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126・ココロノキズ

 魔王祭の予選を見に行ったその日は、適当に出店を冷やかして、宿に帰るだけにしておいた。

 予想通り宿に戻った後は、そこで食事を摂ることになった。


 ガンドルグで有名な海羊(シーシープ)のスープや、パンや野菜に舌鼓を打つ。


「なんか、少し独特のある肉だね。初めて食べる味だよ」

海羊(シーシープ)は、この国の特産……みたいです。昔、絶滅しそうになったんですけど、初代魔王様の……おかげで、なんとか持ち直したそう……です」


 ウォルカが一口ずつ丁寧に食べながら、興味深そうに肉を眺めていたからか、レイアの方からぼそぼそとした説明が飛んできた。

 ここでも初代魔王様の話は、本当に途切れる事を知らない。あらゆる国を訪れた歴史があるからか、あの方の逸話は尽きる事を知らないのかもしれない。それでいて悪い話は全く聞かないからか、子孫としてもかなり鼻が高い祖先だと思う。


 その二人とは対照的に私、雪風、リュネーの三人は、なるべく静かに食事をしていた。あまり行儀が悪いと、ベルーザ先生に怒られるだろうからね。


「ふぉれ、ひょーどいいふぃおふぁふぇ――」

「フォルス、口の中の物を飲み込んでから話せ」


 豪快に肉にかぶりつきながら、もごもごと口を動かしているフォルスを呆れたような顔で嗜めているベルーザ先生。その光景を見ていると、なんでフォルスが上位三人の中に入ってるんだろう? と首を傾げたくなる程だった。礼儀作法と教養は違う、という事だろうか?


「――っ!」

「ああ、ほら調子に乗るからー……」


 結局、喉を詰まらせてもがいているフォルスから視線を逸らして、さっさと食べてしまうことにした。ウォルカやベルーザ先生がなんとかしてくれるだろう。


 あまり見ていると、他の客から向けられている迷惑そうな視線の被害者になりかねないからね。


「全く……もう少し静かに食べられぬものか……」


 雪風の方は、いつの間にか食事を済ませていて、食後のお茶で一息ついている最中だった。

 心の中でそれに同意しながら、出来る限り他人のフリをしながら、フォルスを中心にした喧騒を眺めていた。


 ――


 騒がしい夕食を終えて、汗を流した私は、気づいたら朝を迎えていた。ベッドの心地良い感覚に包まれながら、あの後すぐに寝てしまったんだなぁ……とぼんやり思い出していた。


 しばらくこのまま惰眠を貪ろうか、起きようかと天井を見つめながら考えていたら……来訪を告げるアラームが聞こえてきた。

 その音を鳴り響かせている魔導具を操作して止める。


 こんな時間に誰だろう? とも思いながら扉を開けると、そこにいたのはリュネーとレイアだった。


「二人とも、どうしたの?」

「ティアちゃんが中々起きてこないからねー」

「昨日は一緒に行けなかったから、今日はどうかな? って思って」


 もじもじとしているレイアの姿は不安そうな表情でこちらを窺っているように見えて、どこか可愛らしい。元々、お兄さんや住んでいた場所の人達から嫌われていたからか、あまり自分に自信がないようだった。


 実際、ウォルカに勇気を出して話しかけても、海羊(シーシープ)の説明が精一杯で、その後は会話すら続かなかった。

 そして肝心のウォルカには、届いているのかどうかすら怪しい。


 それを考えると――


「貴女達、随分変わったわね」

「え?」

「唐突に、どうしたの?」


 頭の中だけで色々考えていたから、二人には全く言葉で説明していないことに気付かなかった。


「いや、最初はリュネーの方がおどおどしてたのに、今はレイアが他人に対して人見知りしてるから……」

「あ、はは……わ、私はほら……結構シルケットで苦労したから……最初の一歩があまり踏み出せなくて……」

「私は……その、助けられたティアちゃんとどうにかして仲良くなりたかったから……本当はいっぱいいっぱいだったんだよ?」


 二人で交互に喋ってくれるのは楽でいいけど、おろおろとしながら顔を赤くされていると、なんだか変な気分になってくる。


「ティアちゃんが初めてのお友達になってくれて、本当に良かった。ここでなら、私もこの容姿を気にしなくて良いんだって思えたし」

「私も……お兄様や家族とは……あれから全然話してないけど……おかげでもう殴られないし、痛い思いしなくて良くなったから」


 それぞれの想いと感謝を告げられて、私の方も少し照れてしまった。というか、レイアの方は理由がより切実すぎて、むしろ涙を誘いそうになる。


 なんだか、これ以上は傷を掘り起こすことにすらなりそうで、気の毒になったから、がらっと話題を変えることにしよう。


「二人とも、ありがとう。なんだか、変なこと聞いてごめんなさいね」

「ううん、大丈夫だよ!」

「うん、ティアちゃんは大事な……友達だから」

「……とりあえず! 私も支度するから、一緒にガンドルグの王都を見て回りましょう?」


 レイアの目がちょっと暗くなりかけていたから、慌ててそれを止めた。なんとか押しかけてきた二人を部屋の外に残したまま、さっさと着替えを済ませる事にした。


 ……なんだか、朝から疲れる思いをしたような気がするけれど、少しは自業自得なんだから、仕方ないか。

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