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309・(不)穏やかな時間

 防寒服のお陰で大分寒さが和らいでいる。それに雪一面の公園に、雪だるまやかまくらを作って遊んでる子供達の姿。二人で手を繋いでいる大人達。


 そんな光景を眺めながら、隣にはローランがいる。


 どこかむず痒い雰囲気を味わいながら、穏やかな時間を過ごしている。

 ふと、いつまでも続くのも悪くないと思ってしまう。それだけこの時間に浸っているということだろう。


「エールティア姫様」

「……なに?」

「次の決闘……棄権してもらえないでしょうか?」


 瞬間。思わずローランに視線を向けたけれど、彼の表情は何の翳りも見せていない。当たり前のように棄権を提案されるとは思っても見なかった。


「……本気で言ってるみたいね」


 嘘や冗談を言っているような表情じゃない。本気の目をしている。

 今までの穏やかな空気が一気に霧散して、剣呑とした雰囲気になっていく。

 ローランも肌でそれを感じているのか、少し表情が強張って、身体の方も硬くなっていた。


「貴女が強い事はよくわかっています。だけど――いや、だからこそ、棄権して欲しいのです」

「……残念だけど、それは出来ないわ。貴方もよくわかっているでしょう?」


 魔王祭に学園がどれだけの力を入れているか。私達にとって、どれだけ重要な決闘なのか……それをわかっていないとは言わせない。


「わかっております。ですが、あの子――ファリスのターゲットは貴女様です。今までのように一撃で倒すような事はしてこないでしょう。もしかしたら――」


 散々弄られ嬲られるかも知れない。ローランはファリスと同じルフダル学園の生徒だから、彼女の事を知っているのだろう。

 だから心配しているのかも知れない。だけど、それは私も覚悟していた事だ。


「ローラン。私はもう私だけの想いで戦ってる訳じゃないの。これまで戦って来たきたみんなの想いを背負って戦っているの。だから……それを踏みにじるような行為は私には出来ない」


 はっきりと言葉にすると、ローランは明らかに残念そうに眉根を下げる。落ち込んでいるようだけれど、こればっかりは譲れない。


「貴方が私を心配してくれる気持ちは伝わったわ。だけど……ファリスとは浅からぬ因縁がある。どうしても止めたいのなら、貴方が私に勝つ事よ」

「……やはり、それしかないのですね」


 深いため息を吐いたローランは、それでも自身を納得させるようにうんうん頷いていた。


「なら、次の魔王祭。俺も本気で戦う。そして……貴女に勝つ」

「ええ。期待してる」


 随分と良い顔つきになったじゃない。穏やかに微笑んでいる表情も良かったけれど、凛々しい顔を悪くない。それに……見れば見るほど転生前に見たあのローランにそっくりで、尚更良い。


 彼とは戦いの中でしかお互いを語る事が出来なかったけれど、微笑んだらあんな感じ。嬉しそうにするときはこんな感じになるんだろうなって想像くらいは出来る。その想像の中の彼ともそっくりで……だから余計に心が騒つく。


「それでは、決闘で会いましょう。その時は……全力で」

「ええ。私の全力……。貴方が引き出せるのなら、喜んで見せてあげる」


 別れの挨拶を終わらせたローランは、そのまま立ち上がって別れを惜しむ様に離れて行った。

 それを見送りながら、私はこの国特有の冷たい空気を体中に取り込む様にゆっくりと息を吸って、静かに吐き出す。

 最後にぴりぴりとした雰囲気になったけど、それでも彼と話しをする事が出来てよかった。


 外に出た甲斐があったというものだ。気持ちも少しリセットする事が出来たし、ファリスとローランの事について色々と悩んでいたのも多少落ち着くことが出来た。

 結局のところ、深く悩んでいてもどうしようもない。戦って勝って聞けば、向こうから教えてくれるだろう。


「……さて、私もそろそろ帰りましょうか」


 気分も良くなってきたし、いくら防寒具を着て寒さから身を守っているとはいえ、あまり外をうろつきすぎても寒くなって風邪を引いてしまうだろう。

 むしろ少し寒くなってきたから、ちょっと身体を温めてから帰った方が良いかも知れない。


 一度そういう事に気付くと、自分の感情に関係なく身体は暖かさを求め始める。

 少しの間とはいえ、ローランと会話していたから尚更だろう。

 今私がいる公園から宿はそれなりに距離がある。我慢できない訳でもないけど……せっかく外に出たのなら、食べ物でも飲み物でもいいから何か欲しくなってくる。


「……仕方ない。ちょっと遅くなるくらい、許してくれるでしょう」


 わざわざ言葉にして呟いたのは、自分に言い聞かせる為なのかもしれない。実際それで自分に正当性があるかのように思えてきたしね。

 元々彼女から言い出した事なんだし、これくらいは想定してくれているはずだ……多分。

 何かお土産でも買って帰ればいいだろう。一応お礼も兼ねてね。……ついでに私の事をわざわざ遠くで見守ってくれている護衛にも買ってあげよう。雪風に渡すように伝えておけば問題ないだろう。


 ……よし、そうと決まったら早速行こう。鬼人族のことわざにも「善は急げ」ってあるくらいだしね。


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