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234・広がる噂

 ロスミーナとの会話が聞かれたのか、外からの噂が徐々にこちらまで来たのか……学園の方でもちらほらと耳に入ってくるようになった。

 出来ればレイア達に知られたくなかったから、出来るだけ情報をシャットアウトしていたのだけれど……全部は無理だったみたいだ。


 あまり良い噂じゃなかったから、どう転ぶか不安だったけれど、そもそも私の人となりを知っている子達は信じてなかった。

 こういうのを信じているのは大体私の事を嫌いな子か、一年生くらいだ。後者の方は上級生に話を聞いたり、変な正義感を振りかざして決闘を挑んできて、後で誤解だと気付いたり……多少大変ではあったけれど、なんとかなった。


 それよりも不安なのはレイアもリュネーも、何も聞いてこない事に関してだ。

 いや、私自身、その方がありがたいんだけど……今までの事を考えると、逆に不安になってくるっていうか……素直に安心できない。


 かと言って自分で聞きだすのもおかしいし、ジュールとは相変わらず最小限の言葉しか交わしていない。


「……なに、やってるんだろう」


 日が過ぎる度に自己嫌悪が強くなっていく。過ぎたことはどうする事も出来ない。

 わかってはいる。もっと上手くやれたら。もっと自分の感情に素直になれたら。もっと、もっと……。


 ――貴女は独りぼっちの女王になるつもり?


 ロスミーナの言葉を思い出す。彼女は私の本質を見抜いているみたいだった。それが尚更、心の波をざわつかせる。

 前の世界では、まさに独りぼっちの女王だった。魔物だって、魔導で操っていただけで、私の為に付いてきてくれた子は誰もいなかった。どれだけ一緒に過ごしても、決して心が交じり合う事はない。あの時、私は永遠の孤独の中にいた。


 ……また、あの道を進もうとしてるのだろうか。

 ……違うはずなのに、その全部を否定する事が出来ない。


 光を得た。友を得た。『大切』だと。『愛している』と言える人達が出来た。そのはずなのに、気付いたら元の場所に戻ろうとしている。まるで、自分のいるべき場所がそこであるかのように。


 最近では貴族達との手紙のやり取りに、他国の協力者との連携。色々とやる事が多くて、中々彼女達との時間が取れない。

 前はあんなに一緒にいたのに、気付いたらジュール以外ほとんど誰もいなくて……そのジュールの心も、今は離れかけている。


 こんなんじゃ、自分が一体何をしたいのかわからなくなってしまう。

 悶々とした気持ちを抱えながら、それでも前に進むしかない。わかってはいるんだけど、でも……これじゃあ前に進んでいるのか後ろに進んでいるのかわからない。


 ……この胸の痛みが晴れるのは、まだ大分先のようだ。


 ――


 月日は経って、レキールラの月の17日。結局何も話せないまま、一か月以上が経過してしまった。


「エールティア様。そろそろ学園に向かいましょう」

「……ええ、わかったわ」


 相変わらずジュールとの距離は遠い。前は『ティア様』だったのに、今は『エールティア様』になっていて、私の心にチクチクと蝕んでくる。


「ジュール……その――」

「そ、それでは……私は下でお待ちしておりますね」


 そのままそそくさと部屋から出て行って、館の入り口に行ってしまった。それがどこか寂しくて、思わずため息を吐いてしまう。


「……この関係も、どうにかしないとね」


 とは言っても、もう戻れないような気がする。それだけ自分が酷い事をしたという自覚があるから、余計に辛く感じる。

 ……こうなるのはわかってた。覚悟しているつもりだった。だけど、実際直面するとまた別の感情が湧き上がるものだ。


 そんな風に最近では恒例となった反省をしていると、ノックの音が聞こえてきた。

 一瞬ジュールかと思ったけれど、彼女は下に行くと言ったし、またノックをするなんて考えられない。


「どうぞ」

「失礼いたします」


 静かに扉を開けたのは、魔人族のメイドだった。そこには手紙の束がいっぱいで……また貴族共の面倒な手紙ばかりだろう。どうせどちらの陣営にも付かずに静観してもらうか、こちらを裏切るなって内容で送りつけただけ手紙だったし、返答も二つに分かれる。お父様に言われたからやっている事だし、後回しで問題ない。


「そこの机に置いておいてくれる?」

「はい。……それと、こちらを」


 メイドは手紙の束とは別に、もう一つ手紙を持っていた。黒い手紙。金の刺繍(ししゅう)が入っていて、他の物とは明らかに風格が違う。

 その手紙だけ自分で受け取って、確認すると……シルケットの封蝋がされていた。


「ベルンから……ということは、向こうも確認が取れたみたいね」


 封を切って中身を見ると、そこには今のティリアースの情勢や、私達が置かれている状況を調べた事が書かれていた。

 その上で、今後とも変わらない付き合いを……といった感じの文章だ。

 私としてはリュネーをシルケットに戻してくれるのが一番理想だったんだけれど、流石に望み過ぎたみたいだ。


 ――


『例えどのような者と縁を持とうと、それは当人の意思であり、シルケット王家は自主性を重んじるものとする。如何なる理由であっても、それを阻害せず、また、する事はあってはならない』


 ――


 その文章から読み取れるのは、リュネーが望むならこのままの関係を続けるし、こちらとしては国の事情で引く事はない。そういう意思だった。


 ……参ったな。これじゃあ、いざとなった時の逃げ道が作ってあげられない。どうしよう? どうすれば……。


 頭の中で問答を繰り返しながら……この手紙の意味を理解して少しだけ、笑みが溢れた。

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