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禁断記録 ブラック・レコード (合作)

作者: T-rain

本当に怖いことは死ぬことじゃない。

何者にもなれないことだ。

何者でもなかった僕は、それをよく知っている。


僕は語ろう。いつかこれを手に取る君へ。

君の苦しみは、僕の苦しみ。

僕なら、君を理解できる。


僕が教えよう。君が何者なのか。

君は何をなすべき存在なのか。

だから、どうか聞いて欲しい。


禁断記録ブラック・レコード 1章 開き放たれた第一のページ


 「すごいね。その絵」


天才は何気ない一言から生まれる。

歌がうまいねと褒められて歌手になったり、足が速いねと言われてランナーになったり。

世の中の天才は、身近な人の何気ない一言で生み出される事が多い。


なにも、自分が天才だと言いたいわけじゃない。

ただ、僕にもそういうターニングポイントがあったとするならば……このときが間違いなくそうだった。


今でも鮮明に覚えている、あれは、僕が中学2年生の頃の話だ。


「すごいね、その絵」

「えっ!?」


僕は思わず声を上げた。

授業が終わってから、もう1時間以上が経っている。

窓から斜陽が差す教室には、僕以外誰もいない……はずだった。


「ごめん、驚かせちゃったかな」


声の主は申し訳なさそうに言った。

長髪の穏やかそうな女の子。

彼女の名は……。


「えっと……折崎さん……だっけ?」

「合ってるよ。覚えてないの?」

「ごめん……。人の名前覚えるの、苦手で……」

「いいよいいよ。タスク君らしいし」


実を言うと、本当は彼女の名前を知っていた。

彼女は決して目立つタイプの子ではなかったので、僕はシンパシーを感じていた。

端的に言えば、彼女に興味があった。

けれど、それを悟られたくなくて、つい知らないフリをしたのだった。


「いつも授業の後、教室に残ってるよね」彼女が言った。

「うん。家に帰っても、誰もいないし……」

「誰もいないの?」

「うん……」


僕の家庭について説明するなら、それは一言で済む。

母子家庭。ただその4文字につきる。


「そっか」

「うん……」


しばらく沈黙が流れた。

空気が重い。

二人で押し黙っていると、下校時間のチャイムが鳴った。

それと同時に、空気が弛緩しかんした気がした。


「その絵さ」


彼女が切り出した。

彼女が聞こうとしていることが何かは分かっている。

僕はそれに対する回答を、先回りして考えていた。


「何を描いてるの?」

「あぁ、これね……。これは……」


今気づいたと言わんばかりのリアクションを取る。

そんな僕の様子を知ってか知らずしてか、彼女は続けた。


「なんて言うか、すごく……ゼンエーテキ? 真っ黒だよね」

「うん……。そうだね」


ありのままに言えば絶対に引かれる。

何か、上手くごまかせる返答はないのか。


「ウニ? にしてはトゲトゲしてないし……。毛糸玉? にしては四角いよね」


まずい。逃げ道がドンドン潰されていく。

何でも良い。早くそれっぽい事を言うんだ。


「アフロ……は違うよね。顔がないし」


気持ちばかり焦る。

しかし、いくら考えても、気の利いた答えは浮かばなかった。

そして、ついに恐れていた質問が来た。


「ねぇ、タスク君。コレは何?」

「! これは……」


どうしよう。ちょうど良い言い訳が、何も思いつかない。

本当のことを言うべきなのか?

……いや、ダメだ。そんなことをすれば、折崎さんにキモいと思われてしまうかも知れない。


「タスク君?」

「……」


言い訳が思いつかないなら、何も言わないべきか?

いや、しかし……。せめて今だけは、物事に対して誠実に向き合いたい。


「タスク君……?」

「えっと……」

「言いたくないなら、無理に言わなくて良いよ?」

「……!」


どうする?

本人がそう言ってくれている。

なら、言わなくても良いじゃないか。

それはそうだ。


だけど……僕は言いたいと思った。

彼女なら分かってくれるかも知れない。

彼女には分かって欲しい。


「……何を言っても、キモいとか思わない……?」


蚊の鳴くような声で、おびえながら尋ねた。

すると彼女は、河のせせらぎのように優しく答えた。


「おもわないよ」


僕は意を決して口にした。


「世界が……壊れるところ……」

「世界が壊れるところ?」

「あんまり好きじゃないから……この世界」

「……」


彼女は絵を見つめたまま、押し黙ってしまった。

僕は早くも後悔し始めていた。

やっぱり言うんじゃなかった。

絶対引いてる。キモいと思われてる。

もう終わりだ。何もかも……。

僕の心は、これから浴びるであろう暴言に備えた。


「いいね。その絵」

「……え?」

「うん。すごく良い」


信じられなかった。

絶対けなされると思ってたのに。


「本当?」

「うん、本当」


彼女は力強く頷いた。

しかし、次の言葉は弱々しい声量だった。


「気持ち分かるから……。私も」

「折崎さんも……?」


神妙な彼女の表情につられて、僕も神妙な顔を浮かべた。

しかし、それも上面だけだった。

彼女に絵を褒められて、僕はこれ以上にないと言うほど舞い上がっていた。


天にも昇る気持ちとはこのことだろう。

とにかく僕は浮かれ上がっていた。

……だからだろうか。

いつの間にか、彼女の手に一冊のノートがあることに気づかなかった。


「……ねえ、タスク君」

「……なに?」

「これ、受け取って」

「えっとこれは……」

「ノート」

「だよね……」

「それ、あげる。今度からそれに絵を描いてよ」

「え……? いいの?」

「うん。その代わりに……」

「代わりに?」

「絵を描いたら、また見せて欲しいな」


そして僕は、約束した。

たくさん絵を描いて、彼女に見せることを。


しかし、その約束が果たされる事はなかった。

この日から数日後、彼女は学校に来なくなった。



禁断記録ブラック・レコード 2章 くさびが打たれた第二のページ


「懐かしいな……。折崎さん……」


勉強机の引き出しから取り出された一冊のノートを見て、僕は懐かしい気持ちになった。


これは僕が高校1年生の頃。

彼女と会えなくなってから、僕の人生には大きなイベントが起きなかった。

特筆すべき点は何もない。


黒い表紙のノートを手に取り、パラパラとページをめくった。

彼女から受け取ったその日から、絵を描き続けた。

それを証明するように、どのページにもつたない絵があふれかえっている。


しかしそれも、数ページで途切れた。

絵を描くのが嫌いになったワケじゃない。

ただ、見せたかった相手がいなくなってしまった。

それだけのことだ。


「どこ行ったんだよ……」


感傷に浸りながら、ページをめくる。

どんなにめくっても、底には空白があるだけだ。


ノートだけじゃない。

僕の心だって、あの日からずっと、空白のままだよ。


懐かしさにかられた?

絵を描く情熱が戻った?


理由を挙げればいくつでも出るだろう。

しかし、一番しっくりくるのは「そうする史実だった」という表現。


まるでそうすることがあらかじめ決まっていたかのように思えた。

それくらい自然に、僕は数年ぶりに絵を描いた。


異変に気づいたのは、その次の日だった。

いつものように学校へ行き、帰ると、自室に見慣れない物体があった。


四角い箱の形をしているが、面がない。

辺は鉄の棒になっているのだが、面がないために、向こうが見える。

この形に、僕はとても見覚えがあった。


「これは……ネッカーの立方体?」


数学や美術の教科書を見れば必ず載っている図形。

一言で言うなら、サイコロの形をした四角い箱。

しかし、僕にとって見覚えがあったのには、もう一つ理由がある。


ノートのページを開ける。

昨日描いたページには、一つの図形があった。

それは、紛れもないネッカーの立方体だった。


「……」


どうなってる?

意味が分からなかった。


この立方体は誰が持ってきた?

誰かがこの部屋に入ったのか?

だとしたらどうやって?

そもそも誰が? 何の目的で?


落ち着いてなどいられなかった。

もしコレが誰かの仕業なら、そいつはこの家を出入りしている可能性がある。

慌てて玄関に走った。


玄関には僕と母の靴以外にない。

家の中にも、足跡のようなモノはなかった。

荒らされている場所もなかったし、そもそも、玄関には鍵が掛かっていた。


「ならどうやって……」


そこで、一つの可能性に行き着いた。

まさか、な。


いや、ばかばかし過ぎる。

試すのもためらうくらいだ。

しかし、他に思い当たる節はない。


「やってみようか……」


自室に戻り、ノートを開いた。

そして、ネッカーの立方体の横に、ボールを描いた。


青いゴム製のボール。

子どもが公園で遊ぶときに使うようなアレだ。

ササッと描いて、ペンを置く。


「もしノートが原因なら、これで……え?」


リアルの立方体に目を向けると、その横には丸いモノがあった。

手に取ってみると、それはボールだった。

ちょうどノートに描いたような、青いゴム製の……。


「嘘だろ……? ホントに?」


ぼくは次々にいろんなモノを描いた。

思いつくままに、描いては振り返り、描いては振り返り。

ページが埋まる頃には、部屋の中にもモノが溢れかえっていた。


「ハハハ……」


間違いない。

このノートは、描かれたモノを実体化させる。


「ンンン……。ンフフフフ……フフフッ、アハハハ! ハハハハ! ハハハハハハハハハ!!」


笑いが止まらないというのはこのことか。

欲しかったマンガ、ゲーム、iTunesカード。

望めば望んだだけ手に入る。


そこでふと、考えた。


人を描いたらどうなるんだろう?

今まで描いてきたのは、全部モノだった。

では、生きているモノを描いたら……?


僕はスマホを取り出し、クラスLINEを開いた。

そして、投稿されている写真を表示する。

体育祭の後、クラス全員で撮った写真だ。


僕はその中から、とある少女を探した。

彼女は、中央にほど近い場所で見つかった。

明るい笑顔の可憐な少女。


彼女の名は、有里みのり。

クラス一の美少女と名高く、性格も良い。

そのため、男女問わず圧倒的な支持を得ている。


写真内での彼女の立ち位置は、彼女のカーストそのものを表しているようだ。

つまり、『クラスの中心』。彼女が核となって、クラスが成立している。


一方で、僕はと言うと、写真から見切れるギリギリの位置にいた。

これも僕のカーストを良く表している。

つまり、『居ても居なくても変わらない』。


言うなれば頂点と底辺。

僕と彼女の間には、どうしようもない距離がある。

しかし。


「このノートは、そんな距離すらなくせる……」


僕は一心不乱に模写を開始した。

有里みのりをノートに描き込み、何が起きるのか確かめる。

しかし、顔の輪郭を取ったあたりで手が止まった。


「こんな事をして良いのか……?」


もし彼女を実体化できたとして、僕は何をする気だ?

もし事が上手くいったとして、明日からどんな顔で彼女を見れば良い?


好奇心と倫理観とが熾烈にせめぎ合った。

好奇心がペンを握らせるが、倫理観は腕の動きを止める。


しばらく続いた戦いだったが、やがて決着がついた。


「実験……そうさ。これは実験だ。やましくなんかない。知的好奇心だ……」


振り切れた僕は、再び模写を開始した。

今までの人生では経験したことのない集中力。


集中が極限に達すると、それをやっているという自覚がなくなる。

自分という存在が曖昧になり、行為そのものと融合する。

この瞬間、『僕』という存在じがはなくなっていた。



「……できた……」


そして、自我を取り戻したとき、絵が描き上がっていた。

自分としても、かなり良い出来だと思う。

興奮を抑えきれず、僕は部屋を振り返った。


そこには、当然のごとく彼女がいた。


……僕はおろかだった。

取り返しの付かないことをしてはじめて、「自分が取り返しの付かないことをした」と理解したんだ。

少なくともこのときは、そんなことにさえ、気づいていなかった。


―――


翌日。

登校中の道で、僕はため息をついた。

昨日のアレはとんだ期待外れだった。


あの後、呼び出された有里みのりに対して、僕はいくつかの言葉を投げかけた。


「やあ、こん……にちは……」

「……」

「僕のこと、分かる……? 黒江タスク。同じクラスの」

「……」

「……あの~?」

「……」

「すみません、あの……」

「……」

「……」


彼女は何も口にしなかった。

二つの意味で。


一つ目は、何を語りかけても、返事がないこと。

それについてはあきらめも付いた。


二つ目は、何も食べないし、飲まないこと。

夜も更けた頃に、「お腹すいてない?」と聞いても何も答えはなかった。

寝る前に彼女の足下にパンを2,3個置いておいたが、朝起きてみるとそのまま残っていた。


彼女は何も言わないし、何もしない。

まるで人形のように……いや、人形ですらない。

人形なら、持ち主の思うままに動かせるし。


……持ち主の思うままに?


「ひょっとして、僕が彼女の言動を知らないから……?」


案外そうかも知れない。

彼女が僕の思ったとおりに動くとするなら、納得がいく。

僕は彼女のことを何も知らないのだから。


「もしそうなら、今日は彼女のことをちゃんと観察しないとな……」


簡単にクリアできる目標よりは、適度に難しい方が面白い。

僕はこの問題を楽しんでいた。


とりあえず、生きた人を描くとどうなるかは分かった。

次は何を描こ……


「違いますッ!!」

「? なんだ?」


大きな声によって、思考を遮られた。

声の発生源はすぐに見つかった。

近くのコンビニだ。


僕は、なんとか声が聞こえる位置から、店内を伺った。

客はおらず、店長という名札をつけた男と、若い男が言い争っていた。


「まぁ、落ち着いてよ」

「そんな疑いをかけられているのに落ち着いてられるワケないでしょう!?」

「大丈夫だよ、望月くん。君のことは理解しているつもりだ」

「……」

「医大受験の勉強をしながら、親に迷惑をかけまいとバイトで生計を立てる。言うのは簡単だが、なかなか出来ることじゃない。それに君はまじめで、思いやりがある」

「……恐縮です」

「だからこそさ。君がこんなことをしたのにも、何か止むに止まれぬ……」

「だからッ! 違うと言ってるじゃないですか!」

「……じゃあ誰がやったと言うつもりだ? あの時入ってたのは君だけだろ?」

「シフトには入ってましたが違います! 防犯カメラを見れば明らかでしょう!?」

「君ならカメラの死角を見つけていてもおかしくないと思うが?」

「そんなことまでして盗みますか!? バイト先で、しかもコンビニですよ!? リスクが高すぎると思いませんか!?」

「そりゃ思わなくもない。しかし、それだけ自信があったんじゃないか? 犯人は。ええ?」

「あくまで僕が犯人だと言いたいわけですか……」

「これ以上無駄な時間を取らせるな。さっさと認めて謝罪しろ。弁償は勘弁してやろうと言ってるんだぞ?」

「だから! 僕は……」


……なるほど。

なんとなく分かった。

どうやら、コンビニ店員が万引きを疑われているようだ。


たしかにまじめそうな店員だが、人を見かけで判断する事は出来ない。

まじめな人間も、時と場合によっては凶悪な犯罪者になるモノだ。


「……そろそろ行かないと遅れるな」


もう少し覗いていたい欲を抑えて、僕は学校へと向かった。


学校に着くと、教室がいつもより静かだった。

なぜだろうと思ったが、すぐに理由が分かった。

有里みのりが居ないのだ。


彼女は時間に余裕を持って登校してくる。

もう来ていてもおかしくないはずだが。


居心地の悪い空気に支配されること数分。

チャイムがなり、先生が入ってきた。


「起立。礼……」

「おはようございます」

「はい、座ってください」


みんなが一斉に椅子に座る。

しかし、この時間になってもなお、彼女の姿はなかった。


「せんせー」

「はい?」

「今日みのりさんは居ないんですかー?」


女子が質問した。

それはおそらく、クラスの全員が気になっていたことだった。

教室全体がシーンとし、先生の言葉を待つ。


「あぁ……。有里さんは……お休みだそうです」

「ええー! ウソ~!」

「……体調不良だそうです。みんなも、体調には気をつけましょう」


珍しい。

滅多に休まない彼女が……。

驚いたのは僕だけではなかった。

クラス全体がざわつき始める。


「伝達事項は特にありません。あ、そうだ。このクラスは国語4限かな? 漢字テストありますからね~。ちゃんと準備を……」


有里みのりの観察をするという目的を失った僕は、暇をもてあました。

授業なんて一つも手に着かなかった。

ただひたすら、次の『実験』のことを考えていた。


今度は何を描こうか。

世界で一番高いスニーカーとかどうだろう?

……いや。よく考えてみれば、靴にそれほど興味もないか。


じゃあ、食洗機なんてどうだろう?

洗い物が楽になって、母さんの負担も減るかもしれない。

……いや。よく考えてみれば、普段の生活で食器をあまり使ってないな。


僕はさんざん悩んだ。

しかし、悪い気分ではなかった。

こういうのを『贅沢な悩み』と言うんだろうか。


とにかく僕は、楽しい気分のまま授業を終え、帰路についた。


その帰路で、僕はまたしても言い争いを見かけた。


「認めろよ!」

「俺じゃない!」


なんだろう。

興味深くはあったが、僕は急ぐことにした。

帰ってからやりたいことが山積みだ。


「それでは、誰も犯行を見ていないと?」

「はい……」


少し歩いたところで、今度は警官と話す女性の姿が目に映った。


「気がついたときには、もう無くなっていて……」


どうやら、モノがなくなる事件が多発しているようだ。


「物騒な世のなかになったもんだなぁ」


とはいえ、言っては悪いが、所詮は他人事だ。

僕は深く考えず、そのまま家に着いた。


鍵を閉めると、真っ先に部屋に向かった。

今日は何を描こうか……。

ドアを開けた。すると、そこには誰かが経っていた。


「うわっ!? ……って……なんだよ」


驚きで心臓が止まりかけたが、何のことはない。

有里みのりが立っていただけだった。


「おどかしやがって……」


思い返してみれば、今朝から……いや、昨日呼び出してからずっと同じ場所に立っている。

同じ場所で、同じように立っている。

彼女はただ、オブジェのようにそこに在るだけだ。


「……そういえば、コレっていつまで居るんだ?」


ふと、疑問が浮かんだ。

ノートで具現化したモノは、持続し続けるのか?


見たところ、昨日ノートに描いて出したモノは、変わらずこの部屋にある。

こういうのは、しばらく経つと消えたりするのが相場ではないか。


最初に呼び出したネッカーの立方体も、ボールも、iTunesカードの残骸も。

昨日と変わらない位置に鎮座している。


「それか、何か条件で消えたりするのか?」


疑問を口にしても、答えは出ない。

分かってはいても、口に出してしまうものだ。


「ん~……。まあ、とりあえず今日も『実験』を始めるとするか!」


昨日と同じく、僕はノートに絵を描き始めた。


――


「……もう良いかな」


十分描いたと感じたところで、僕は作業を終了することにした。

今日もだいぶ描いた。

かなり疲れたが、おかげで分かったこともあった。


それは、『自分の知るモノでなければ具現化できない』ということだ。


昨日、有里みのりを描いたので、今日はネットで見つけた、適当な知らない人物を描いてみた。

しかし、その結果として現れたモノは何もなかった。

他にも、自分の知らないモノを適当に探して描いてみたが、どれも具現化できなかった。


なので、自分の知っているモノでなければ具現化できないという結論に至った。


「……待てよ。じゃあ、知らない状態から知っている状態になったらどうだ?」


それに思い至った瞬間、疲れが吹き飛んだ。

知っているという基準によっては、多少のリサーチで具現化できるようになるのでは?


「よし、やってみよう!」


僕は再びネットニュースを開き、興味を引かれるトピックを探した。

適当な芸能人でも見つけて、情報収集した後に描く。

それで具現化できれば、生きている人間はほぼ全員出来ることになる。

いや、もしかしたら、死者さえも具現化できるかも知れない。


そうだ、死者だ。

なんで今までそれに思い至らなかったのだろう。

これが終わったら次はそれを試そう。


「……それにしても、芸能系のニュースが全然ないな……」


いくらスクロールしても、目に付くのは窃盗、万引き、盗難……。

似たようなニュースばかりだな、とあきれかけた時にふと、朝のことを思い出した。


「……そういえば、今日の登下校でもあったな」


もしかすると、関係があるかも知れない。

一応見てみるか。

手近なニュースを開いた。


タイトルは「錯視博物館 盗難被害 犯人の姿写っておらず」。

内容をザッと眺めてみると、事件の起きた場所、日時、被害品などが記述されていた。


「錯視博物館って、昔校外学習で行ったことあるな」


その被害品に、目がとまった。


「……ん?」


それは、ネッカーの立方体のオブジェクトだった。

画面から目を離し、部屋の隅に追いやった四角い物体を見つめる。


鉄製の棒によって辺が形成されていて、面はついていない。

鉄の色味も似ている気がする。

……嫌な予感がした。


見ていたニュースを閉じて、別のトピックを開く。

タイトルは「コンビニ店員 プリペイドカード5万円分万引き」。


事件発生日時は昨日。

コンビニ営業中に、iTunesカード5万円分が盗まれた。

発生したのは大手コンビニチェーン、セブン……


「!? ……これ……今朝の?」


在庫の数が合わないことに店長が気づき、警察に通報。

防犯カメラには何も写っていなかったが、当時勤務していたアルバイト従業員が重要参考人として送検された。


店員の情報には既視感があった。

そして、昨日描いたiTunesカードも、ちょうど5万円分だった。


「……ウソでしょ? ……ウソでしょ!?」


僕はニュースを閉じ、開き、閉じ、開き……何度も何度も繰り返した。

僕はただ、安心したかった。僕は悪くないという判断材料が欲しかった。

しかし、見れば見るほど、ニュース記事は僕の犯行を裏付けるように証拠を並べ立てた。


「そんな……」


そこで気がついた。

このノートの能力は、描いたモノを具現化するんじゃない。

描いたモノを持ってくる能力なんだ。


前進から汗が噴き出した。

体の震えが止まらない。

僕はぎこちない動きで部屋を振り返った。


様々なモノの中心に、一人の少女がたたずんでいる。


「じゃあ……これは……」


有里みのりは、いつもは登校している時間に居なかった。

思えば、先生も少し言いごもっていた気がする。

すべてに合点がいった。


「ぁぁ……あぁ……!」


体の力が抜け、膝から崩れてしまった。

僕はたった二日にして、とんでもないことをしでかした。

とても償いきれないような、とてつもなく重大な罪を犯した。


「う……ぐっ……! うっ……うぅ……うぅぅ!」


涙があふれ、止めどなく流れた。

軽はずみな行動で、世界はおかしくなってしまった。


僕のせいで、博物館から展示物が消えた。

僕のせいで潰れた店もあるだろう。

クビになった人もいるだろう。

えん罪で捕まった人もいるだろう。

泣いている人がいるだろう。


だけど一番かわいそうなのは……。


「……」


ただ無言で佇むマネキンにされてしまった有里みのりだ。


「ごめんなざっ……! うぅっ! ごめんなざいぃ……!」


僕の気の迷いで、生きているとすら言えないような状態にされてしまった。

彼女には輝かしい未来が待っていたはずだったのに。

彼女を支えにしている人がたくさん居たはずなのに。


「ごめんなざいぃっ! ごめんなざいぃっ! ごめんなざいぃ! ごめんなざいぃ! ごめんなざいぃ!」


僕は何度も頭を地面に押しつけた。

ただ必死に、許しをこい続けた。

そんな僕を意にも介さず、彼女はうつろな瞳で虚空を見ていた。





禁断記録ブラック・レコード 3章 前編 破り捨てられた第三のページ


何者でもなかった僕は、ついに何者かになった。

しかし、それは全く望まない『大悪党』だった。


それからの僕は、罪の意識にさいなまれながら静かに生きた。

目立たぬように、気づかれぬように。

抜き足差し足で生きた。


そして数年。

僕は大学生になっていた。

今は友達と食堂に来ている。


そう。友達。

大罪人である僕にも友達が出来た。

本当はそんな資格なんてない。

そうは思いながらも、僕は友達を欲してしまった。

どうしようもないクズだ……。


「うい~。サンキュー」

「ああ、うん」


彼がトレイを持ってきた。

僕は取っておいた場所を譲った。


「いや~、やっぱ混んでんな。この時間は」

「昼休みだしね」

「ったく。他に行くとこねえのかよってカンジだ」

「それは僕たちも人のこと言えないよ」

「俺らは別だよ。いつもここ来てるわけじゃないし」


彼はカレーにスプーンを突っ込んだ。

そして口に運び、うま、とつぶやいた。


「昼間からカレーってすごいよね。午後眠くならない?」

「なる。でもしょうがないさ。カレーが一番コスパ良いからな」

「そうだね」


彼はよっぽど腹が減っていたのだろう。

カレーの山は、みるみるうちに欠けていき、ついには半分になった。


「ところでさ、昨日のライブ見た?」

「ライブ……?」

「イカシロちゃんのライブだよ!」

「あぁ、アレね……」


イカシロちゃん。それは、彼がご執心のVtuberだ。

名前からしてイカっぽいイメージを抱くが、実物は見たことがないので分からない。


「ごめん、見てない……」

「おい~。なんで見てないんだよ?」

「忘れててさ」

「あ~あ~、もったいな。スゲー良かったぜ?」

「そっか……。それは惜しいことをしたなぁ」

「だから通知オンにしとけっつったのに」


ため息をついてから、彼はカレーをほおばった。

見たところ、僕の嘘には気づいていないようだ。


実のところ、僕はイカシロちゃんのファンでも何でもない。

ただ彼と友達になるために、話を合わせているだけだ。

だからはっきり言ってしまえば、興味がなかった。


とはいえ、そんなことを言う勇気はない。

言ってしまえば最後、僕は捨てられてしまうだろう。


「ライブの話ししようと思ってたんだけどなぁ……」

「ごめんごめん」

「ま、いいわ。じゃあお前、アレは知ってる? 昨日Twitterでトレンドなってたヤツ」

「? いや……」

「マジ? じゃ見てみ。スゲーから」

「ああ、うん」


僕は促されるまま、Twitterを起動し、トレンドを見た。

そこにはいくつものネットニュース記事があった。


「開いた?」

「うん。どれ?」


僕は画面を見せた。


「これこれ」


彼は左手の人差し指で画面に触れた。

ニュース記事が開かれる。


それは殺人事件を報じる記事だった。

これがトレンド入りした理由は、すぐに分かった。

タイトルは「ベランダに干された死体」。


「死体がベランダから……?」

「そう。布団干すみたいにかけられてたんだってよ」


彼は「ヤバくね」とつぶやいてからカレーを口に運んだ。

僕は内容を読もうと、文字を目でなぞった。


「……!」

「? どうした?」

「……いや、何でもない」

「そうか? ならいいけど」


見まがうはずもない。

被害者の名は、有里みゆき。

有里みのりの母親だ……。


「あ、もしかしてグロいのとか苦手だった? ワリーな。飯時に見させて」

「いや、いいよ。僕は食べてないし……」


落ち着け、冷静になれ。


「そういえばお前、飯食わねえの? 買ってくるなら場所取っとくけど」

「いや……。食欲、ないから……」

「そっか……」

「……」

「あ~……ワリぃ。こういうの苦手だとは思わなかったから……」

「ごめんっ……」

「え?」


僕は席を立った。

ダメだ。ここには居られない。


「僕帰るね、食欲ないし」

「え? あ、あぁ……。お大事に……?」


戸惑う彼にかまっている暇はなかった。

僕はトイレに駆け込んだ。

個室トイレの鍵を閉める。


「うっ……ぼぉええぇぇ……」


僕は便器の中に胃液をぶちまけた。

なんでだ? 何で今になってあの事を思い出させるような事件が……。


息が落ち着いてきてから、便座に腰を下ろした。

先ほどのニュース記事をもう一度開く。


「……やっぱり、見間違いじゃない……」


殺されたのは有里みゆき……。

有里みのりの母親だ。間違いない。

以前、学校で「娘を知りませんか!?」と聞いて回っているのを見て胸が痛んだ。


「どうして……。こんなことが……」


僕はニュース記事を詳しく読み始めた。

発見されたのは、昨日の朝。

近所の住人が洗濯物を干そうとして、異変に気づいたらしい。

頭が下になる形で、布団と一緒に干されている、と。


警察は事件性は低いと判断した。

死体の状態は謎めいていたが、争った形跡などの事件性は見られなかった。

自殺、あるいは事故で片付きそうだというのが記事の見解だった。


「そんなバカな……。これが事故?」


そんなわけないだろ!

僕は心の中で怒鳴った。


自殺の手法で一般的なのは睡眠薬だ。

しかし、わざわざベランダで飲むか?

蛇口もないのに。あり得ない。


たとえ事故だったとして、布団のように手すりに掛かることもあり得ない。

下半身よりも上半身の方が重いので、自重で落下してしまう。


あり得ないんだ。

誰かが意図的に細工しなければ……。


警察だってそれは分かっているはず。

それなのに自殺で処理するということは、警察でも手に負えない事件という事なのだろうか?


「いや……そもそも……」


なぜ、有里みのりの母親なのか?

偶然の一致とは思えない。


有里みのりが行方不明になっている事は、先生からクラスに説明があった。

だから、少なくとも、当時の高校の人間は知っている。


しかし、あの事件は一切報道されていない。

行方不明になっていることも、有里みのりという個人名もだ。

人づてに広まったとしても、その範囲はたかが知れている。


あの時、『近く』にいた人間にしか気づけないはずだ。

そこまで考えて、一つ嫌な予感がした。


「まさか……見せしめ……か?」


行方不明事件の真相を知った何者かが、僕を脅すために見せしめを?

突拍子もない話だと我ながら思う。

だけど……。


「有里みゆきはあり得ないような死に方をした……。普通じゃあり得ないという事は、『あり得ないことができる能力が絡んでいる』……ということなのかも知れない」


僕以外にも、ノートを持つ者が居る……。

かつて考えたことがあった。

『僕以外にノートを、持つ者が居るのか?』と。


その時に考えていた仮説の一つが、記憶の底から浮上する。


「折崎さん……」


僕はノートを使ってめちゃくちゃなことをした。

しかし、そのノートは、元々僕の物ではない。

あれは、折崎さんにもらった物だ。


彼女がノートを持っているとしてもおかしくない。

そして今回の事件は、彼女が引き起こしたかも知れない。

だとしたらなぜ? 何のために?


「……クソッ!」


僕は頭をかきむしった。

忘れていた感覚がよみがえってくる。

初めてノートの力を行使した時の高揚。

その実態を知ったときの絶望。


僕は罪を背負っているとうそぶきながら、本当は忘れようとしていた。

許されることではないと思っていたが、どうにかやり過ごす方法がないかと伺っていた。


「結局……、向き合うしかないのか……」


罪からは逃げられない。

罪は、常に背中について回る影のようなモノだ。



まっすぐ家に帰った僕は、引き出しの奥深くから、一冊のノートを取り出した。

黒い表紙のノート。


「まさか、またこれを使うことになるなんてな……」


僕はすぐにまっさらのページを開いた。

そして記憶を頼りに、プリント用紙の絵を描いた。

成功すれば、この部屋にそれは現れるはずだ。


部屋を振り返る。

すると、そこには目論見通り、一枚のプリントがあった。


「……よし」


その紙の名は、連絡網。

学校側から連絡することが出来ないときに、家庭同士で連絡を取る手段だ。

この紙には、折崎さんの個人情報が載っている。


「……」


プリントを見ながら、慎重に電話番号を入力する。

震える指で通話ボタンを押した。


「……」


かかって欲しい気持ちと、かかるのが怖い気持ちとがせめぎ合いを始めた。

その間に挟まれた僕は、ただ待つしか出来ない。

永遠のような一瞬だった。


プツッという音の後、音声が流れた。


「! あのッ」

「おかけになった電話番号は……」

「……」


ダメか。

何か他に彼女の手がかりはないか。

例えば、親交のあった人物の連絡先とか……。


「それもダメだ。彼女は誰とも群れなかった」


親しい友人はおろか、まともに会話をする相手が居たかも分からない。

電話番号や住所を知っている人間が、クラスにいただろうか。


SNSアカウントを取得していないかと考え、色々と検索をかけてみた。

しかし、どのSNSでもヒットせず。

折崎という人物に関する投稿すら見当たらない始末だった。


「手詰まりだ……」


こんなにも早く暗礁に乗るなんて……。


ノートに直接描いて呼びだすか?

ダメだ。彼女の言動を完璧にトレースできない。

そんな状態で呼び出せば、彼女は物言わぬ人形になりはてる。

そうなってはすべての真相が闇の中だ。


「クソ……。どうすれば……」


何か突破口になる情報を探すために、スマホを見る。

すると、そこには一件の通知があった。

先ほどの友人からのLINEだった。


イカシロちゃんのチャンネルにアーカイブ出てたから見ろ。


「イカシロちゃんイカシロちゃんって……。今はそれどころじゃないんだよ!」


思わず声を張ってしまった。

怒鳴っても何にもならない。


できる限りのことはした。

それでもどうにもならない事だってきっとある。

今がそうだ。


「……見てみるか。気分転換になるかも知れないし……」


僕はイカシロちゃんのライブを観ることにした。

検索をかけて、動画を開く。

イカシロちゃんの人気はすさまじく、オンタイムで見た者もアーカイブを見に来ていた。


ライブが始まった。

何の変哲もないアイドルソング。

観客は諸手を挙げて楽しんでいる。


「……!」


一見すると可愛らしい歌詞。

だけど、僕は気づいてしまった。

隠された意図に。

歌詞を文節に区切って縦読みすると……



「9……、たすく……みのり……」


9。僕の中学時代の出席番号だ。

僕は大学に入るまで、友達なんて一人も出来たことがない。

そもそも、まともに言葉を交わした事だってない。

だから、僕の当時の出席番号を覚えている者がいたとは思えない。

……ただ一人を除いては。


すぐに曲名を検索する。

ヒットしたのは、探していた曲の情報だった。


「作詞、イカシロ……」


イカシロ。アルファベット表記でIKASIRO。

ひっくり返せばORISAKI。

……つまり、そういうことだ。


「イカシロが……折崎さん……」


ライブに目を戻す。

みんなの声援コメントを受けながら、歌って踊っている。


しかし、もはや普通の客のような目で、ライブを観ることはできなかった。

歌の歌詞が、自動的に脳内で縦読みされる。




「……ッ!」


僕は身震いした。

部屋の温度が一気に下がったように感じる。


『あれわたし』。

どういう意味だ?

何の話しだ?

深く考えずとも答えは出た。


「有里みゆきを殺したのは……」


歌は続く。

僕は歌詞を変換し始めた。




「つぎはお前……!」


つぎとは何の次か。

考えるまでもなかった。

僕を殺す気なのか?

折崎さん……。


「ありがとー!!」


歌が終わった。

イカシロが折崎さんだというのは、もう間違いない。

だとしてもだ。

なぜ彼女は、有里みのりのことを知っていた?


そして、その口ぶりからして、有里みのりが居なくなったのは僕のせいだと知っているようだった。

なんでそんなことまで知っているんだ……?


「彼女は見ているのか? 僕のことを……」


天井を見上げた。

当然、そこには何もない。

しかし、何もないように見えるだけで、実際は何かがあるのか?


「隠しカメラ? いや、ないな。鍵は一度もなくなってない。この家に誰かが入ったとは思えない……」


僕の手元には情報が少なすぎる。

これではどんな判断もままならない。

手がかりが必要だ。

僕は、イカシロについて情報を集めることにした。





禁断記録ブラック・レコード 3章 後編 破り捨てられた第三のページ


しばらく調べて、イカシロについての情報が集まってきた。

彼女がデビューしたのは数年前。

大きなブレイクというのは経験しておらず、徐々にファンを獲得していったようだ。


彼女は人気VTuberにしては珍しく、事務所に所属していなかった。

にもかかわらず、放送の機材は、一級品のモノを用いている。


「ノートで道具をそろえた……?」


おそらく、僕の考えは正しいだろう。

なにせ、僕自身も似たようなことをした経験があるのだから。


「……」


とにかく、彼女が折崎さんである可能性は極めて高い。

しかし、まだ確証はない。

確証を得るには、彼女と接触する必要がある。

方法はすぐに思いついた。


――


数日後、僕はイカシロの生放送を見ていた。

上手くいけば、今日、彼女に僕の存在を認知させられる。


「こんにちは~」


画面にイカシロが現れた。

視聴者が集まるのを待ちながら、オープニングトークをしている。

僕はそれに耳を貸さず、ノートに絵を描き始めた。


描き終わったと同時に、画面に視線を戻す。

どうだ?


「……!」


突如、イカシロは黙った。

しかし、黙ったのではないと、僕は確信した。

イカシロは驚いたような表情をしたが、すぐにカメラを切り、チャットにて文字を投稿した。


「ごめんなさい! マイクが壊れちゃったみたいです……。予備のマイクを持ってくるので、ちょっと待ってて下さい」

「……よし」


成功だ。

チャットはイカシロを気遣うコメントであふれている。

ここに居る者たちは、みんな真実を知らない。


断言できる。

彼女のマイクは壊れてなど居ない。

なぜなら、それは、今僕の手の中にあるからだ。


マイクの機種、色、表面についた傷の一つ一つに至るまで、先ほどまで画面の向こうにあったマイクと同じだ。

しかし、ずしりとした重みは、手にした者にしか分からないことだろう。

僕にはそれが分かっている。


僕が使った手品は簡単だ。

イカシロのファンのブログやSNSアカウントから情報収集し、彼女の使用する機材について調べた。

これによって、ノートの条件である『自分の知っているものであること』をクリアした。

そして仕上げに、彼女の放送中に、マイクを模写した。

ただそれだけ。


単純きわまりない方法だが、効果は抜群だろう。

普通の人間なら、いきなりマイクが消えるという怪奇現象に立ち会えば取り乱すはず。

しかし、彼女は落ち着いたままカメラを切った。

ご丁寧に、マイクが壊れたという言い訳までして。


彼女も、このような怪奇にはなじみがあると見て間違いない。

ならばこの行為によるメッセージにも、彼女は気づいてくれただろう。


しばらく待つと、イカシロは戻ってきた。


「すみませ~ん。お待たせしました~。いや~参っちゃいますね、いきなりこんな事になるなんて」


端間に見れば、先ほどと変わらない様子に思える。

だけど、僕には、どこか興奮を抑えたしゃべり方のように思えた。


「なんだか今日は、私の懐かしいお友達も見てくれてるようです」

「!」

「ちょっとテンション上がりますね。見てる~?」


来た。

やはり気づいてくれたか。


「またメッセージ送っちゃおっかな~」


彼女の言葉の真意がすぐに理解できた。

すぐにメモ帳を手元にたぐり寄せた。


「まあいいや。それは置いといて……」


イカシロは、オープニングトークを切り上げると、コメントを読み始めた。

コメントを読み上げられた者は狂喜し、他の者は自分も読まれようとこぞってコメントしだす。


僕には彼女の読み上げるコメントも、次々流れていくコメントも関心がなかった。

僕が着目していたのは、彼女の言葉の頭文字。



疑念は確信に変わった。

間違いない。彼女だ。



「! 会いに行く……!?」


それから先も聞いていたが、メッセージはそれだけだった。

以降の言葉は、すべて縦読みとして成立していない。

放送終了まで聞いたが、結局何もなかった。


「ではまた次回お会いしましょう! ありがとうございました~。ばいば~い」


画面が消える。

僕はスマホを置き、ベッドに寝転んだ。


「会いに行く……」


僕は、彼女の言葉を繰り返した。

僕の住所を知っているのだろうか。

だとしても、もはや驚かなかった。


僕は、彼女と対面しなければならない。

それだけははっきりしている。

このノートは何なのか。

どうやって入手したのか。

なぜ僕にノートを渡したのか。

どうして行方をくらましたのか。


聞きたいことは山ほど在った。

そのすべてに答えてくれるとは思っていない。

ただ、それでも聞かなければならない。


僕は静かに目を閉じた。

だんだん意識が混濁していく。

せめて、せめて眠る前に、何か策を練らないと……。


結局僕は、そのまま眠ってしまった。

だけど、それで良かったと思う。


彼女が僕の元を訪れるのは、全く予想もしていないタイミングだったのだから。








禁断記録ブラック・レコード 第4章 そして閉ざされる第四のページ


翌日、僕は大学のベンチに座っていた。

ここは自転車置き場の裏に位置しているので、一限と五限の時間は混むが、それ以外は誰も居ない。


雑踏の中にまみれるより、今は一人で考え事をしたかった。

テーマは当然、昨日の放送の内容について。


「……」


一夜明けてもなお、僕の心は休まらなかった。

彼女は僕をどうする気なのか。

殺す気なのか?

殺すとするなら、やはり、ノートを用いて殺すのだろうか?


「……いや」


それはない。

彼女は、僕に会いに行くと言っていた。

ということは、たとえ僕を殺すつもりでも、ノートではなく直接手を下しに来るだろう。

彼女の気が変わっていなければ。


考え事にふけっていると、背後から声が聞こえた。


「あー! ここに居たのか!」

「?」


振り返ると、そこに居たのは友人だった。


「LINEにも返事ねーし。今日も帰っちまったのかと思ったぞ」

「え?」


スマホを確認すると、確かに彼からの通知がいくつか来ていた。


「ごめん、気づかなかった」

「まあいいよ。ほら、コイツですよ」


友人は振り返って言った。

その時に初めて、彼が誰かを連れ立って歩いていたことに気づいた。


「どうもありがとう」

「……!」


その人物は、穏やかな表情を浮かべた女性だった。

そして、僕の記憶には、彼女の顔に重なる面影があった。


「ああ、この人、お前を探してるって言うから連れてきたんだ。名前は……」

「折崎さん……」

「え?」友人は虚を突かれたという顔をした。

「久しぶり。タスク君」


彼女こそ折崎しおりだと一目で分かった。

まさか、こんな形で接触してくるなんて思わなかった。

有効な策を何一つ用意できていない。


「……」

「……」


僕たちは無言で見つめ合っていた。

彼女の顔にはほほえみが浮かんでいたが、その瞳に愛情的なニュアンスはなかった。

しかし、第三者からはそう見えなかったのだろう。


「なんだよ、お前ら知り合いか!」


僕たちが情熱的に視線を交わしていると認識したのだろう。

友人はひどく場違いな声を上げた。


「どんな関係なんだよ? なあ?」


好奇心に満ちた声で僕に詰め寄る。


「えっと……」


僕が返答に困ってもたもたしていると、


「アンタはもう良い」


彼女がボソッとつぶやいた。


次の瞬間、空中に拳二つ分くらいの石が現れた。

それは重力に従って落下し、友人の後頭部を的確に叩いた。


「あうっ」


石が地面に転がり、ついで彼も転がった。

倒れた彼の後頭部から、水たまりが広がる。


彼女の方を見やると、その手には小型のペンと、紙の切れ端が握られていた。


「ノートはね、たとえ破れてても効力を発揮するんだよ」

「……」

「あ、知ってたかな? だったらごめんね。偉そうに講釈たれちゃって」


相変わらず、彼女はこの場に不相応な笑みを浮かべていた。

自分のした行為をなんとも思っていないようだ。


そんな僕の意図に気づいてか、彼女は足下の死体を一瞥した。

とたん、彼女の顔から表情が消えた。


「その子、うるさかったね」


抑揚のない声だった。


「……そうだね」


僕の返事も、思っていた以上に抑揚がなかった。


驚いたことに、友人が殺されても、僕の心は全く波立たなかった。

薄情だとは思う。

しかし、彼とは大学にいる間の仲でしかなかった。

それに、次に地面に寝転ぶのは僕かも知れない。

そう考えると、彼にかまう余裕はなかった。


「彼、うるさかったし、タスク君とは馬が合わなそうだったね」

「……そうだね」

「でも、そんな相手とも折り合いつけて生きてたんだ。成長したね?」

「……そうだね」

「昔は嫌な人たちと関わるくらいなら、よろこんで孤立する方を選んでたよね」

「……そうだね」

「……今、どうやって私から逃げるか考えてる?」

「え?」

「返事。上の空だったよ?」

「……ごめん」


フフッと彼女は笑った。


「しょうがないよ。命の危機、だもんね?」

「……」

「安心して良いよ。私は別に、あなたとやり合いに来たんじゃないから」

「……なんだって?」



――



「お待たせしました~。ご注文をどうぞ」

「じゃあ、私はアイスティーで」

「はい。アイスティーおひとつ」

「……」

「タスク君もおんなじので良い?」

「えっ? あ、あぁ……うん」

「じゃ、アイスティーもう一つで」

「はい、アイスティーおふたつ……。以上でよろしいですか?」

「はい」

「かしこまりました。では、しばらくお待ち下さい」

「どうもありがとう」


僕は、今の状況が理解できていない。

友人を殺した相手と、すぐ近くの喫茶店に来ている。

それも、殺した場所からほど近い喫茶店。

正気の沙汰じゃない。


殺人を犯しても平然としている女と、それを目撃しても着いてきている男。

狂っている。

僕も彼女も。


「……」


この場を切り抜けるプランを考える。


「無駄だよ」

「……!」

「何か企んでるみたいだけど、そんなの無駄」

「……やってみないと分からないさ」

「ううん。分かるよ。ここでは何も起きない。それが史実だから」

「史実? それは一体……」

「お待たせしました~」


史実というワードが気になって追求しようとしたが、店員さんに遮られた。


「ありがとうございます」

「どうも」

「では、ごゆっくり」


……落ち着こう。

今、僕は彼女のペースに乗せられている。

それでは、正常な判断を下すことなんて出来ない。

冷静にならなくては。


「ああ~。喫茶店なんて久しぶりだなぁ~」


彼女はストローをつかんで、ちびちびと飲んだ。

その姿からは、闘争心的なモノを感じない。


彼女は先ほども、やり合うつもりはないと語っていた。

今のところ、その言葉に偽りは見られない。


彼女は僕の視線に気づくと「聞きたいことがあるんじゃない?」と言った。

「何でも答えるよ」

「……」

「あ、でも私も用事あるし、三つまでにさせてね」


それ以上聞いたら……とつぶやきながら、彼女は紙切れをちらつかせた。


何を質問するか迷った。

迷った末に、僕は聞いた。


「有里みゆきの事件は、君の仕業?」

「ええ」

「どうして?」

「……それ、二つ目の質問と取って良いの?」」

「……ならいい」


僕は手のひらを向けて制した。

動機は分からないが、彼女が犯人であることは確定した。

なら、次に明らかにすべきなのは……。


「君は……なぜ知ってるんだ? その……」

「有里みのりのことでしょ?」

「……ああ」


彼女はこともなげに言った。


「あなたにとっては不可解かも知れないけど、私にとってはそうでもないってだけよ。すべては、公然の史実だから」

「史実……」

「さ、次で最後ね? 今度は私の用事に付き合ってもらうから」


たびたび出てくる史実という言葉も気がかりだ。

しかし、質問数が限られている以上、今はそんなことにかまけていられない。


僕は、一番聞きたいと思ったことを口にした。


「君はノートをどうやって入手し」

「もらった」

「え?」


あまりにはやい返事だったので僕は戸惑ってしまった。


「タスク君って、運命にあらがえないタイプだよね」

「……どういう意味?」

「ううん、独り言。ノートはもらったんだよ。ちょうど、あなたが私にもらったように」


これで三つの質問が終わった。

だと言うのに、僕は結局、何一つとして有力な情報を得られなかった。


「フフフッ……」

「……?」

「フフフ……。フフフフッ……」


突然、彼女は静かに笑いだした。

それはおかしくてというよりは、悲しくて笑っているように感じた。


「そんな顔しないでよ。タスク君」

「……」

「もう一つだけ答えてあげる」

「!」


驚いて、一瞬声が出なかった。


「どうしてそんなことを」

「あなたがあまりにも哀れだから」

「哀れ?」

「そう。哀れよ。あなた」


彼女はアイスティーをのぞき込みながら言った。

水面には彼女自信が映っているはずだが、彼女は何を見ているのだろうか。


「あなたは結局、『外』には出られない。哀れよ。私と同じね」

「……」


僕はなんとも言えず、ただ黙っていた。


「でも、そりゃそうよね……。私と同じだから、あなたを選んだんだもの。あなたの歩んだ道は私の道であり、私の歩んだ道も、やがてあなたの道になる……」

「さっきから何の話なんだ?」


僕は少しイラだって問いかけた。


「あなたの聞きたいこと分かるわ。『なぜ僕を選んだんだ?』でしょ?」

「! なぜ……!」


それはまさしく、僕の聞きたいことだった。


「史実だからよ。説明するのもバカバカしい。どうせあなたもすぐに理解するわ」

「ふざけるな! 何をもったいぶってるんだ!」


僕は怒鳴った。

しかし、そこに怒りはみじんもなく、在ったのは恐れだった。

彼女は、僕の想像もつかない何かを知っている。

それがただただ恐ろしい。


「私が何も教えないのは、あなたに意地悪するためとかじゃないわ。せめてもの思いやりなのよ」

「思いやりだと……?」

「知らなければ気楽なこともあるものよ……。私はあなたの後の人生において、そういう気楽な時間が少しでも伸びるようにしてあげてるだけ」


彼女は何を言っているんだ。


「もっとも、こんなことをしても延びる時間は数分単位でしかない。あなたが歴史に逆らえないように、私もまた逆らえない。自由なんてないのよ、私たちには。……永遠の安らぎを得るまではね」


そう言うと、彼女はノートに何かを描き始めた。


「私の用事っていうのはそれ。あなたに、永遠の安らぎを与えて欲しい」

「永遠の安らぎって何だ?」

「もう質問には答えないよ。私は歴史の一部……歯車でしかないから」


彼女は描き終えたノートを僕に見せた。


「!」


僕は、その内容に度肝を抜かれた。


「でもね、歯車が回っているからこそ、全体の仕掛けが動くの」


ズボンのポケットをまさぐると、本来あるはずのないモノがあった。

それは、水に溶かすタイプの睡眠薬だった。


そしてそれは、彼女が描いたノートの内容とまるっきり同じだった。

ノートの記述には続きがある。


僕が睡眠薬をアイスティーに入れる絵。

そして、机に突っ伏している折崎さんの絵だ。


「さあ。お願い、タスク君」

「お願いって……。無理に決まってるだろ」

「無理じゃないわ。あなたはやる」

「やるわけがないだろ……」


……いや、なんでやるわけがないんだ?

彼女は人殺しだろ?

野放しにしておけば、もっとたくさんの犠牲者が出るかも知れない。

むしろやるべきだ。

僕は彼女を殺さなければならない。

僕は彼女を殺すためにここへ来た。


そうだ。僕は睡眠薬の封を切り、アイスティーに混ぜた。

スプーンでかき回し、彼女に差し出す。


「ありがとう」


彼女はそれを一息に飲み干した。

ふう、と一息つくと、彼女は言った。


「ありがとう、タスク君。おかげでやっと解放される」

「いや、たいしたことじゃないよ」


僕の心には、達成感が広がっていた。

しかし、それと同じくらい、気持ち悪さがあった。

なんなんだろう、この状況は。

どうしてこんなことになっているのだろう?


「本当にありがとう。そして……ごめんね」


彼女は目を伏せながら笑った。

そして、目元を手でぬぐうと、僕の目を見ていった。


「それじゃあ、もう行きなよ。薬の効果が出る前に」

「そうだね」


僕は頷いた。


「さよなら。折崎さん」

「うん。さよなら。タスク君」


僕は席を立ちそのまま店を後にした。


「……」

「?」


彼女は最後に何かを言った気がしたが、何も聞き取れなかった。


――


「……うっ!」


家に着いた頃、僕は激しい頭痛に襲われた。

床に倒れ込む。

景色がチカチカして見える。


目を閉じても治まる気配がない。

やがてチカチカは消えたが、今度は目の前にビジョンが見えた。

それは、折崎さんが辿った歴史だった。


ビジョンが止まった時、頭痛も止んだ。

そして僕はすべてを理解した。


「そうか……。僕は……いや、僕たちは……」


ポタ、ポタという音がした。

床には目からこぼれた涙が数滴落ちていた。


バラバラに存在する、いくつかの球。

まるで僕たちのようだと思った。

折崎さんと、僕と……。


「探さなくては。今度は、僕の番だ……」





これが、僕に起きた話の全容だ。

君には何が何だか分からないだろうと思う。

でも、僕には十分すぎるほど分かった。

僕たちの人生には、何の意味もなかった。

いや、意味がない事が意味というか……。


ごめんよ。こればっかりは、体験しないと分からないことだ。

すべてを知りたいなら、僕の元へ来るといい。

そうすれば君は何者で、何をなす存在なのかを知られる。

しかし、知らない方が気楽なこともある。


……そう言ってはみるが、本当のところ、君の次の行動は分かってる。

君もすでに、歴史の一部なのだから。


――黒江タスク









「……意味分からん」


俺はノートを閉じた。

ワケが分からない。

内容もそうだが、その筆者のことも。


黒江タスク。

今の日本で、知らない者はいないんじゃないかという名前の一つだ。


「多分、今だってつければ……」


リモコンを探し、ボタンを押した。

画面上ではいつも通り、彼のニュースが流れていた。


「……ましょう。まず黒須容疑者の自宅付近の地中で、白骨死体が発見されました。これは、DNA鑑定によって、黒須容疑者の高校時代のクラスメイトであることが分かっています。さらに、友人の男性ひとりを撲殺し、女性一人を薬殺。現在は逃亡中で、所在は分かっていません」


アナウンサーはフリップをめくりながら語った。

途中でMCが口を挟む。


「もうこの時点で異常ですがぁ……。まだあるんですよね?」

「はい、そうなんです。確定している犯罪は、殺人三件ですが、窃盗、盗難、さらには殺人など、彼の犯行と思われる犯罪は五十件を越えます」

「とんでもないですよねぇ。岩倉さん、いかがですか? これ」


MCはコメンテーターに話を振った。


「そうですねえ……。なんといいますか、言葉が出ないというか……。本当に常軌を逸していて……なんというか、前代未聞ですよね。こんなのは見たことがないですね」

「ん~。元敏腕刑事の岩倉さんをもってして、前代未聞と言わしめる黒江容疑者。一体何が、彼のような凶悪犯罪者を産んだのか。黒江容疑者の地元で、取材した結果、見えてきたモノがありました」


チャンネルを変えても、ニュースは大体同じ内容を報じている。。

テレビを消し、再びノートを開いた。


彼は何者なんだろうか。

そして、彼に会えば、俺は何者かになれるのだろうか?

確かな気持ちは何もない。

ただ、黒江タスクという人間に対して、とても興味が湧いた。



ここまでお読みいただきありがとうございました。

本作は友人から「禁断記録・ブラックレコード」というお題をもらい、そこから膨らませて作りました。

思っていたことをそこそこ書くことが出来たので、今後も精進してもっと上手く書けるようになりたいです。

本編ではほとんど登場しなかった設定等もあるので、気になる方は言っていただければお伝えさせていただきます。

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