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459・異様な町の空気

 以前訪れたことがあるデルゼンドだけど、やっぱりあまり変わらないというか……今まで行った中でもかなりの田舎度合いだ。とはいえ、領主の住んでいる町だからそれなりに人はいる。ラントルオが通れる広い道も整備されていて、活気はある……のだけどそれだけだ。

 特産品や特出した産業もなく、リシュファス領と他の領地を繋ぐ中間地点の一つのような立場だ。

 ……ただ、現在はその役割すら果たしていないんだけどね。帰ってくるまで知らなかったけれど、今のリシュファス領は陸路を使えない。こちらから他の領地に出入りすると関税が相当掛かるようになったらしい。商売を行うにはどこから来たのかと所属している商会の記入が必須で、それに加えて現在どこの住民として登録されているかの証明書が必要だから迂闊な嘘を記入する事は出来ない。そしてリシュファス領はその領地の性質上、リシュファス家と対立している領地を通らずに商業を行う事が非常に難しい。なら海路という手も考えるのだけど、海は世界樹の効力の範囲外まで出ないと交流出来ないから現在の技術で造られる船では結構難しい。海は強力な魔物も出てくるし、並の兵力では太刀打ちできない。船という安定しない場所での戦いは不慣れだから尚更だ。

 ならば空からというのが定石なんだけど、ワイバーンは空輸の為に使われるから無駄には出来ないし、軍に配備出来る数も限りがある。そして他の空を飛ぶ魔物は手なずけられていないのが現状。

 竜人族なら――というのもあるけど、彼らだっていつ終わるかわからない航路開拓に駆り出されるのは嫌だろう。海なんて不確かなものを使うより、比較的安全な空を用いた方が遥かに効率がいいのだ。サウエス地方内なら世界樹の効力も適用されるから天候による遅延の心配もいらないしね。


 とまあ、使える流通手段は陸・空路しかないのにその内の片方が実質不可能になっている訳だ。以前はここまで露骨じゃなかったんだけれど、決闘が終わって魔王祭が始まった辺りからこうした嫌がらせが行われているらしい。そんな中で私が領地に侵入してきたのだから心穏やかではないのだろう。町全体にどこかピリピリとした空気が伝わってくる。周囲で兵士達が見張りを行っているのがその原因の一つだ。無駄に警戒してるから町の人達もびくびくしている。これでは恐怖政治でも行っているみたいだ。


「……なんだか、あんまり良くないですね」


 嫌な空気が立ち込めている中、ジュールは暗い声で鳥車越しに街行く人の姿を見ていた。

 ファリスも少し不機嫌そうにしている。傍から見たら何も思っていないように見えるけれど、私からみたらまるわかりだ。


「以前はこうではなかったのだけれどね」

「……そうですね」


 出会った時とは違い、口数の少ないコッテラ。言いたくないと態度に出ていて、あまり深くは聞きにくい雰囲気を作り出しているけど、正直私がいるからというのがばればれだ。もう少しなんとか出来なかったのかとも思うけれど、あまり無理は言えない。それほど警戒しているということだろう。

 鳥車は一番大きな屋敷の中へと入って、内部の庭で停車する。それと同時に取り囲む様に使用人が現れて、列をなして道を作る。明らかに余計な場所に行かないように遮ってる。


「お待たせしました。どうぞ屋敷へとお入りください」


 先陣を切って扉を開けたコッテラは、私達に屋敷へ向かうように仕草で促す。

 なんだか命令されているようにも見えるそれに不満をあらわにしそうになる二人を宥めるように手で制して先に降りる。今は穏やかな心でいなければね。


 降り立ったと同時に一斉に頭を下げられる場面は見てて壮観だけど、きっと女王になれば見飽きる程見せつけられるんだろうな。

 そう考えるとなんだか嫌になってきたから素早く屋敷の中に入ると――その使用人の通路の先には一人の男が待ち受けていた。


「お待ちしておりました。エールティア嬢」

「こちらこそ、ご招待ありがとうございます。ヒュッヘル卿」


 今は立場的に私の方が上なのだが、何も知らない彼にいきなり上から目線というのも間違っている。それを知ってるのは私達だけだしね。あくまで下として振舞っておかなければならない。いつものようにカーテシーでの挨拶を行うと、ヒュッヘル子爵は少しだけ満足そうな表情を浮かべていた。この程度で自尊心が満たされるのだから器が知れる。


「いえいえ、急に呼びつけたような形になって申し訳ない。一度貴女とはじっくり話し合いたいと思っていたのです。同じティリアースの貴族に連なる者として」

「それは光栄ですわ」


 微笑む彼に対し、私も同じように返しておく。どうせ互いに作り笑いだけど儀礼的なものとして必要なのだ。


「立ち話もなんですからこちらに。ささやかながら食事も用意しております」

「……それではお言葉に甘えて」


 食事をしながら――なんて和やかに出来るような話はしないだろうけれど、まあ乗ってあげよう。

 面倒でもこういう事に付き合うのもまた貴族のお仕事みたいなものだ。腹の探り合いはあまり得意じゃないけれど、仕方ない。受けて立とうじゃない。

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