115・遊びに行く二人
お父様と話し合ってからしばらくの時間が経って――ジュールと約束した日が訪れた。
「エールティア様! 準備はよろしいですか?」
館の入り口付近ではしゃいでるジュールに苦笑いしながら、私は彼女の方に歩み寄った。
いつものメイド服ではなくて、動きやすいワンピースタイプの服を着ているジュールの姿は、少し新鮮で、別人のようにも見える。私の方もフレアスカートにシックな色合いの服装と……いつもと似たような要素を取り入れつつ、全く違う姿になっている。
「ええ。……でも良かったの? あんなに楽しみにしてたのに……」
「良いんですよ。誰かと一緒になのよりも、自由に動けた方が楽しいです。エールティア様も息が詰まるのではありませんか?」
確かに監視がいる中では、いくら楽しんでも、心の底からという事にはならない。その気持ちは私の中にも少なからずあった。
「それに……エールティア様も初めて行く場所なら、同じ気持ちを感じて欲しいんです。ですから、無理にリティアに行かなくても大丈夫です!」
強く力説するジュールは笑顔を浮かべて、私の荷物を鳥車に詰め込んでくれた。結局は私達は、狼人族の王国ガルアルムの王都ウルフォルに行く事になった。
彼女がそれで良いのなら、私も文句はない。今回はジュールの為に行くのだしね。その代わり、一泊する許可をお父様からもぎ取ったし、これを機にゆっくり楽しもうと思う。
――
私達が飼っているラントルオで自家用の鳥車でワイバーン発着場まで行って、そこから空を飛んで狼人族の国ガルアルムへ。
「流石ワイバーンですね。あっという間に着きました!」
王都ウルフォルのワイバーン発着場の到着した瞬間、ジュールが喜びを身体で表していた。結構早い朝から出発したものだから、無事昼少し前に到着することが出来た。
あんまり早かったから、ちょっと眠いくらいだ。
「そうね。ワイバーン便なんてものを作ってくれた初代魔王様は本当にすごいわね」
昔はラントルオの鳥車しか存在しなかったようだし、今の倍以上は掛かっていただろう。初代魔王様が流通の原点として開始したワイバーン便のおかげで、気軽に他国に行けるようになった。
「エールティア様、早く行きましょう!」
「そうね。……それと、私の名前は伏せておくこと。今回はお忍びなんだから」
「あ、はい! ティア様!」
ジュールはやってしまったとでも言うかのように焦って呼びなおしてきた。前はリュネーと遊ぶためにいったから、それ相応の歓待を受けたけれど……今回はジュールと一緒に遊ぶのが目的だ。別にこの国に知り合いがいる訳でもないし、私の事を知っている人がいる訳でもない。
せっかくだから、出来る限りリシュファス家の娘だという事を隠すことにしたのだ。
だからこそ、いつもと違う服装にしたという訳だ。
「でも、ラディン様に相談すれば宿くらい――」
「国賓みたいな扱いを受けられたら、外を自由に歩き回るなんて出来ないじゃない。それに、何かあったら貴女が守ってくれる……。でしょう?」
「勿論です! 万が一がないように、しっかりお守りいたします!」
ビシッと警備隊の敬礼の真似事をしたジュールに向かって、満足そうに頷いた私は、荷物を持ってワイバーン発着場から歩き出した。
「エー――ティア様、お荷物くらいお持ちしますよ」
「ありがとう。でも、これくらいなら自分でも持てるから大丈夫よ。貴女は自分の荷物だけ持っていなさい」
一応一泊二日という訳だから、それなりに荷物はあるけれど、別に持てないわけじゃないしね。
本格的に足を踏み出したウルフォルは、流石に王都と呼ばれているだけあって、港町のアルファスよりはかなり賑わっていた。やっぱり狼人族が多くて、猫人族のシルケットとはまた違った感じだ。
「シルケットとはまた違いますけれど、やっぱりアルファスと違って、獣の姿をした人が多いですね」
「狼人族の国だしね。背の高い人が多いから遠くがちょっと見にくいけれど」
基本的に体格が立派で、背が高い狼人族の中だと、小さい私は、あまり遠くまで見る事が出来ない。
それはジュールも同じようで、うんうん頷いてくれていた。
「まずは宿を取りましょうか」
最初はちょっと見て回ろうかとも思ったけれど、それで宿が満室になるのも嫌だからね。やらないといけない事は先にしないと、ね。、
「前みたい中々取れない……なんて事にはなりませんよね?」
ジュールの言葉に、中継都市の風景が脳裏によぎった。
あの時も宿屋が中々決まらなくて、大変だった。それに、ちょっとした騒動にも巻き込まれたけれど……おかげでエーレンやグルセットとも知り合えたんだしね。
「あの時は夏休みだったからね。今は大丈夫でしょう」
学園や学校が長期休みのときは、大体後学の為に軽い旅行に出る家族が多い。ワイバーン便なら近くに行くくらい、あっという間だからね。
今はそんな時期も過ぎたし、問題ないはずだ。
とりあえず、さっさと宿を確保して……この国の歴史を満喫しよう。




