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12・家族の絆

「そうか……そんな事態になっていたとはな」


 最初はどうにか内容をぼかして話そうとしたんだけれど、心配そうに見てくるお父様の視線が突き刺さる。結局耐えきれなくなって全部話してしまった。


 ……その結果、非難するような、悲しむような視線を向けられちゃって、居心地悪くなったんだけど。


「エールティア。負けたら自分がどんな目に遭うのか……わかっているのだな?」


 深く頷いた私に、お父様は困ってるような視線を向けてきた。


 私だってその事はわかってる。もし私が負けたら、あのお馬鹿貴族が何をしてくるか……辱める事くらい平気でしてくるだろう。だけど――


「はい。全てを承知の上で、あの決闘に承諾いたしました」

「リシュファス家だけの問題ではない。ティリアース王家を巻き込んだ騒動にすら発展する危険性がある」

「お言葉ですが……それは負ければ、の話ではありませんか? 勝てば何も問題はない。でしょう?」


 私が自信満々に言ってのけると、お父様は少し驚いたような顔をして、諦めたようにふっ、とため息をついた。


「私はお前が負けるとは思っていない。それは、私とお前の母様が一番よくわかっている」

「では……」


 何故? と言いかけた言葉は、お父様に首を左右に振られて遮られてしまう。


「それは私達がお前の父と母だからだ。子を思わぬ親はいない。私は構わないが、母様には出来るだけ心配をかけるな」

「……はい」


 強い視線。じっとその目の奥底を見つめると、そこには私への心配と信頼が宿っていた。でも私は……それに上手く答える事が出来なかった。それを向けられる資格が……私にはなかったから。

 辛うじて一言だけ呟いて、それ以上は何も言えなかった。


 多分、私が思ってるのとは全く違う事を考えてたお父様は優しく頭を撫でてくれた。


「母様には伏せている。後は……お前が解決しなさい。それと、私達は何があっても、どんな時でも、お前の味方だ。それだけは覚えておきなさい」

「わかり、ました」


 その言葉は、私の心の深いところを貫いてきた。だって、それはあの日、何よりも待ち望んでた言葉で……最期まで与えられなかった物だったから。


「さあ、朝食にしよう。エールティアも、早く準備しないと遅れてしまうぞ?」


 さっきまでの雰囲気が嘘のように、お父様はいつも通りの優しい笑顔を浮かべてくれた。部屋から出ていくお父様の後ろ姿が、少しだけ大きく見えた。


 ――


 お父様と話をしてから三日間。特に何事もなく……とは言えなかった。私とルドゥリア……先輩が決闘をするって話が学園中に広まったって事くらいかな。次の日くらいには教室で噂になってたし、それを聞いたリュネーにまた心配された。


 決闘委員会は当人以外の人に広めるような真似はしないらしいから、間違いなくあの馬鹿息子のせいだろう。あまりリュネーには知られたくなかったのに……本当に余計な事をしてくれた。おかげで何を言っても悲しい表情は戻らなくて……教室でも可哀想な人を見るような目で見られ出したからね。


 でも、仕方ないかもしれない。私達一年生はまだこの学園に来て(入学式も合わせて)三日目くらい。決闘の日まで時間が過ぎても五日くらいしか経ってない事になる。

 一年間学園で訓練してるルドゥリア……先輩に対するのが私ではあまりにも……っていうのが周囲の評価って事だ。


 おまけに、負けたらどうなるかも知られてるみたいで、私に話しかけてきた子達の中には『今からでも遅くないから謝れ』って言ってくる人もいたけど、私だって引くわけにはいかない。

 それに……私は何も悪くない。竜人族の女の子に権力を使って言い寄ってきたアレが悪い。それなのに泣き寝入りするような真似はしたくなかった。


「あの、エールティアって方、いますか?」


 午前中の噂話にうんざりしていた私は、午後になって教室を訪れた女の子に視線を向けた。黒い髪に真っ赤な髪が混じっていいアクセントになってる。深い赤を宿したその目には……どこか見覚えがある。


「私だけど……貴女はもしかして……」

「は、はい。先日は、助けていただいて本当にありがとうございます」

「頭を上げて。別に大したことは――」


 私が戸惑うように言うと、女の子はぶんぶん頭を振って否定する。それと一緒に黒い竜の尻尾もしゅんと萎れてるような気がする。


「そんなことないです! それに……こんな事にまでなって……」

「貴女の気にすることじゃないわ。これくらい、私にとって何でもないから」


 ここでとんでもないことになったとかを顔に出したりしたら、この子も余計に思い悩む事になるだろうしね。


「で、でも……」

「この話はおしまい。気持ちだけは受け取るから。ね?」

「……! あ、あの……わ、私! レイア・ルーフって言います。あの……本当にありがとうございました!」


 レイアは深々と頭を下げて……私に感謝するような視線を向けてくれた。

 その姿は、昔、初めて誰かを助けた時の気持ちを思い起こさせてくれるのと同時に、苦い思い出まで甦らせてくれるようで……悪くはなかったんだけど、複雑な心境になったのは、私だけの秘密にしておこう。

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