306・南西地方の猫人族の意地
決闘開始直後、ベルンは『二重魔法』を駆使して、多数の魔導が次々と放たれる。
魔導のイメージというのは、本人の性質に結構影響されやすい。やはり強くイメージできる魔導の方がいいしね。
それにしても……ベルンの魔導はかなり見た目にも気を遣っているような気がする。
幾多の星々が地上を照らしているかのように強い属性を内に宿す。
空中で佇んでいるそれらを見上げたら、昼や建物の中のなのに、天体観測でもしているような気持ちになってくる。
それだけ、ベルンが操る魔導はきらきらと輝いていた。
「どうしたのかにゃー? ……攻撃、しないのかにゃー?」
挑発するように指をくいっくいっと動かすベルンだけれど、決して自分が優位に立っているとは思っていないみたいだ。
こちらの様子を窺うような視線。一挙手一投足を観察するような視線は少しむず痒い感じがする。
「ふふっ、ごめんなさい。貴方の魔導があまりにも綺麗だったものだから、ね」
観客席や会場の画面越しで見るのとはまた違う。迫力もさることながら、その光り輝く星々が互いに自己主張する姿は見ていて惹きこまれるものがある。
だから、ついそれらを眺めてしまいたくなっていた。
「にゃは、お褒めにあずかって、光栄なのにゃー。なら……『フェイクシャドー』【エレキテルボディ】」
ベルンの魔導発動と同時に生み出されたのは一つの影。それは確か去年の魔王祭で見た魔導だ。あの時は影のベルンと本体のベルンが入れ替わるような形で出現してたけれど……どうやら普通に呼び出すことも出来るみたいだ。
あの時は攻撃されてすぐに消えたけれど……今回は場に残っている。かといって何かをする訳でもなくて、私に向かってくるだけのようだ。
「【トキシックスピア】」
毒の槍を生み出して影のベルンに向けて発射すると、一応回避していた。避ける程度の知能はあるみたいだけれど……それ以上はない。遠距離攻撃が飛んで来たら避けて、近距離なら避けずに当たる。そんなところだろう。
「【ガシングフレア】!」
ただの直線的な攻撃が駄目なら広範囲の攻撃だ。周囲に毒霧が満ちて、広がっていく。そして……一つの黒い爆発が起こり、それが引火して、次々と爆発が広がっていく。
それは全てを焼き払う程の火力で、もちろん本体も偽物も関係なく巻き込んでいく。
『おお! エールティア選手の得意魔導の一つだね! でも毒の霧+爆発なんて……結構エグイ攻撃方法だと思うんだけど……オルキアちゃんはどう思う?』
『くふふ、そうですね。相手の行動範囲を制限して、自分は広く魔導をばらまく……。良い魔導だと思いますよ』
影に近づいて消そうとすれば、【エレキテルボディ】の効果を受けてしまう。だけどこうして遠距離から攻撃すれば何の心配もいらない。
「まだ……まだぁ!! 『フラムランチェ』【アースランス】!!」
私の予想通り、【ガシングフレア】を抜け出したベルンは、更なる魔導戦を挑んできた。雨のように降り注ぐ炎の槍と、地面を盛り上げながら進んでくる地の槍。上下から迫る二つの槍が、私を刺し殺そうと襲いかかってくる。
「『ガンズレイ・トルネ』【ガンズレイ・コルド】!!」
大きな二つの球。風と氷の二色に染まったそれが、更に迫ってくる。
「【プロトンサンダー】!!」
槍の回避に専念している状態で放たれた二つの魔導に対処し切れず、相殺を狙って魔導を放つ。ぶつかり合う三つの魔導。瞬間に爆発を引き起こし、跡形もなく消え去る――直後。
「【カラーズ・フォールダウン】!!」
「【カラフルリフレクション】!」
嫌な予感がして、属性魔導を跳ね返す魔導を構築する。それと同時に空から七色の光が雨となって襲いかかってくる。無数の光を跳ね返し続けた【カラフルリフレクション】は耐久の限界を迎えて、最後に降り注いだ七色の光線によって砕け散ってしまう。
――ああ、なんて素晴らしい。ここまでの力を見せてくれるなんて。
私の魔導を突き破って襲ってくるこの光線を素直に受け入れてあげてもいい。そう思うほどの本気の攻撃。確実に私を殺そうと、仕留めようとするこの力を、優しく抱きしめてあげたい。
だけど残念。私には届かない。
「【アグレッシブ・スピード】!!」
七色の光線が身体に触れる寸前――速度強化の魔導を発動させ、一気に詰め寄る。
このまま魔導を叩きこんで終わりにしてあげよう……そう思ってベルンの懐に潜り込む。
「【ブーストフィスト】!!」
「くっ……『ガードアップ』【メタルタフネス】!!」
風の魔導で強化して、ベルンの腹部に鋭いブローを突き刺す……のだけれど、硬い感触が直に伝わってきて、全く効いていない事を教えてくれる。
このとっさの判断……まるで最初から私の動きを予測していたみたいだ。
「……にゃは。『ブレイジングエトワール』【イグニスソレイユ】!!」
燃え盛る炎の星と、それ以上に燃える太陽のような星が私達の上をゆっくりと旋回して――落ちてきた。
これに当たるのは不味いと判断した私は、一度ベルンから離れようとしたのだけれど……。
「くっ、ベ、ベルン……!?」
「にゃはは。地獄まで付き合ってもらうのにゃ」
私が頭上の魔導に気を取られていた間に身体強化を施したのか、思いっきり私の腕を握り締めて逃がさないようにしていた。
――どうにも参った。つまり……ベルンは最初からこれを狙っていたいうわけだ。
私の行動を把握していないと出来ない動き。ここまでの事をやってのけるとは、流石ベルンと言ったところだろう。そこに、彼の意地を見たような気がして……尚更私の心を弾ませるのだった。




