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441・穏やかな暮らし

 ほんの僅かな穏やかな時間。ダークエルフ族の脅威とか、そういうのを一切気にしない生活を送る事の素晴らしい事を肌で感じながら、久しぶりに学園に行ってみる事にした。

 現在は緊迫している状況という事もあって、学園は帰郷した学生は休学扱いにして、残っている生徒達には普通に授業を行っているようだった。いつでも逃げられるように準備はしているようで、対策は考えているようだ。

 ……まあ、元々学問よりも戦闘に関する授業が中心だからそうもなるだろう。もちろん一般常識を始めとして政治なども教えてはいるけれど、専門の学部を設立している学校と比べると些か見劣りがする。それでも教えていないよりは全然マシなんだけど。

 王都を含む他の学校は休校して生徒達も実家に帰っているらしいからこの学園だけが特殊な事がよくわかる。王族や貴族と呼ばれる種類の人達は大半自らの親の領地に戻っているから、今残ってるのはここに安全を確信している人種か、強さを追い求めている人達かのどちらかだろう。


 聖黒族の領地というだけで攻撃される可能性は非常に高いのだけれど、それだけお父様やお母様が信頼されている証だろう。ハクロ先輩なんかの実家が近い人たちもここに残っていて訓練に励んでいるらしいし、一度挨拶に行った方がいいかもね。

 ちなみに私達も新しい年を迎えた時から休学中という事になっていて、いつでも学園に戻れるようにはなっていた。だったらもう少し校則を整えるとか他にすることはあると思うのだけれど……今は何も思うまい。


 とりあえず今はのんびり庭園を歩いて短いひと時を充実させている。雪風、ファリス、ジュールの三人も今は離れていて、本当に一人っきり。

 ……いや、保護者のような監視者は相変わらず離れた場所にいるけれど、そこは気にしない。真に一人なんて絶対にあり得ない事だしね。人によっては鬱陶(うっとう)しいと思うのかもしれないけれど、子供の時からこんな感じだから慣れてしまった。最初はちょっと嫌だったけどね。

 広がる花畑の中でそよそよとした風を身体に浴びながら、ふと気になっていた事に手を付けることにした。


 それはあの拠点から持ち帰った地図だ。あれにはダークエルフ族の拠点の事が詳しく書かれている。女王陛下とガンドルグ王の二人に渡した後、残っていた地図は私が大事に保管していた。というか中々見る時間がなかったから大切にしていただけなんだけど。ヒューの前で見てはいたけれど……あれだって大雑把に見ていただけだ。ガンドルグの周辺に他の拠点があれば教えてあげようの感覚でしか見ていなかった。

 細部――というか今度はティリアース周辺を詳しく見てみたい。ざっと見た時にも幾つか拠点を見つけたのだけれど、せっかくだから貴族達の領土が書かれている地図と照らし合わせる事にした。


 こういう事が出来るのは自分の国ならではだろう。流石に他の国の内情を調べる気もなかったし、ガンドルグ王もあまり良い気分はしないだろうしね。

 ティリアースの領土だけだけどどこがどの貴族の領地なのか詳しく書かれている地図を広げて、その隣に拠点の情報が載っているサウエス地方の地図を広げる。同じ範囲じゃないからちょっと見にくいけれど、まあ誤差の範囲だろう。


 優雅なひと時を過ごしながら敵対勢力の拠点の位置を調べているなんて私くらいのものだろう。

 さて……それでは早速見比べてみよう。


 ――


「ティア様、何をなされているのですか?」


 ジュールの声が聞こえてきて顔を上げると、不思議そうな顔をしたジュールが私を見下ろしていた。ついでに陽が傾きかけていて、いつの間にか夕暮れ前ぐらいの時間になっていた。

 いくら周囲が安全といってもちょっと時間を掛け過ぎてしまった。昼食後に始めたはずなのに……。


「この地図を見比べていたのよ。ちょっと興味深くてね」

「これ……あのダークエルフ族の拠点の地図ですね。ティア様……せっかく帰ってきたのですから……」


 ジュールが呆れて物も言えない――みたいな表情になっているけれど、私だってこの時間を大切にしている。だけど、気になる事があったらつい調べてみたくなってしまうのだ。それに、おかげで面白い事がわかった。


「ちゃんと休息しているから大丈夫。ちょっと暇だったから眺めていただけよ」

「……」


 じとっと疑わしい目で見てくる彼女の成長ぶりが目覚ましくて微笑ましい。以前ならもっと妄信的に私の事を称賛していたのに。おかげで疑惑の視線を向けているジュールを見てにやにやしているという何とも言えない状況を作り出してしまった。


「な、なんですか?」

「いえ。少しは成長したなと思ってね」

「当然です。ティア様と一緒に私も日々成長してます! それに――」


 今小さくごにょごにょと何かを言っていたけれど、上手く聞き取れなかった。

 聞きなおそうとすると、恥ずかしそうに後ろを向いてしまう。


「――そ、そろそろ夕食の時間ですので、遅れないようにいらしてくださいね」


 そのまま館の方に行ってしまったジュールを見送って、少しだけ笑みを浮かべる。彼女も中々頑張っているみたいだ。今度ファリスと訓練している彼女を見に行ってもいいのかもしれない。

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