7・初訓練の一幕
ベルーザ先生の長いお話の後は、戦闘訓練の時間だった。みんな散々じっとしていたせいか、動ける喜びを感じてるみたいだった。
「よし、それでは戦闘訓練を始めようと思うが……少しだけ、話をしてやろう」
その言葉に、さっきまで準備運動をしてた生徒の何人かが嫌そうな顔をしてた。だけど、気持ちは痛いほどよくわかる。
さっきまであんなに長い話を聞いたんだから、もういいでしょ? って思ってる生徒が多い中、ベルーザ先生は『仕方ないな……』みたいな顔をしてる。
「すぐに終わるから、少し聞いてくれ。この平和な世界でも戦いの訓練をする理由……わかるか?」
「ふとしたきっかけで戦争が起こるかもしれないから……ですかね」
「それもある。現に紛争が起こっている地域もあるからな。盗賊や内乱の可能性も捨てきれない。だが、それだけじゃない」
「魔導学園王者決闘祭――通称魔王祭のため、ですよね」
「その通りだ。魔王祭は現在の戦争と言ってもいいものだろう。魔大陸に存在する数ある学園の中で最も強い者を決める祭り……。この祭りの優勝者が存在する学園を持つ国には、魔大陸において非常に強い発言権が与えられる。だからこそ、この戦闘訓練にもあらゆる国が力を入れている……そういうわけだ」
あまり頭を悩ませるような話じゃなかったおかげか、みんなの顔にはどこか安堵したような表情を浮かべてた。要は、だからお前達も強くなれってことなのだから。
「毎年春頃に行われる予定だが、生憎一年生は出場権がない。君達には来年の魔王祭の為に、頑張って欲しい……という訳だ。これで話は終わりだ! 訓練に移るぞ!」
最後に大声でそれだけ言ったベルーザ先生は木剣をみんなに配り出した。自分の得意武器を最初から持ってる子には別に用意してるみたいだけど、自分がどんな武器を扱えるのかわからない子にはまず剣から教えて判断するらしい。
私にも木剣が渡されたんだけど……ちょっと困ってしまう。ちらっと他の生徒が軽く素振りをしてるのを見るだけで、ある程度の実力がわかってしまって……私の剣術を見せてしまったら、間違いなく悪目立ちする。少なくとも、今のように平穏には過ごせないだろうな。
強すぎる力は誰かに恐れられる。昔の私もそうだったから、それは身に染みてわかってる。この世界でまた……もしもまた、あの時の悪夢のような生活が待っていたら――……そんな風に考えると、こんな事はあまりしたくなかった。
「よし、まずは……武器の扱いに慣れてる者は各人で模擬戦を行ってくれ。慣れていない者は僕が剣を教えるから、速やかに分かれるように」
みんながそれぞれ分かれてるのを眺めてた私も、こっそりと武器を教わる組に紛れようとしたんだけれど、ベルーザ先生がそれを見つけて……呆れた目で私の事を見ていた。
「エールティア。君は剣を習った事があるだろう?」
「えっと……もう一度復習がしたくて……ね?」
出来るだけ可愛らしく首をこてんと傾げて『ダメ?』とアピールしてみたんだけど、ベルーザ先生には全く効果がなかった。
「そういうのは自分の家でするように。ほら、模擬戦組に行きなさい」
どうしても訓練組に行くことを許してくれなかったベルーザ先生に、内心で『べー』と舌を出しながら不満そうに模擬戦組の方に行くと……リュネーもそこにいてくれた。
「ティアちゃん、どうしたの?」
「ううん、ただちょっと模擬戦っていたそうだからやだなぁ……って」
「ははっ、ティリアースの王族って言っても、やっぱ女じゃあな」
今の馬鹿にしたような言葉にムッとした視線を向けると、ちょっと黒みがかったオーク族の男の子――アストラ・セクルゥが馬鹿にしたような目で私を見てきた。
「女を馬鹿にする発言……やめてくれない?」
「だったら俺と戦え。世界に名だたる強国のティアリース。その王族なら、恥じない実力を見せてくれよ」
荒い鼻息を吹きかけるような態度を取ってくるアストラに、私は少しげんなりしてしまう。
あー、嫌だなぁ……なんでこういう人種って、他人を下に見るのが好きなんだろう? ちょっとは周りの迷惑を考えてほしい。
「それとも、女だから出来ないってか? ま、人には得意不得意ってのがあるからな。いくら武を重んじる強国の女って言っても、他の国の女と変わんねぇな」
「……いいわ。やってやろうじゃない!」
アストラの言い方にカチンと来た私は、木剣の先を突き付けるように向けた。さっきから女、女と馬鹿にした発言も許せないけれど、この男の子の私や、他の女の子を甘く見てる態度が気に入らない。私が一番嫌いな人種だ。
「ははっ、ようやくその気になったか。それじゃ、行くぞ」
アストラが持ってるのは木で作られた両手で持つような大きな斧で、それを大げさに左右に振ってアピールしてくるんだけど……別に金属で作られた訳じゃないから迫力には欠けるかな。
「さあ、かかってこい!」
威勢よく指をくいくいっと挑発してくるけど……なんでそんなに自信たっぷりなんだろう?