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337・闇から討つ者

 シュタインが潜伏しているであろう建物を見張りを静かに制圧して、【バインドソーン】で拘束していく。こうしていけば例え目が覚めたとしても動くことは出来ない。余計に茨が食い込んで痛むだけだろう。


「……見事な手際だな」


 感心するような声を上げてないで、少しはこちらを手伝って欲しい。


「そう睨まないで欲しいな。俺はエールティア姫のように自在に魔導を扱う事は出来ないんだからさ」

「一応初代魔王様の複製体なんでしょう?」

「失敗作、のな」


 自嘲気味に笑うけれど、そこまで自分を卑下する事はないと思う。彼は確かに『ローラン』の力の一端を受け継いでいるのだから。色々と惜しいところはあるけれど……それは今後の彼次第だろう。

 全員を拘束した後、こちらに近づく者がいないか確認する。ひとまず誰もいないけれど……どうにも簡単すぎる。


「ローラン。本当に潜入してるのは五人なの?」

「俺がいた時は……だけどな。見たことがない顔ばかりだし……明らかに増員されている」

「随分頼りない事を言ってくれるわね。てっきり最近の話だと思ってたけれど」

「いや、最近の話だ。俺が雑用係を終えたのは魔王祭予選が始まってからだからな」


 考え込むローランの言葉が正しければ、確かについ最近と言える。ということは、そんな短い間でこの都市の人員を増やしたという事だろう。まるで魔王祭の為に準備しているように思える。


「……なんだか、嫌な予感がするわね」

「奇遇だな。多分、シュタインが今行動に移したことも関係あるんだろう。極力自らの事が表沙汰になるのを避けていたあいつがファリスに手を出すなんて……普段なら考えられない事だからな」

「何はともあれまずは行動あるのみ……でしょう?」

「……そう、だな」


 可能な限り物音を立てずに建物の中に侵入する。そこで地図を展開していた魔導を解除する。あれでは高低差がはっきりとわからないから、展開し続ける事に意味はない。


「まずは下から行きましょう」


 上への道と、下への道――二つの選択肢が私達の前に突き付けられている。二階に行くのも良いけれど、逃げる場所が多い地下に行くのが一般的だろう。


「いや、上から行こう」


 だけど、私のその考えはいともあっさり否定されてしまう。


「……理由を聞かせてもらえる?」


 くだらない理由だったらただじゃおかないぞ……そういう意味を多分に含んだ視線を向けても、ローランは全く動じていない。どうやら思い付きで言ったわけじゃなさそうだ。


「下にも道はあるが、上にも三階から屋根に出られる。そこを通っていける建物の一つも、あいつらの所有している物だ」

「屋根伝いに逃げる可能性が高いって事?」

「ああ。こういう時、シュタインなら大体の人が考えるであろうことと反対の道を取る。その方が時間稼ぎになる事が多いし、仮に拠点の一つがバレたとしても、追跡を振り切れる可能性が高いからな」


 言われて納得する辺り、私もその『大体の人』の括りの一つなのだろう。

 本来なら怒るところなんだろうけれど、私は何故か少し嬉しかった。常に特別扱いされ鵜づけてきたからこそ、凡人だと思われるのが良かったのかもしれない。


 それに彼の考え方も正しい。地下を迷宮みたいにするのは本拠地でもないのだから不可能だし、自然と事前に用意されているであろう道を使わないといけない。だけど屋根を通るなら……建物なら後から作れるし、それにあわせて土地を抑える事も出来る。土地が無理でも建物だけならどうとでもなるだろう。

 ただ、相当な準備が必要なはずだ。それも一年や二年じゃなくて、かなり長い目で、だ。


 思ったより周到に準備されている。流石ダークエルフ族は地下生活が長いせいか、隠れる事に秀でているようだ。容姿的にエルフ族を偽る事も出来るしね。


「それじゃあ、ローランの言う通りにしましょうか」

「よし、それじゃあこっちだ」


 特に反論する理由もなかったから、ローランの意見に賛同する事にする。ここは彼の言う事を大人しく聞いた方が良いだろう。

 階段を上がっていく最中にも時折敵が配置されていて、私が無効化して、私が拘束する。そしてローランはただ見てるだけ。全く、楽な仕事だ。


 案内させているだけにあまり強気には出られない……というのもまた彼のさぼりを容認している一つだろう。

 ……まあ、あまり下手な事されるよりは大人しくしてくれていた方がずっといい。そう思う事にして冷静にならないと、敵の拠点で愚痴を言う事になりそうだからね。


 二階、三階と昇るだけで七人は無力化してきた。やっぱり、ローランの持っている情報とは違っているようだ。

 だけど、全てが変わっているわけではないようで、ローランが数ある本棚の中にある本の一つを傾けると、隠されていた扉が姿を現した。妙に凝っている仕掛けだけど、こういうのが裏では流行っているのだろうか?


 そんな疑問を他所に屋根の方まで登ったローランは、そこで急に止まってしまった。

 何事かと不満げに彼の顔を覗こうとして――ようやく彼が止まった原因が分かった。


「おや……これはこれは」


 そこでは私達を待ち構えるようにシュタインと……黒い塊みたいなのがあった。

 どうやらこちらの行動を逆手に取られたようだ。だけどむしろ都合が良い。決着をつけるなら、早い方がいいんだしね。

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