489・光の正体(???side)
――暗闇。そこはほんの僅かに明かりが灯っている部屋。そこに集まっていたのは六人の男女。その全てがダークエルフ族で構成されており、違いといえば歳と恰好くらいのものだった。
「……それで、例の砲はあれを仕留めたのか?」
重苦しい空気の中、真っ先に口を開いたのはその中でも若い部類の男。精悍な顔つきは眉目秀麗な彼らからすれば異質な存在であり、だからこそ一目置かれていた。
「いえ、あれを仕留める事は叶いませんでした。流石は聖黒族の姫と呼ぶべき存在です」
バン! と強くテーブルを叩く音。それは報告した壮年の男性を叱責するようなものだった。
じろりと睨み上げるのは二人の男性の中間くらいの年恰好の女性。少々赤い勝気な目が余計に性格のきつさを表していた。椅子を倒しかねない程の勢いで立ち上がった女性に一斉に視線が移る。
「『仕留められませんでした』で済む話ではないでしょう? 事は既に始まっている。お遊びでやっている訳じゃないんですよ!!」
「まあまあ、落ち着いて下さいよ。そんな風に怒ってはいけませんよ」
ぎろりと睨み返した女性の視線を涼し気に受け止めているのは穏やかな雰囲気を身に纏っている。その姿は何も言わなければ花畑とかが似合っているだろう。しかし、今は薄暗い部屋で大きなテーブルを六人で囲んでいる状態。あまりにも似つかわしくない状態だった。
「わかっています! だからといってそれで終わってはあまりにも――」
「落ち着け」
まくしたてるように怒鳴る勝気な女性を制したのは、先程の一番最初に沈黙を破った男性。威圧感のあるその一言に激怒していた女性はしばらく荒い息を吐いて「ふんっ」と一言だけ発して椅子に座って足を組む。
「聖黒族の次期女王。それも歴代の中で最も初代女王に近い存在なのだ。むしろあの程度の魔導兵器で消え失せては興が冷めるというものだろう」
「……ですが、それでは何の為にあれを使用したのか――」
「いいえ、実験の成果はありました」
今まで唯一言葉を発さなかった青年の男性は、眼鏡に白衣という如何にもインテリな姿をしている。他の者達が議論を交わしている間も、彼だけは目の前の資料をチェックし、頭の中で様々な思考を巡らせていた。
「現存している魔導砲【オーロラフラッシュ】の修復は完璧と言っていい仕上がりを見せております。何しろ最東端のこの地であの者を狙い打てるほどの精度。そして射程。これならば問題なく運用する事が出来るでしょう」
「ですがそれはこの一発で得られたものでは? それだけで『成果』と呼ぶにはいささか早計かと――」
「しかし、正確にあの拠点を貫いたのは紛れもない事実だ。何度も試射する事が出来ない以上、この一発も重要な成果と呼べるものだろう」
精悍な男の言葉に穏やかな女と壮年の男は納得するように頷いていた。今でさえ撃たれた国ではかなりの話題になっている。まさか超長距離からの一撃だとは思われていないからこそ疑われてはいないが、それを何度も撃てば気付く者も増え、場所を特定される可能性もある。時期的に重要な局面を迎えている今だからこそ、奥の手は最後まで取っておきたい。それはこの場にいる者達全ての総意だった。
「……まあ、確かに。繰り返して使う事が出来ない以上はそうでしょう。しかし、それではまだ足りない。違いませんか?」
「ふふっ、そう仰ると思いましてね。こちらの資料をご覧ください」
白衣の男が続けて渡したのはエールティアが戦っていた鎧の資料。黙々とそれに目を通していた彼らは、最初はあまり興味がなさそうではあった。が、読み進めていくうちにその内容に釘付けになり、勝気な女性と壮年の男性は特に熱心に読んでいた。
「これからもわかりますように、フィシャルマーはクーティノスやメルシャタと違って学習・最適化を行える兵器として運用出来る程の成果を上げております。ほぼ人型であるという特性を生かして各戦場に潜り込ませた結果、多種多様な成長を遂げ、一般的な鬼人族であれば勝利を収める事が出来るでしょう」
「しかしそれでは頂点とも呼ぶべき者達には届かないのではないか?」
「ご安心ください。これでもまだ成長途中。近い未来、あの聖黒族の者ですらも屠る事が可能となるでしょう」
近い未来。それは『いずれ』や『いつか』などよりも身近であり、想像する事が用意な言葉だった。
「……よろしい。ならばフィシャルマーを主軸とし、【オーロラフラッシュ】を使用する。魔導兵器が実用か出来るまでの繋ぎであった複製体の者達も組み込めば、如何に強大な敵国であろうとも攻略する事は不可能ではないだろう」
精悍な男の言葉には力があった。それは必ず成し遂げるという誓いのようなもの。長年埋伏していたダークエルフ族にとって、再び自らの存在を世に知らしめることこそ――自らがこの世で最も強き種族なのだと認識させる事こそ彼ら全ての目的なのだ。それが手が届きそうなところまで迫っている。それを感じさせる彼の言葉に反論など出るはずもなく……戦場は更なる苛烈さを増していくのだった。