344・語るダークエルフ
「それで、貴方達は何を企んでいるの? 魔王祭に向けて色々やっているみたいだけど?」
「僕達の目的はいつでも決まってる。それはお前が一番よくわかっているだろ?」
相変わらず自分の立場がわかっていないような挑発的な態度を取っているけれど……それについて何か言っても改めるつもりはなさそうだから放っておく事にした。
そんな事で時間を取られたら、それこそ彼の思い通りだ。
「聖黒族を貶めて、シュタイン達こそが優良種族である事を世に知らしめる。そして『エルフ』という種族名を自分達の手に取り戻す事……そうだろう?」
「ふん、失敗作風情が何を分かったクチを聞いている。エルフ族とは元々僕達の事を指すんだ。そこの幼稚な姿にしか成長できないふざけた種族が余計な事をしなければ……!」
どうにもローランの事を侮っているせいか、一々話の腰が折られてしまう。これじゃあ、先に進まない。
「だから今復讐を遂げよう……そういう事?」
「復讐じゃない。これは制裁だ。僕達を見下す全ての種族に仕置きをして、この世界の真の覇者とは誰か教え込んでやるのさ。そしてもう、準備は整いつつある」
にぃぃっと暗い愉悦を感じているように彼は笑う。それが不気味に思えてくるけれど、あまり怖くは映らない。
こそこそとあれこれを画策している人の神経は私には理解できない。基本的に正面からぶつかっていくタイプだしね。
「……ティアちゃん、早くこいつを殺した方がいいよ。わたしたちならこいつらの本拠地に案内できるし、変に何か仕掛けようとしてくるかもしれないしね」
「まあまあ……もう少し待って。ね?」
「……うん」
最初から興味の薄い表情で切り捨てようとするファリスをなんとか宥める。なんだかんだ言って聞き分けがいいのは彼女の美徳だ。多分……私に限った話になるんだろうけど。
「ふ、ふふふ、もう遅いぞ。お前達が知ってる拠点は全て撤収してある。もう何も残っていないさ」
「……随分用意周到ね」
ファリス達の案内で一つ一つ拠点を潰していくのも手かと思ったけど、やはり思う通りにはならないみたいだ。
それにしても……ファリス達が知っていた拠点は一つや二つじゃないはずだ。それら全てを撤収させるなんて中々できない。何か大規模な事を行おうとしている事は明白だ。
「ははは! 当たり前だ。何の為に僕達がここまで準備してきたと思う? 全てはお前達を粛清する為にだ!」
「威勢のいいことを言ってるけど、自分の立場理解した方が良いんじゃない? ティアちゃんのおかげで生きていられることを忘れないでよね」
「はっ、簡単に寝返った奴の言うセリフじゃあないよな。誰のおかげで産まれたかよくわかってないみたいだ」
少しでも考え事をしようとすると、シュタインが挑発してファリスがそれに乗る……なんてことがすぐに起こった。まるで意図的に邪魔しているようにすら思えるくらいだ。
「何を準備してきたか……それを教える気はある?」
「ああ。簡単だ。スライムで街の住民達を飲み込む。それとは別に複製人形共に主要な都市部を制圧する予定だ」
「……随分簡単に教えてくれるじゃない」
肝心の作戦は何も教えてもらえないと思っていただけに、簡単に口を開くとは思ってもみなかった。
何か裏があるのか、はたまたシュタインの言動自体が嘘なのか……。
「はん、疑っているな。安心しろ。僕の言ってる事は本当だ。わざわざ嘘を教えるつもりなんてないさ」
「どういう風の吹きまわしかしら? 貴方がそんな風に素直になるなんて」
「どうせお前達には食い止められないさ。どれだけの数のスライムがあると思う? いくらお前が魔導に精通していても、あらゆる場所で同時に起こる出来事は止められはしない」
なるほど。最初からある程度成功すると思っているからこそか。確かに複数の国で暴動が発生すれば、いくら私でも犠牲が出ない前に止める事なんて出来ない。
スライムを一体一体潰していっても、甚大な被害が出る事は間違いないだろう。そうなれば復興にどれほどの労力を割かなければならないか……。
下手をしたら、これを好機と思って戦争を仕掛けてくる国も出てくるだろう。彼らにはそれが見えているから、こうしてべらべらと私に話して優越感に浸っているのだろう。自分が劣勢の今の状況でそこまで出来る神経が凄い。尊敬は全くできないけれど。
「……約束よ。どこにでも消え失せなさい」
「ふん、本当にいいのか? 後悔する事になるぞ?」
「約束したことを違えた方がよほど後悔する事になるの」
それに――これ以上何かしようものなら、一切の容赦はしない。
威圧するように睨んだ私に気圧されたシュタインは、怯えるように後ろに下がり、そのまま逃げてしまった。
「……良かったのか?」
「ええ。どうせここで殺しても変わらない。取るに足らない命に時間を掛けるより、早く行動に移さないとね」
不満げに見つめる視線に答えながら、シュタインが逃げて行った先を見つめる。
本当に正しかったかわからない。だけど、手に入れるべき情報は大体手に入れた。
後は――どれだけ早く動けるかだ。




