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221・夢見るままに揺蕩う存在(レイアside)

 ――ずっと、夢を見ている。二人で争っている夢を。


 決闘に敗れ、眠り続けていたレイアは、自分の身体の中に流れるもう一人の自分――狂気を宿したレイアと向き合っていた。


「……もう、やめようよ。こんなことしたって――」

「無駄って言いたいの? それで全部諦めろって? 冗談じゃない」

「そうは言ってないよ。でも、貴女のしている事は間違ってる!」

「愛されたい。好きになって欲しい――全部貴女が望んだことじゃない」


 もう一人のレイアに言われた事に、レイア自身は反論できなかった。エールティアの癒しの魔導のおかげで、こうして二人の自分が向かい合う事が出来た……が、話し合いは平行線でしかなかった。


「でも、私はあんな……ティアちゃんを傷つけることなんて望んでない!」

「自分のものにならないなら、他人のものになるくらいなら……そういう願望が本当にないの?」

「それは――」

「私達の火竜の血が、教えてくれる。今度こそ、掴み取れって。どんな手を使ってでも、自分のものにしなきゃ意味がないって」

「だけど、好きな人には幸せになってもらいたい。大切な人を守りたい。闇竜の血はそう、教えてくれてる」


 火竜・闇竜の血を引くからこそ、互いの意見が分かれる。火竜側は好きな相手を焼き尽くしてでも手に入れたい。闇竜側は好きだからこそ、守っていきたい……互いに折れない以上、まとまる訳がなかった。

 そして――それは言い争いをしている二人のレイア自身もよくわかっていた。


「……これじゃ、いつまで経っても終わらないよ」

「そっちが諦めればいいんじゃない? そうしたら――」

「それで、またティアちゃんに決闘挑んで負けるの? あれだけ本気で戦っても、あんなボロ負けしたのに?」


 今度はもう一人のレイアが口を閉ざすことになってしまう。

 彼女の方も、エールティアとの実力差を嫌と言うほど感じていたからだ。


 今のままでは勝てない。それははっきりとわかっていた。


「……大好きなのに。本当に好きなのに! 何で? 貴女は諦められるの?」

「……諦め切れる訳ないじゃない。私だって、その……好きだもん」


 スライム族ではない彼女には本来なら、許されない恋。聖黒族は必ず子孫を残して繁栄し続けなければいけない運命を背負っている。

 それは二人のレイアも十分わかっていた。それでも、彼女達はそれを求めた。


 父も母も愛情を注いでくれず、兄からは虐待を受ける日々を送っていた彼女にとっての初めての光。それを掴みたいと思うのは、ある意味自然な行為だった。


 レイアの言葉に、もう一人のレイアも黙ってしまった。それだけの本気を彼女に感じたからだ。


「ねえ」

「……なに?」

「一人じゃ駄目なら……二人でティアちゃんを狙っていこうよ。私達、元々一人なんだし」


 どちらかが主導権を取るのではなく、二人でレイアとして生きていく。それを提案したのは本来の人格のレイアで、驚いたのは火竜としての力を振るっていたもう一人のレイアだった。


「……いいの? 今ここで決着つけないと、また私が表に出ちゃうかもよ?」

「それでも、このまま不毛な争いをするよりはマシでしょ」


 二人のレイアの視線が交差して……同時に微笑む。あれだけの狂気を振り撒いていたもう一人のレイアも、エールティアの魔導のおかげか平静さを保っていた。


「でも、ティアちゃんのハジメテを奪った子。もし、その子が見つかったら私、殺すから」

「ふふ、その時は任せるね」


 もし第三者がそれを見たら、もう一人のレイアと一緒に微笑むその姿は、どこか黒い物に見えたに違いない。


「さ、それじゃそろそろ戻ろう。もう何日も眠ってるし……いい加減、ティアちゃんとお話ししたいしね」

「迷惑掛けたから、謝らないとね」

「別にいいでしょう? 私達の想いに気づかないあの鈍感さんが悪いんだから」

「……だね」


 今まで色々と言い争っていた二人は、最後に笑顔を浮かべて手を取った。当たり前のように側にいるもの。同じように濃く、熱い二つの血が混ざり合って、真の意味でレイアとして再誕する。


 それは遥か昔に一柱の竜が夢見た未来。遠い過去からようやく辿り着いた一つの答え。


 フレイアールがそうであったように、レイアもまた、太古の力を受け継いだ。その事を彼女が知る日は近く……同時に巻き込まれる戦いは激しさを増していくだろう。


 ――私ね。やっぱり諦められない。ティアちゃんは理解してくれているつもりでも、全然わかってないんだもの。


 ――


 久しぶりに目を開けたレイアは、自分の身体が前以上に魔力に溢れている事を感じ取っていた。まるで今まで覆い被さっていた蓋が取れたかのような……そんな解放感すら風のように吹き抜ける。


「帰ってこれたんだ……私」


 ぽつりと呟いた声を拾う者は誰もおらず、カーテンがそよそよとたなびきながら、優しい陽射しを浴びて……レイアは静かに深呼吸した。


 一度、二度……その度に彼女の心の中に、現実感が戻ってくる。


 自分は再び帰ったのだと。愛しい人とまた会えるのだと。満ち足りた気持ちを抱いて。

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