表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/676

31・下校の寄り道

 特待生クラスの授業も終わって、帰る時間になった時――私は、いつも通ってる一年生の教室に戻ってきていた。


「ティアちゃん!」

「ごめんね、リュネー。待った?」

「ううん」


 授業も全部終わった後、私の事を待っててくれたリュネーは何かに気付いたような顔をして、ちょっと顔が赤くなってるみたいだったけど……どうしたんだろう?


「リュネー?」

「あ、ううん。何でもないよ! なんでも!」


 リュネーは取り繕うように両手をぶんぶん振りながら顔を横に振ってた。ちょっと真剣すぎるんじゃないかな? って思うくらい。だけど彼女がそれ以上言わないっていうなら、こっちも聞かない方が良いかもね。


「……それじゃあ、行きましょう? ここにいてもやることないしね」

「うん! ……あ、ティアちゃん、今日、時間ある?」

「そうね。後は帰るだけだけど……」


 家に帰っても別に何をやるってわけでもないし、本を読むか少し剣を振るうか……。それくらいしかやることはない。


「だ、だったら、えっと、町を見て回りたいかな……って。駄目かな?」


 もじもじしてるリュネーにちょっと可愛さを覚えながら、私は頷いた。彼女は花が開くように笑ってくれて、すぐに行こうって言いたげなくらい腕をぐいぐい引っ張ってきた。


「だったら、ね、早く行こう?」

「ちょ、ちょっと! 少し落ち着いて……」


 ぐいぐいと引っ張ってくるリュネーの後ろ姿を見ながら、思わず『仕方ないなぁ』と思っていながら、苦笑いを浮かべてしまった。


 ――


「――でね、ハクロ先輩がやたら睨んでくるのよ」


 町を歩きながら、リュネーが特待生クラスの事について聞きたがっていたから話してると――ついつい愚痴になってしまった。私の話を聞いたリュネーは、最初は同情するような視線を向けてくれていたけれど……最後の方には見たことのないハクロ先輩への怒りに溢れてた。


「やっぱり、ティアちゃんが王族だから妬んでるのかも……」

「多分、違うと思うわ」


 それならもっと他の子からもそういう視線を向けられてたはず。憎しみや妬みの他にも、現状への不満とか……そういうのを見せてもおかしくなかったと思う。だけど、彼が見せてきた憎悪は……そういう格差について憤りを感じてるようなものじゃなかった。


「でも、ティアちゃんが気に入らないんでしょ? なんだか、嫌だなぁ……」

「ふふっ、ありがとう。気持ちだけは貰っておくわ」


 リュネーの気持ちは嬉しかった。そういう風に心配してくれる人は、この世界でも少なかったから。


「……そういえば、リュネーの方はどうだった?」

「えっと……えっとねー……」


 あまり私の事ばかり話して心配させるのも悪いなぁ……って思ったから、それとなく私がいなくなったクラスの様子を聞くことにした。

 私が特待生クラスにいった事を、何故かアストラが自慢げに語って、自分も頑張らないとと気合を入れて訓練してたのだとか。リュネーはそれに巻き添えを食らう形で手伝う羽目になったそうな。


 彼女の方も結構大変な目に遭ってるみたいで、少し同情する。アストラには、初めての戦闘訓練で面倒な絡み方をされたせいであまり良い印象を持ってないんだけど……少なくとも、私が思ってた悪い事態にはなってなくてちょっと安心した。


「私、もう大変で……」


 そう訴えかけてくる彼女は憂鬱そうにしてた。元々リュネーはあまり武器で訓練することに慣れてない。そんな彼女がアルトラと一対一で戦うなんて災難としか言いようがなかった。


「あ、エールティア様!」


 不思議と互いが互いを慰め合ってる状況になってる私達に声を掛けてくれたのは、屋台をしてるグスタフのおじさんだった。

 子供の頃からよく町で遊んでたからか、今でもたまにこうやって話しかけてくれる人がいる。まあ、あの時は『お嬢ちゃん』だったり『お嬢様』だったりしたんだけど、今はこうして名前に様付けが固定になってた。


「グスタフ、どう? 稼いでる?」

「おかげさまで。この町は暮らしやすいですからな」


 朗らかに笑ってきたおじさんの笑顔がささくれだった私の心を少し癒してくれる。……髭の生えた少しいかついおじさんの顔に癒されるのもそれはそれで問題のような気がするけど、それだけ見知った顔って事で納得した。


「そうだ。ほら、これ」


 おじさんが渡してきたのは、エラスティって鶏のもも肉に少しスパイシーなタレで絡めて焼いた串だった。私があんまり辛いのが得意じゃなかったのを見たおじさんが、わざわざ味を調整してくれたもので……いつの間にか屋台の定番に落ち着いたって逸話がある串で、今も私が好きなやつだ。


「……いいの?」

「もちろんですよ。そこの嬢ちゃんと仲良く食べてください」

「ありがとう」


 おじさんから貰った串をリュネーに渡すと、恐る恐る受け取った彼女はおじさんに向かって丁寧に頭を下げてた。おじさんの方も『気にするな』って言うように笑ってて、なんだか妙に嬉しくなる。


 一口食べると口の中にほんのりピリッとした辛みが伝わってきて……それが噛む度に溢れるエラスティの肉汁と上手く合わさってなんとも言えない美味しさを広がっていく。

 嫌な事もあったけれど……これで少しは良い一日になった……かな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ