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220・目覚めの竜人族

 時は更に流れて、クォドラの11の日。レイアが目覚めなくなって八日が経過していた。


「ジュール、おはよう」

「あ、お、はよう……ございます。ティア様」


 朝、部屋から起き出すとジュールと鉢合わせた。挨拶はしっかりとしてくれるようになったが、それでも以前と比べると距離を感じざるを得なかった。


「あの、ジュール?」

「……はい。なんですか?」

「今日もレイアのお見舞いに行くんだけど……一緒に行かない?」


 いつものジュールだったら、特に考える事もなく『わかりました!』と言っていたはずだった。

 それが悩む素振りを見せている。その事がこんなにも寂しく思えてくる。


「わかりました。一緒に行きましょう」

「……ジュール。その、何か私に言いたいことはないの?」

「……わ、私は――私は、ティア様を信じています。貴女様が、気軽に他人に口づけを許すような方ではないと」


 言いたい事を促してあげると、何か決心した表情で教えてくれた。


「でも、考えてしまうんです。ティア様が私の知らない人にキスをしているところを。夢に見てしまって……どうしても気になるんです」


 その表情は、随分思い詰めたものだった。

 ……あの一件がここまで尾を引いているなんて思いもしなかった。私があまり見栄を張らずに、もう少ししっかり話をしていたら……そう思うと途端に自分が情けなくなる。


「ジュール。私も別に好きでした訳じゃないの。話している最中に半ば強引に奪われたってだけで……。私もあの子がそんな事をしてくるなんて思いもしなかったの」

「……本当、ですよね?」

「ええ。決してしたくてした訳じゃない。無理矢理されたってことだけは……それだけは、信じて欲しい」


 少しだけ互いに視線を交わし合って……ジュールは安心するように息を吐き出した。


「わかってます。ただ、自分の中でうまく折り合いが付かなかったと言いますか……どう接して良いかわからなかったんです」


 しゅん……としょんぼりしていたジュールは、シャキッと背筋を伸ばして、いつもの調子を取り戻していた。


「ですが、このままではティア様の契約スライム失格になってしまいます! そんな事になっては……スライムの名折れというものです!」


 どうやらジュールの方は立ち直ってくれたようだ。あのままだったら、私もどう接して良いかわからなかったし、本当に良かった。


「それじゃ、改めて……よろしくね。ジュール」

「はい!」


 二人で笑い合う。これで仲直り……というか、いつもの関係に戻れる。そう思った。


 ――


 ジュールと一緒にやって来たのは、この町でも一番大きな病院。レイアが入院している場所だった。


「相変わらず大きいですね。館より大きいんじゃないですか?」

「そうね。この町は基本的に住民の暮らしに力を入れてるから」


 他のところはどうかは知らないけど、リシュファス領では税金が高い。一度他の領から引っ越して来た人達がそう言っていたのを覚えてる。

 だけどその分はしっかりと還元しているそうだ。病院以外にも、学校の費用に、不漁の時の減税。その時は覚えられなかったけれど様々な住民の為になる事業に使われているってお父様が教えてくれた。


「でも、病気や怪我なんて魔導でどうにかなりません?」

「そもそも回復系の魔導は難易度が高いのよ。骨や筋肉も正確にイメージ出来てないと、変な形にくっつくし、おかしな治り方をしてしまう。自分の身体の場合、身体がどんな構造をしていたか記憶してくれているからそんな齟齬(そご)はないけれど……他人の身体はそういう訳にはいかないの」


 ここに、まあ私程になれば問題ないんだけどね……と付け加えたい。そういえば、フェーシャと呼ばれていた猫人族の王が、兵士達の傷を瞬く間に癒し、活力を与えた……ってあるけれど、あんなのは相当使える人じゃないと出来ない芸当だ。

 やっぱり、王様というのは何かに秀でていないといけないのかもしれない。


 中に入ると、受付の魔人族の女性が丁寧に頭を下げてくれた。もうここには何度も通っているし、常連みたいなものだ。いつもと変わらない様子――じゃなくて、少し上機嫌みたいだった。


「丁度良かったです。レイアさんが目を覚まされましたよ!」

「ほ、本当?」

「はい! 今日の朝に。体調の方も良好でして、受け答えも問題ありませんよ」


 ジュールと一緒に顔を見合わせて、急いで病室の方へと向かう。心臓が早鐘を鳴らすように煩いけど、そんなのは全部無視して、足が速くなるのを感じる。


「レイア!」


 病院では静かに。それすら忘れて私は病室の扉を開けた瞬間、声を荒げていた。

 個室を用意していたから当然なんだけど、そこにはレイアが一人ベッドに座っていた。久しぶりに目を開けている彼女を見た気がする。


「ティアちゃん……ジュールちゃん……」


 ベッドの上でどこか申し訳なさそうな顔をしたレイアが、涙を浮かべていた。


「おかえり、レイア」

「ただいま、ティアちゃん」


 私の言葉に笑顔を向けてきたレイアの姿がとても眩しく見える。

 あの時から全く目を覚まさなかったから不安だったけれど……無事に元に戻れて本当に良かった。


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