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40・決着の刻

「『ファントムフレア』!」


 最初に動いたのはハクロ先輩だった。一気に私との距離を詰めて、新しい魔導を発動させてきた。ファントム……という事は幻みたいな魔導って事になるんだろうか……。

 例え幻影だとしても、まっすぐ向かってくる黒い炎を無視するわけにはいかない。


「『ガイアクラスター』!」


 出現した土の塊をハクロ先輩の放ってきた『ファントムフレア』にぶつけると……大きな爆発が起きて、小さな黒い炎がかなりの速度で私に向かって襲い掛かってきた。


「……なるほど。二段構えって事ね」


 あれは防ごうとしたらそれに反応して爆発する類の魔導って事か。もしかしたら、避けるだけで簡単に対処できたかもしれない。


「甘いっ!」


 私がハクロ先輩の魔導に気を取られているうちに彼は私に詰め寄ってきていた。


「どこが?」


 だけど、そんな事くらいわからない私じゃない。既に頭の中には魔導のイメージが構築されている。それはハクロ先輩の方も同じだろう。


「『フレアショット』!」

「『アイシクルバラージ』!」


 ハクロ先輩は炎。私は氷。それぞれ真逆の弾幕を張る魔導を放った。私も彼も、手数の多い攻撃方法を考えていたみたいで……しばらくの間、互いの魔導を相殺しあって、埒が明かないと判断して一度距離を取る。

 弾幕を張るタイプの魔導はどうしても威力が下がる。おまけにハクロ先輩の方がより多く魔力を注ぎ込んでるのだから、尚更膠着する。


 ……いくら彼が【覚醒】したって言っても、それでも私の本気に遠く及ばないっていうのは悲しい事なのかもしれない。それでもこの世界で戦った中では一番強い存在には違いなかった。

 だからこそ、本気の片鱗を見せてあげる事にした。イメージするのは細胞すらも残さず分解する雷。原子の力を秘めた全てを消し飛ばす一撃!


「『プロトンサンダー』!」


 魔導によって生まれた白に近い黄色い雷の球が私の周囲にいくつも浮かんで……互いに共振するようにバチバチと音を立てながら雷を中心に集めて、一気に解き放つ。それは全てを分解する魔力の雷。


「『殺生石』!」


 ハクロ先輩は迎え撃つように大きくて透き通ってる鉱石のような塊を放ってきた。それの周囲には小さくて鋭く加工されてる同じ鉱石が回るように浮いていて……それよりなにより、その石が纏っている闇――というよりも死の気配が少し恐ろしく感じる。

 あれは当たれば、かなり不味い事になってただろう。もちろん……当たれば、だけどね。


「……くっ!」


 私の『プロトンサンダー』と激しくぶつかり合ったけれど、ハクロ先輩の『殺生石』では、私の魔導は止められない。出力・イメージ・魔力の全てにおいて今までの彼が出してきた魔導から、大まかに検討した最大出力の攻撃よりも上回るようにしてる。


 互いに轟音を立てていたけれど……やがて『殺生石』は粉々に砕け散って、驚愕したハクロ先輩の身体を『プロトンサンダー』が蹂躙した。本来なら命中した相手を跡形もなく吹き飛ばす程の火力を持つ魔導だけれど、多少魔力を抑えて、ハクロ先輩の『殺生石』とぶつかった結果なのか、はたまた結界具のお守りの効果は知らないけれど、清らかな音が響いて、身体を訓練場の壁に叩きつけられる程度で済んだ。


 もっとも、その衝撃を殺す事は出来なかったから、肺が圧迫されて酷い事になったしまったけど。


『……はっ! き、きき、決まったぁぁぁ! 勝者、エールティア・リシュファスゥゥゥゥ!!』


 訓練場全体がしーんとした沈黙の中、呆けるような顔をしてた司会のヘリッド先輩が正気を取り戻して、大声で決闘終了を宣言してくれた。


 それにほっと一息ついて……倒れてるハクロ先輩に近寄って、彼の容態を確認する。かなりボロボロだけど、生死に関わる傷はない。これくらいなら――


「『アクアキュア』」


 魔導で癒しの力を持つ水を呼び出して、ハクロ先輩をそっと包み込む。水が傷口に触れると、しゅわしゅわと音を立てて塞がっていって――私は自分が感じていたら非難の目が、和らいでいくのを感じた。


『これは素晴らしい…….エールティア選手は傷付いたハクロ先輩の身体を治療しているみたいです』

「なんの……真似だ……」

「決まってるでしょう? 傷を治してるのよ。黙って治療受けなさい」

「なん……で?」


 ――さっきまで怒りを向けた自分をなんで?


 そんな風に考えてるんだろうけど、私にとって、それは過ぎたことだ。明確な敵意はあった。けれど私が『プロトンサンダー』を使う前まで、彼は死ぬ可能性のある『殺生石』を使う事はなかった。はっきりとした殺意がない人を殺すなんて……後味が悪い。


「貴方は中々見所があるからね。それに……貴方の戦い。結構楽しかったわ。またしましょうね」


 この戦いで、彼が私にどんな思いを向けてきたのか伝わってきた気がした。血筋だけの――才能だけの女。努力もなしに特待生クラスにやってきたと思われたら、彼のように努力をする人は面白くなかっただろう。


 だけど、この戦いを通して……私の事も少しは彼に伝わったはずだ。

 その証拠に……ハクロ先輩は呆れたような苦笑いを浮かべてくれたのだから――

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