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385・帰る場所へ

 心配していた食事はアイビグの危惧していた通りにはならなかった。簡素ながらも丁寧に作られた料理が出てきた。ジュールも対して疲れていなかったし、全然問題なかったようだ。


 後で話を聞いたところ、一番最初に読んだのが料理の本だったらしい。あまり興味はなかったけれどクーロに美味しいものを食べてもらいたいから……と言ってたな。

 アイビグもスゥの為に何か作ったら? ってからかい混じりに言うと、バツが悪そうにしていた。


 それからは……結局私達は宿を取っただけで基本的にヒューマが管理している拠点を中心に活動していった。

 最初はアイビグ達を気遣って行き来するという事に決めていたけれど、実際二人ともここで寝泊まりしてもなんともないみたいだった。

 もちろん、向こうが私達を気遣っている可能性はあるけれど、少なくとも体調が悪いとか感情が落ち込むとか……そういう具体的な変化はなかったから多分大丈夫なのだろう。


 それなら可能な限りこっちで情報を集めて、休んでいる時に整理するのが一番だ。効率はいいし、速やかに情報を集めてみんなと合流する事もできる。

 ここにくる前に一応期限を七日に設定しているから、それを目安に行動しないといけない。


 今は四日目の朝。移動の時間も含めると――大体明日くらいには出ておきたい。向こうで一日休みたいしね。

 あの気味の悪い部屋の資料もかなり読んで、全員で色々話し合って情報整理も出来たし、成果は十分にあった。

 彼らが次にやりそうな事も大体目星がついたし、みんなにそれを共有して今後に役立てたい。


「そろそろ一度戻ろうと思うのだけれど――」


 朝食の為に集まったみんなに帰る事を告げると、クーロは意外そうな顔をしていた。


「エルかえっちゃうの?」


 悲しげに私を見つめてくるものだから、なんだか悪い事をしている気持ちになってしまう。

 それを宥めるようにヒューマがやってきて、優しく頭を撫でていた。


「クーロ、仕方がない事なのですよ。彼女達はここに探し物をしに来ただけなのですから。遅かれ早かれ別れはくるものです」

「……うん」


 涙目になりながらクーロはヒューマに抱き着いて、お腹の辺りに顔を埋めた。


「……もうちょっと後からでも良かったんじゃないか?」

「準備する時間もあるのですから仕方ありませんよ」

「うん……そうだよね」


 なんとか会話に入ってきたスゥは、多少眠そうにしている。昼や夜では面倒そうにして、朝は眠そうって、もはや全くやる気を感じられない。まるでそういう動物って感じがする程だ。


「それで……いつ帰られるのですか?」

「七日後に戻るよう言ってるから、明日か明後日には出ないといけないわね」

「そうですか。それは寂しくなりますね」


 どこか悲し気に微笑む彼の口からは『一緒に行っても良いですか?』という言葉は出てこなかった。たった四日だけれど、それなりに密のある時間を過ごしてきた。行動を共にしたい――そんな思いが湧いて出るくらいにはね。


「……一緒に来ないのか?」

「僕はここの管理人です。職務を放棄して離れる訳にはいきません」

「だけど、それは【隷属の腕輪】で縛られてるからだろう? エールティアの姫様がそれを解除すれば――」

「いいえ。それでも、です」


 アイビグはどこか必死の様子だけど、そんなに一緒に行きたいのだろうか? なんて思ってると、スゥがふよふよとこっち側に漂うように飛んできて、私の肩にだらんと乗ってきた。


「スゥ?」

「アイビグ、ちょっと熱いから」

「そう」

「自分と重ねてる。だから……熱くなる」


 スゥのどこかうんざりとした声音で、アイビグがなんでヒューマに熱を上げているのか理解出来た。

 それは複製体として生まれ、ここで過ごした彼らだけにわかる事なのだろう。


「確かに、外の世界には自由があるのでしょう。ここで見られる景色よりも美しいものも多いのでしょう」

「なら――」

「――ですが、僕がここにいることで守れる景色もある……でしょう?」


 ヒューマの言葉にアイビグはとうとう詰まってしまった。

 この拠点にあるものはいずれ焼き払わなければならないものばかりだけど、今は必要なもの……そんなものばかりだった。

 下手に持ち出して行方が分からなくなるよりは、ここに留めておくのが一番だ。それなら……彼らのようにここを守る人が必要になってくる。


「最初は【隷属の腕輪】で仕方なく従っていました。ですが、エールティア様や他の方々が必要とされるのでしたら……いつでも見ていただけれるように守り人として留まる。それも悪くはありません」

「だけどそれは――」

「……全てが終わり、ここの本たちが必要なくなった時。その時には……是非新たな景色を見に行きましょう。僕やクーロ。そして、貴方も一緒に」


 にこりと微笑んだその姿は、決して折れない剣のようにすら思えた。


「……ああ、そうだな」


 結局アイビグの方が折れて、ヒューマとクーロはここに残る事になった。

 いつかは必ず外に連れて行く……そんな約束だけを残して、私達は滞在最後の一日を終えた。

 色々な思いを残して、アイビグはどんな気持ちでいるのだろう?


 スゥになら、その気持ちもわかるのかもしれない。長い付き合いに加えて、彼女も彼の事が好きみたいだしね。

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