232・抗議するスライム
「ずるいです。私は、貴女様のお役に立つなら、死んでもいいのに……」
ぼそっと呟いたジュールの言葉に胸が打たれる。共に戦いたい……そういう気持ちが湧いてくるけれど、ぐっと拳を握り締めて、感情を抑える。
「……本当に死んだらどうするの? 結界は一度だけ死んだ事実を消してくれる。だけど二度目はない。もし、私の采配ミスのせいで本当に貴女達がいなくなってしまったら……!!」
――今度こそ、本当に戻れなくなる。
大好きだから。失いたくないから。誰一人欠けて欲しくない。
これは私のわがままだ。ジュールにもレイアにも……リュネーや雪風にも、譲るつもりは全くない。
誰にもひどい目に遭って欲しくなかった。
「ティア様、それでも私は――!」
「そんな風に自己犠牲で物事を語られても、嬉しくないわ。私は、貴女達に生きていて欲しいの。万が一なんて起こって欲しくない」
「……力があるって見せればいいのですか?」
決意を込めた瞳で睨んでくるジュールだけど……生憎、彼女の本気には欠片程凄みを感じない。
だけど……それもいいのかもしれない。ジュールの力では敵わない。それをしっかりと理解させなければならないだろう。
「……わかった。それで貴女が納得するのなら。だけど……それで私を納得させることが出来なければ――」
「わかっています。その時は諦めます」
言質は取れた。ジュールには悪いけれど……少しだけ相手をしてあげるしかないようだ。
――
戦うという事になった私達は、庭園の方にやってきた。
剣を抜いて私に向けてきたジュールは、一人前に殺気を放っている。可愛らしいものだ。
「ジュール、わかってるわね」
「……はい」
「それじゃあ、どこからでも掛かってきなさい」
くいくい、と指で挑発するようにアピールしてあげると、あっさりと乗って斬りかかってきた。
わかりやすい剣筋だ。素直……といえば聞こえがいいだろう。
さっさと倒してあげてもいいけど……今の状態で軽く倒しても納得する事はないだろう。
「くっ……! このっ!」
ぶんぶんと振り回して一生懸命さが伝わってくる。だけど……そろそろ終わりにしよう。
「【エアルヴェ・シュネイス】」
発動の瞬間、世界が白く染まる。上空がひび割れ、光が差し込んでくる。庭園に生えている草花も全てが白く染まって消えていく。雪雨に使ったのと同じ魔力量だと流石に危ないだろうから、範囲と威力を絞ったのだけれど……それでもジュールには押し返せない程の威力を持たせている。
「くぅ……これっ……は……!!」
「さあ、これを止めてみなさい。ジュール!」
少しずつ強くなっていく光の中で、ジュールは私に応えるように次々と魔導を放っていくけれど……そのどれもが私の【エアルヴェ・シュネイス】を相殺させるほどの威力を持っていなかった。
「な、……!」
段々声すら聞こえなくなるほどに白さが塗りつぶして何も聞こえなくなる。
しばらくして、徐々に色を取り戻した世界から現れたのは……ボロボロになって地面に倒れているジュールの姿だった。
本来の威力から大分抑えて発動させたおかげで、原形も留めているし、命に別状もない。
だけど、これ以上戦いを続ける事は不可能だろう。
「わ、わ……た、し……」
「……ジュール。いくら気持ちが強くても、想いがあっても……力がなかったら意味がないのよ」
倒れているジュールをそのままにして、私は一人、館の方に戻った。ついでにメイドに草花がぼろぼろになっているから庭師に頼んでおくようにお願いしていた。
「……よろしかったのですか?」
館に入ると、遠目に見ていた雪風が声を掛けてきた。ジュールはこっちに夢中で気付かなかったみたいだけど。
「貴女こそ。ジュールみたいに挑まなくてもいいの?」
「はははっ、ご冗談を。僕は自らの実力を理解しております。それに……主人の足手まといになるくらいでしたら、死んだほうがマシですよ」
力なく笑っている雪風は、本当は悔しいのだろう。
「それに、エールティア様が僕達の事を大切思ってくださっているのは伝わってきますから」
「……そう」
「ですが……エールティア様も忘れないでくださいね。僕達も貴女様を大切にしているという事を」
「ありがとう、雪風。覚えておくわ。それと……ジュールをよろしくね」
「任されました」
雪風が頭を下げて応えてくれるのを確認して、私は自分の部屋へと戻る事にした。部屋に入って、軽く自己嫌悪に陥る。
あんな事でしか解決出来なかったのだろうか? もっとスマートなやり方があったんじゃないだろうか? そんな風に思うなら、もう少し考えればよかったんだけど……私はこういうやり方しか知らない。
こういう場面に遭うたびに、いくら生まれ変わっても、結局戦う事でしか物事を解決出来ない自分に嫌気が差すけれど……それでも、みんなが必要以上に傷つくのは……見たくなかった。
例えそれが矛盾している感情なのだとしても。それが最小限になるのなら、自分の手で――そう思うのは、果たして悪い事なのだろうか?




