 それがパワーバランスという点での問題だ。


 そして、『思想』と『パワーバランス』というのは、レクトの影響で利権の塊となったこのギルドにおいては、変えるのが最も難しい。


「……はぁ、現状維持を軸にしつつ、レクトとギルドメンバーを変えていくしかないか」


 前途多難である。


 『000(アイン・ソフ・オウル)の栄光』の作者は後書きで、『このざまぁ対象の名前、【ゼント・ターナン】と迷ったんですよね~www』などとふざけたことを抜かしていたが、マジでゼント・ターナンだわ……。

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