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10・後悔先に立たず

「あー……やっちゃったなー……」


 自分の館に戻って、食事を終えて部屋に戻ってすぐ――私はベッドに寝っ転がって、あの時の光景を思い出してた。


 あの時――もう少し他に言い方があったんじゃないのかな? って思いながら天井を見て……今更遅いか……と深いため息をついた。

 目立ちたくないって思ってるのに、ああいう光景を見たら……つい手を出してしまう。


 ……まるで昔の私を見ているようだった。誰も手を差し伸ばしてくれなかった孤独。それをわかってるから……私は、口を出さずにはいられなかった。


「それにしても……厄介な事になっちゃった……」


 あの時、貴族の男の子が言っていた『決闘』っていうのは、この世界では最もありきたりな戦い方の一つ……なんだけど、別に無理をして戦う必要はなかったはず。それでも……あの貴族の男の子は自分の得意分野を提案してくるんだろうなぁ……。


「はぁ……明日の学園、行きたくないな」


 本当に……憂鬱だなぁ……。


 ――


 結局、あまり眠れずに登校したその日。私は職員室にいるベルーザ先生に呼ばれていた。


「エールティア……君に、『決闘状』が届いている。それも、二年生の貴族の子からだ」


 ベルーザ先生の言葉を聞いた私は、自分が思ってる以上に厄介な事になってることに気付いた。


「事情は竜人族の一年生から聞いている……が、決闘に応じた以上、僕たちにはどうすることも出来ないことはわかるね?」

「……はい」


 決闘は先生でも決して止めることが出来ない。それくらいわかって引き受けた……んだけど、上級生だったなんてわかるわけないじゃない! って声を大にして訴えたいのを堪えて、ベルーザ先生から紙を受け取る。

 そこには『戦闘で先に参ったと言わせた者を勝者とする』と書かれていて……『敗者は勝者に服従しなければならない』と記載されてた。但し書きで『期限を一日とし、命を奪う行為や、それに準ずる行為の一切を禁止する』と書かれてる。


「先生、これ……」

「ああ、遥か昔はずっと服従しなければならなかったが、今のご時世にそれをすれば色々と問題になるからな。制限をつけることで、反感を抑えると言う役目も担っているというわけだ」


 なるほど。だから『一日』だけって事になってるわけね。それ以外は好きにやって良いって書いてるような感じがして、気分が悪くなってくるけど。


「こんなのが横行してるのも十分問題だと思うんですけど」

「……こういう条件は余程のことがない限り受理される事はない。この場合、エスカッツ伯爵家とリシュファス公爵家に話が行った後、是非を問う事になるな」


 ベルーザ先生の話は、私を困らせたいのかな? って考えたくなるほどの事をすらすらと言ってくれる。リシュファス公爵家って事は、お父様とお母様にこの話が伝わってしまう。そうなったら……何を言われるか……。


「そんな顔をするって事は、そういう自覚がなかったんだな」

「決闘というのは、あくまで個人的な事だと思ってましたから……」

「確かに、『本来』なら、な。だが、ルドゥリアが求めているこの条件は、それを逸脱している。恐らくだが、君の素性を知ったからこそ、このような条件を提案したのだろう。どうする?」

「え?」

「まだエールティアの名前が署名されていない。この時点でなら、提示された条件は呑めないと意思表示することも出来る。一応、双方の合意がなければ始まる事は出来ないからな。中々合意が得られない時は最終的に『決闘官』が折衷案を出して決める事になるけれど……」


 ベルーザ先生は心配そうに言ってくれてるけど……既に私に退路はなかった。ここで拒否をし続けて歩み寄ろうとしても、彼はこの条件を譲ろうとはしないだろう。そうなったらいつまでも決闘は行われなくて……決闘官が来る前に、またあの竜人の女の子に危害を加えてしまうかもしれない。

 それに……私はこういう、自分が世の中の中心だと思っている奴が大っ嫌いだった。


 持っていたペンでサラサラっと自分の名前を書いてベルーザ先生に渡すと、先生は驚いたような目で私を見つめてきた。


「……自分が、何をしたのかわかっているのか?」

「もちろん。わかっておりますわ」


 わざとらしい丁寧な口調と笑顔で、ベルーザ先生に告げて……私は職員室を出て行って、教室に向かうことにした。その時何か言いたそうな声が後ろから声がしたけど……聞きたくなかったから、聞こえないふりをして。


 ――


「ティアちゃん、大丈夫だった?」


 教室に入ると、リュネーが心配そうな顔で私の方を見てきた。私の事を覗き込んでくる姿は妹にも思えてくる。


「大丈夫。心配してくれてありがとう」


 とりあえずリュネーを安心させるように頭を撫でてあげて、優しく笑ってあげると、彼女は安心したように笑い返してくれた。

 あんな現場を見て『心配するな』というのは無理な話だけれど、リュネーを必要以上に巻き込みたくなかった。それに私は……いいや、思い出さない方がいい。思い出したって、気分が悪くなるだけだから……。

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