504・鋼鉄の戦い(ファリスside)
少女の姿をした死神が戦場に放たれたのは、彼女が敵を視認し、人造命具を抜いた数刻程後の事。
満身創痍な軍隊を追い詰めていたダークエルフ族軍に立ち塞がるように現れたそれに誰しもが驚き、かたや嘲り、かたや諦めを浮かべていた。
「燃え尽きなさい――【フラムブランシュ】!!」
白い炎が線のように解き放たれ、一直線に敵軍を焼き払う。それはファリスが思い描いていた光景。万の軍勢をすっぽりと覆い隠すほどの太い炎線は極限まで少女の魔力を喰らい、肥大し、望みを叶える。
あっという間に作り出されたそれは、灼熱地獄と呼ぶに相応しい空間を生んでいた。
――たった一撃。言葉で表現すれば簡単だが、理性が思考が、感情がそれを遮る。結果として繰り広げられる光景を唖然とした表情で見つめている猫人族達。
そんなものは物ともしない冷たい瞳は炎の魔導が収まったと同時に焼け残った敵を捉える。
一陣の風となって走り抜けた少女の肢体は軽やかに舞い、鋼鉄の獣は瞬く間に首を落とす。
(ティアちゃんの言う通り、強化系の魔導は事前に使っておけば問題ないみたい。人造命具も少し切れ味が落ちたくらいだし……こんなのに苦戦したのが馬鹿みたい)
初めてクーティノスと相見えた時は地下深くの一室。おまけに天井はいつ崩れ落ちても不思議ではない場所だった。その事を加味しても、油断して痛烈な一撃を喰らった自分が許せないのが彼女の性だった。
「……っ、怯むな! 相手はひ――」
味方を鼓舞しようと大きな声を上げた瞬間。その全てを口に出来ない内にその首は落とされ、物言わぬ骸と化した。
――沈黙。無情に動く兵器達の音以外の全てが失われていき、生きている者達は静寂の中に包まれる。
その中でファリスのみが空を裂き、軽やかに動き回り、次々と兵器達の行動を停止させていく。
クーティノスは首を切り落とされ、中央の核になっている魔石を砕かれる。
「【フレスシューティ】!」
空中に出現した複数の炎の塊が一直線にメルシャタに降り注ぎ、その防御力をものともせずに炎と着弾時の爆発で破壊していく。一見、拡散させて一気に殲滅する方が正しく思えるが、一発一発に可能な限り魔力を注いでいるが、クーティノスが近くにいる以上、威力は下げられてしまう。故にあまりばらけないようにまとめて一体に集中させ、確実に撃破する事をファリスは優先させた。
「【フラムブランシュ】!」
二度、三度と立て続けに魔導を発動し、物理防御力に特化しているメルシャタを破壊していき、自らが生み出した人造命具によってクーティノスは機能を停止していく。そして残ったグロウゴレム――フィシャルマーは【フラムブランシュ】の広範囲を焼き払う炎の熱線によってファリスの戦闘力を学習する事もなく屑鉄となっていく。
(やっぱり魔導で攻めるのが効果的みたい。あの鎧も避ける事が出来なきゃ学習も何もないものね)
いくら相手の技術を取り込んで成長するフィシャルマーと言えど、動く為に魔石を核として動くゴーレムは思考する『脳』と呼べる部分が存在しない。『声』がなければ魔法を放つ事は出来ないし、『脳』がない以上イメージを膨らませて魔導に転換する事も出来ない。純粋な戦技のみ吸収する兵器に魔導を駆使した戦闘を得意とするファリスが負けるはずがなかった。
「す、すごいにゃ……」
惚けて見守るしか出来ない猫人族の一人がぽつりと呟いた。呆気にとられるしかない。それほどまでに圧倒的な光景が繰り広げられていた。この場にエールティアがいればそれでも本気を出していないだろうと認識されてしまうだろう。しかし、今ここにはベルンを含めた猫人族の軍勢しかいない。あまりにも見たことのない超常的な光景にありきたりな言葉しか浮かんでこないのは仕方がない。
「くっ、くそっ……!!」
逆に悪態しか出てこないのはダークエルフ族の軍勢だった。今までの優勢が嘘のように消え失せ、たった一人の加勢によって形勢が逆転。一気に不利になってしまったのだから。
たった一人。彼女さえ押さえてしまえば再び攻勢に移る事が出来る。それがわかっているのに出来ない。自分達よりも強力な兵器が次々と鎮圧されていき、まるで悲鳴でもあげているかのように音を立てて崩れ落ちていく。果敢に声をあげて鼓舞しようとしても、その人物の首を刎ねて速やかに黙らせる。【シックスセンシズ】のおかげで超強化された感覚のおかげで何か行動を起こそうとした瞬間を見逃さずに制圧させる。そうする事で一度混乱した状況を治めないまま、軍勢の足並みを揃えさせずにかき乱し続ける。
これはファリスが意図してやっていることではない。自らの直感を信じ、無自覚で行っていた。彼女の戦いのセンスはエールティアに出会ってから更に磨きがかかっていた。
次々と敵を葬っていくその姿は、生物を相手にしていたら血に塗れていただろう。しかし現実はもっと煌びやかで、ダークエルフ族の兵器を砕く彼女は破片の反射光を浴びてキラキラと輝いていた。




