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334・似てない複製体

「みっともないところ、見せてしまったみたいね」


 涙を拭いて、少し深呼吸して落ち着く。他人に涙を見せるなんて、本当ならあってはならない事だ。


「いいや。君は泣いてる姿も綺麗だったよ」

「……それで、シュタインの居場所はわかる?」


 あまりに良い笑顔で言われたから、忘れろと言う事も出来ずに話題を変える事にした。まともに顔を見てると多分苛つくだろうから、顔を少し逸らして。


「くっくっくっ……ああ、問題ない。あいつが行くところは大体予想がつく。シュタインは君達聖黒族を憎んでいるからな」

「はぁ……どうでもいいけど、私に迷惑が掛からないようにしてもらいたいものね」


 シュタインの恨み辛みはわかるけれど、それが正当化される事はない。私もそうだった。

 ……だから、何か起こす前にケリをつける。


「ダークエルフ族は聖黒族に虐げられていると思ってるからな。多分表彰式を狙ってくる……んだが、シュタインは一度祖国に連絡する為にダークエルフ族の同胞がいる町に行くはずだ」

「ここから近い?」

「王都から少し離れた場所にある寒村に一人。それなりの距離にある町に五人。俺は後者に行く可能性が高いと思う」

「それはなぜ?」

「シュタインは一刻も早く本国に報告したいはずだ。寒村の方は近いが、移動と伝達手段に乏しい。多少時間が掛かっても、町の方に行けば鳥車でもワイバーン便でも使える。そこにいる五人の誰かが連絡すれば、あいつ本人は自由に動けるからな。色々と便利が良いはずだ」


 ローランの考えを一つ一つ確かめるように頭の中で反芻(はんすう)する。彼がもし、裏切るつもりなら……そういうところまで含めて考えるけれど、彼の言っている事はかなり的を得ている。

 そこにもし、他の間諜(かんちょう)が存在しなかったら……の話になってしまう。

 流石になんでもかんでも信じるほど、私も浅はかじゃない。


 ……とはいえ、信じなければ先に進まないのも事実なんだけどね。


「わかった。なら、町の方に向かいましょう。どの町?」

「副都マルヒュイムだ」


 副都……ということは王都の次に大きい都の事か。それはさぞかし隠れるのにうってつけな場所も多いだろう。


「隠れ家はどこまで知ってる?」

「大体はな。俺は元々失敗作だったから、その分雑用係に回されたんだよ。複製体の中でも、俺は誰にも……似ていないからな」


 どこかバツが悪そうな顔をしているけれど、言われてみればそうだろう。ファリスは初代魔王様によく似ていた。肖像画でしか見たことないから、詳しい判断はしなかったけど、冷静な頭で考えてみたらそうだろう。


 多分ライニーも誰かの複製体だったのだろう。どんな形で顔が残っているのかわからない。大きな舞台でそっくりさんが戦うのは問題なくても、裏で動き回るのには向いていない……ということだろう。

 その点で言えば、同じ初代魔王様の複製体なのに男として生を受けたローランは適任と言える。元になった人物に似ていない……という事は、どの国に行っても顔が知れていないということだしね。


 私だからこそ、ローランが転生前の彼に似ていると気付けたわけだしね。


「でも、そのおかげで隠れ家を見つける事が出来る訳でしょう?」

「……そう、だな。そう思う事にするよ」


 少し嬉しそうに笑う彼が少し可愛く思えてしまう。今そんな風に和んでいる訳じゃないんだけどね。

 私が生暖かい視線を送っているのに気付いたのか、ローランは照れて頬を掻いていた。


「それで、いつ出発するんだ? なるべく早い方が良いんだが……」

「それもわかってる。私だって表彰式には出ないといけないから……明日にでも出発しましょう」


 準備は万全とは言い辛いけれど、それを待っていたらあっという間に表彰式の日になって、後手に回ってしまう事になるだろう。何か掴むなら今……だけど――。

 どうするか決めきれなかった私は、ちょっとだけローランの方に視線を移した。そこにいる彼は、酷く不安そうにしていた。

 ……そんな顔をされて断るような私じゃない。


「なら、明日にしましょう。ラントルオの手配は任せるから、ちゃんとやっておきなさいよ?」

「い、良いのか? そんなに早くて」

「貴方の想いは伝わった。ファリスを早く助けて欲しい――本当にそう思っているって事がね。だから信じる。それだけよ」


 単純だと言う人もいるだろう。だけど、物事なんてものは大体が単純だ。全部が難しかったら答えなんて出るはずがない。


「……ありがとう」

「礼ならファリスを助けてからにしなさい。それで……準備は出来るの?」

「ああ。大丈夫だ。必ず用意する。それと……ファリスを飲み込んだ黒い泥についてなんだが――」

「それは雪風や他の使用人達に任せる事にするわ。並行して集めた方が何かと都合が良いでしょう?」

「そう……だな。それはそっちに任せる。本当は俺が何とかしてやれればよかったんだが」

「今は貴方に出来る事をしなさい。自分一人で背負わなくていいんだから」


 昔、誰かに言われたような事をそのまま言葉にする。

 ……なんだか、自分に刺さったような気がしたけれど、それは気にしないでおこう。


 それより、明日は忙しくなる。少しでも身体を休めておいた方がいいだろう。

 その前に……暇を持て余しがちなこの身体を少し動かしておこう。何があってもいいように、ね。

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