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481・離れたくない二人

 なんとか鳥車のところに帰る事が出来た私達を待っていたのはジュールとあの拠点にいた連中だった。やっぱり一日や二日じゃ迎えは来ないみたいだ。なんだかあの顔を見るだけでうんざりするのは、散々あのダークエルフ族の老人に弄ばれたからだろうか。


「あ、ティア様! おかえりなさい」

「ただいま」


 なんとなくほっこりとした気持ちになったのは、メイド服で料理を作りながら嬉しそうに笑ってくれた彼女の姿に安心したからだ。


「む、わたしも帰ったのに……」

「ファリスさんもおかえりなさい。今シチューを作っているところだったんですが……二人とも食べますか?」

「え、ジュールって料理できるの?」


 ファリスは信じられないものを見るような目でシチューの入っている鍋とジュールを交互に見ている。今まで料理を振舞う機会がなかったのだろう。家ではコックやキッチンメイドの手伝いをしている事が多かったから、自然と備わったのだろう。基本的にレディースメイドとしての勉強もしているから、ある程度の事は出来るはずだ。


「私の仕事は戦いばかりじゃないですからね。いらないですか?」

「食べる食べる!」


 ようやく帰ってきてくたくたな上、ほとんど一日何も食べていなかったのだからお腹がぺこぺこだったのだろう。悲しそうな目をしながらジュールの元に駆け寄っていった。すごく子供っぽくてかわいい。


 両手でシチュー皿を受け取って、味を見るようにひとすすり。ぱあっと笑顔の花が咲いて、更に少しずつ食べ進めていった。


「ティア様もどうです?」

「ええ、ありがとう」


 私もお腹が空いていたし丁度いい。出来れば水浴びもしたいけれど……それをするには町の宿屋に行くしかない。今日一日はゆっくりすると決めていたし、後で宿に行こうかな。


「それで、ジュールの方はどう? 何か変化なかった?」

「こちらは特に何もありませんでしたよ。捕らえた人たちも大人しくしていましたから」


 身動きも取れないように縄で縛られているのだから、暴れることは出来ないだろう。もしかしたらジュールが情にほだされないかとも思ったけれど、余計な心配だったようだ。


「ジュール、貴女も疲れたでしょうから今日は町の宿にでも泊ってよく休みなさい。彼らの見張りは私がやっておくから」


 身体さえ休める事が出来れば魔力は自然と戻る。万が一彼らが逃げようとしても簡単に対処する事が出来るしね。


「で、でも、ティア様は今戻られたばかりですし……」

「大丈夫。明日になったら私も宿を取って休むから」


 もちろん自分の事を優先したい。疲れているのも事実だし、良質な休息は魔力の回復を促進させる。だけど私はジュールやファリスに比べると丈夫に出来ている。多少は無理が効くから問題ない。


「で、でしたら……ティア様のお側にいさせてもらってよろしいですか? その方が私もゆっくり休めますから」

「え、でも向こうだったら湯浴みした後身体を休めるくらい――」


 ジュールの真剣な表情を見てしまった私は、それ以上何も言えずになってしまった。私のそばにいたい――たかだかそんな事でそこまでの目をされたら、拒絶なんて出来ない。


 いくらそれなりに田舎な町とはいえ、お湯ぐらいはあるだろうに、勿体ない。そんな感情はもちろんあるけれど、それをぐっと抑えた。


「……わかった。だったら私の近くにいなさい。だけど、あまり無茶しないようにね。まだまだ拠点の攻略は続くんだから」

「――はいっ!」


 ぱあっと笑顔が咲いて、途端にご機嫌になった。


「良かったの?」

「元々あの子のためを思ってのことだもの。自由にさせるのが一番でしょう」


 少し呆れる。でもその方がジュールらしいのかもしれない。


「ファリスも休めるなら休んだ方がいいわよ」

「わたしもティアちゃんのところが落ち着くからこのままでいいよ。身を隠せる場所があれば水浴びぐらい簡単だしね」

「そんな事で魔導を使ってたら、先人達が泣いてしまうでしょうに」


 ファリスが何を考えているのかわかった私は、深いため息を吐き出す。水系統の魔導を使って適当に済ませるつもりだ。

 魔力で生み出した水はあまり身体に良いとは言えないのにね。

 ……まぁ、最悪私も同じ事しようと考えていたからあまり強くは言えない。


「それじゃ結局誰も町には行かないってことね。明日になったら私は行くけれど……それでもいいの?」


 二つの頭が縦に揺れる。どうやら余程私の側にいたいらしい。全く、こんな物好きはそうそういない。なんて思いながらちょっと嬉しくて笑っていると、誰かが来るような、そんな気がして、【サーチホスティリティ】を起動する。


「ティアちゃん? どうしたの?」


 突然な私のこと行動に戸惑っているジュールをよそに、地図上にはどんどんこちらに近づいてくる二つの青い点が見えた。


「誰かがこっちに近づいてきてる。多分、味方ね」


 誰が何の目的で近づいて来ているのかは知らないけれど、多分重要な事なのだろう。

 しばらくして現れたのは猫人族と鬼人族。珍しい組み合わせの(多分)男女だった。

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