*注:修正前です5*
冒険者たち……A級B級の方々でしょう、が連携を取りながら大きな口を開けて襲い掛かってくるドラゴンに矢を放ち、剣を向けます。
そんなものはものともせず、ドラゴンは口から何かを勢いよく吐きました。
ドラゴンといえば、火を吐くイメージですが、火のようには見えません。煙のようなものでもありません。近いものといえば、矢。もしかすると、棘のようなものかもしれません。ハリネズミの針のようにも見えます。
タンタンターンと、何かに突き刺さるような音がこちらまで聞こえてきます。地面に、岩にと、棘のような針のようなものが突き立っています。とても硬いものだというのが分かります。
狙われた冒険者の一人をかばうようにして、別の冒険者が大きな金属の縦で棘から守っていました。
役割分担ですね。
棘を吐き出した後にほんの1秒くらいドラゴンの首の動きが止まります。それを狙って、別の冒険者が首を横から切りつけました。
ですが、硬い皮膚に阻まれ、全くドラゴンにダメージを与えられなていないように見えます。
「お願いです、お酒を」
「誰に頼まれた!ったく、子供に酒を取ってこいと頼むとはろくでもない冒険者もいたもんだ。無理だ、分かったか!」
胸倉をつかまれました。
それから、乱暴に後ろへと倒されます。
すぐに、ギルド職員は何かを持ってあっちへ行き指示してから別の場所へと走っていきます。
忙しそうです。フィーネさんもジョジョリさんも離れ、一人でギルドとしての役割を担わなければいけないのです。
しかも、状況は悪化の一途をたどっています。
あの、10階建てのビルほどもある巨大なモンスターが街で暴れ出したら……。想像しただけで怖いです。
冒険者たちが必死に足止めしようとしています。注意を引き付け、森へと誘導しようとしていますが、9つも首があるため、すべての首を同じ方向に向けさせることは大変なようです。逃げ惑う冒険者を気にしてこちらに向く首がいくつかあります。
ギルドには、職員ではない冒険者さんが留守番をしています。
「あの、フィーネさんに頼まれて、お酒を……誰かから没収したお酒があると聞きました」
嘘も方便。ごめんなさい、だまして。
「分かった。ちょっと待ってな。探してくる!」
買い取った品が入れてあるであろうテントの中に冒険者さんの一人が入っていきました。
えっと、酒が見つかったとして、それからどうしたらいいのでしょう。
ここからナインヘッドドラゴンまでの距離は数百メートル。酒をドラゴンの近くまで持っていくにはどうしたら……。
「坊主、どれだけいるんだ?」
すぐに一升瓶くらいの大きさの瓶を2,3本抱えて冒険者さんが出てきました。
「あれば、あるだけ」
一升瓶なんてドラゴンの大きさからみれば、小指の先くらいの大きさしかありません。こんな少しで効果があるのでしょうか。
「そうか、じゃぁ、持ってくるけど、運べるか?まったく、どんだけ飲むつもりだったのか……」
と、もう一度テントの中に入った冒険者さんが、お風呂になりそうなくらい大きな樽を他の人に手伝ってもらって運んできました。
た、樽……。
それが、2つ、3つ……。
これだけの量があるなら!でも、私には運べない、どうしよう。
樽とドラゴンとの距離を測る。倒して転がしていけばなんとか?
「運ぼうか?」
冒険者さんの申し出はありがたいです。でも、本当に効果があるかどうか分からないのに……。
一番危険なナインドラゴンヘッドのところへ運んでほしいとは……。
「もう一回、増血!」
ぽたぽたと血をたらしながらルクマールさんが来た。
額、腕、足と、何か所も血の跡が残っている。
「アレは厄介だ。針を測れると、急所に飛んできたものは剣で払えるが……ったく。全部回避しちまうバーヌの運動神経どうなってんだろうな。くそっ」
と、悪態をつきながらフライとポーションを口にしている。
「ルクマールさんっ!」
「おう、坊主、まだこんなとこいるのか。すまん、俺たちの力不足で、ダンジョン内で押さえきれなかった。できるだけ遠くへ逃げろ」
ルクマールさんの服装は血まみれだけど、傷は効果大のポーションでしっかりふさがっている。失った血もフライと効果微小ポーションで回復済。
「体調は大丈夫ですか?」
「あ?」
もしかしたら、ルクマールさんなら。
その、筋肉が飾り物でないのでしたら……。
「ルクマールさんは、力持ちですか?」
「ああ、当然な。力比べならバーヌにも負けねぇぞ」
酒樽を指さします。
「あれ、持ち上げることはできますか?」
ルクマールさんが酒樽を見ました。
「ああ、当然な。片手で楽勝だ。両手に1個ずつ持てるぞ」
やった!それなら!
「投げることはできますか?」
「は?投げる?」
ルクマールさんがはっと何かに気が付いた顔をしました。
「酒か、火でもつけて攻撃しようってのか?火魔法の火力を少しはあげられるか……そういうことか、坊主」
ルクマールさんに首を横に振ります。
「確証はありませんが、ナインヘッドドラゴンは、酒に弱いかもしれません……。顔に向かって酒樽をぶつけて酒を飲ませることは、できますか?1回試しにやってみてもらっても……」
ルクマールさんはすぐに酒樽を1個担いだ。
「ま、駄目なら顔に向かって火魔法。なんでもやれることはやってみるさ、見てな、坊主!」
と、ルクマールさんが酒樽を担いだままナイトヘッドドラゴンの方へかけていきます。
すぐに、ルクマールさんの姿をとらえた首が、襲い掛かろうと口を開きました。そこにめがけて、ルクマールさんが酒樽を投擲。
30m以上距離があったというのに、酒樽は見事に開いたナイトヘッドドラゴンの口にぶち当たり、砕け、酒をまき散らしました。
何かをぶつけられたことに怒ったのか、ナイトヘッドドラゴンの首が激しく上下に振られ、どこに狙いを定めるともなく、口から針を何度か吐きました。
「あぶねぇ!よけろ!」
ルクマールさんの声に、冒険者さんたちが針の回避行動をとります。
まずいです。
私のせいです。
逆に怒らせて針をあれだけ飛ばされてしまいました。どうしましょう……。
と、思っていたら、首が突然ふにゃりと柔らかく地面に頭を下ろしました。
え?
唖然として遠巻きに見ていたルクマールさんが近づきます。
すると首はむくりと上がり、また、針を吐き出しました。明後日の方向へ。
すぐにルクマールさんが私の元に戻ってきました。
「酔っぱらった。坊主!針は厄介だが、やみくもに攻撃している。あんなもん、俺たち冒険者にはへでもねぇ」
ルクマールさんが私の頭をぐりぐりとなでて、今度は両手に酒樽を担ぎました。
「待って、ルクマールさん、お酒はそれだけしか……」
ナイトヘッドドラゴンの首は9つ。
「おい、酒だ!あいつは酒に弱い。見ろ、酒を集めてくれっ!街からも酒をすぐに運んでくれ!」
ルクマールさんがギルド職員に声をかけました。ギルド職員さんは、ちらりとルクマールさんの隣にいる私を見て、ちょっとだけ頭を下げます。
私の話をまともに聞かなくて悪かったと思ったのでしょうか。いえ、私も確証がなくて話しませんでしたし、大丈夫ですよ。と、頭を下げ返しました。
「酒を持ち込んでいる者は、ギルド出張所へと持ってきてくれ、大至急。ナイトヘッドドラゴン討伐に必要だ。街へと退避する者は、街で酒を集めるように指示してくれ」
と、まるで拡声器でも使ったように声が広がりました。何かの特殊能力でしょうか。便利です。
すぐに何人かの冒険者が酒を持ってきます。
「これだけしかないが使ってくれ!」
「俺たちのもんじゃないが、逃げてった奴が置いて行ったもんだ」
と、次々に酒が集められます。ですが、その量は十分とは言えません。さすがに酒樽で持ち込んでいる人は他にはいないみたいで。
街から運ばれてくるのを待つ必要があるでしょうか。
と、心配そうに見ていると、ルクマールさんがにっと笑いました。
「いくつかの頭が酔いつぶれるだけで、俺たちは助かるよ。少しずつ休憩が取れる。みんな休む暇もないからな」
街まで30分ほどの距離です。馬とか何か移動手段さえあれば、酒を運んでくるのに15分かからないかもしれません。
「それ、俺たち人間様のおごりだ!たんまり飲みやがれ!」
ルクマールさんが別の首に向けて酒樽を投げます。
1つ目の首と同じようにしばらく暴れるような動きをしたあと、ふわふわとした酔っ払いのような動きになりました。
「そりゃ、もう一つ!」
「少し離れる」
その様子を見てバーヌがこちらへ来ました。
3つの首の戦闘能力が落ちた。冒険者チームの一つも、小休憩するために周りに声をかけて離脱しました。
酔っ払いの首は、時々吐き出す針に気をつければ問題ないようです。針に対応するだけならば、C級冒険者の盾役でもなんとかなるそうです。
「ご主人様!申し訳ありません、ダンジョンからそとへちょにゃるぐす」
どんな緊迫している場面だろうと、ご主人様呼びは許しません。
「ユーキ……ダンジョンから出てきました。危険ですから、街へ逃げてください。応援が到着すれば、僕の役割も終わります。2、3日で帰りますので」
「帰るってどこへ?ボクがどこか行っちゃったら、どこにいるのか分からないでしょう?家もないし」
本当に帰ってきてくれるのでしょうか。
生きて、私のところに。ずっと不安になって何日も過ごすなんて、私に耐えられるでしょうか。
「モモシシを狩ってきた、どうすればいい?」
ふおう!ブルドックもふもふ3兄弟(勝手に命名)さんが戻ってきました。
「ユーキ、なんか嫌な匂いがする」
「は?え?」
突然バーヌが不機嫌になりました。匂い?え?
「僕以外にそういう匂い……何でもない。僕は必ずユーキを探し出せるから、街へ」
「バーヌ、本当に駄目だと思ったらボクはちゃんと逃げるから。今はまだすることが残ってる」
バーヌに背を向けて、モモシシの処理を頼む。
必要な個所はレバーだ。解体はあとにしてとにかくレバーを取り出すようにお願いします。……さすがにちょっと、日本では丸ごと動物を料理する機会なんてないので……無理です。
レバーを取り出してもらえば、後は調理だから大丈夫です。必要なものを出張ギルドへと運んでもらいます。
「すまなかった。ほかに何か必要であれば言ってくれ。今度はすぐに協力する」
すれ違いざま、ギルドの職員さんが謝ってくれました。
レバーフライの作り方を何人かに覚えてもらうために説明しながら調理します。すぐに覚えた人に作業をバトンタッチしました。
バーヌはどこ?
ナインヘッドドラゴンを見ます。
バーヌは別の冒険者をかばいながら剣を振っているところでした。
ターンと地を蹴ると、驚くことにバーヌは10mほど高く飛び上がります。そして、ドラゴンの首を踏み台にさらに高く飛び上がり、一つの首の眉間に剣を突き立てました。
けれど、まるっきり剣は刃が立たないようです。
「眉間もだめか……」
バーヌの悔しそうな顔が見えます。
弱点がないか、必死にいろいろと試しているようです。
「【鑑定】」
私にできる手助けはこれしかありません。
他に何か見落としてはいないか。参考になる情報はないか。
【鑑定結果
名前:ナイトヘッドドラゴン
続きはWEBで】
検索窓に、9つの首、弱点と入力して検索。
あ、除外検索にナイトヘッドドラゴンと入れ忘れました。
ん?
ナイトヘッドドラゴンとい単語が入っているのに、検索結果が表示されました。
【ナイトヘッドドラゴンの弱点を考えてみた。
私は、前々からドラゴンの弱点が首の付け根だと言われていることに疑問を感じている。あそこは首の付け根ではなく、すでにお腹なのではないかと思っているのだ。
何故なら、いろいろなモンスターや動物を見てきたが、お腹が軟かい生き物は多い。】
お腹?
いやいや、さすがに、首の付け根がお腹というのは……ないでしょう。と、別の検索結果を見ようとちょっと自分の首に触れた。
「あ……」
のど。
お腹ではないけれど、首には喉があります。喉をつぶされると呼吸が止まって危険です。でも、首の後ろ側を抑えてもツボが刺激されて気持ち良かったりします。
表と裏……。
続きにもう少し目を通すことにしました。
【ドラゴンは大きい。人はドラゴンと対峙するとき、お腹側を切りつける。】
お腹を喉と置き換えて考えてみます。確かにしたから攻撃すれば、自然と喉を攻撃することになるでしょう。
【9つの首のドラゴンは、お腹側が普通のドラゴンと逆なんじゃないだろうか。ぐるりと円上に首が配置されて、一番の弱点である腹は――】
「ユーキ危ないっ!」
ドンっという衝撃。右側から突き飛ばされ、地面に左肩を強く打ち付けました。
痛っ。
驚きと痛みに一瞬目をつむります。
すぐに目を開くと、目の前にバーヌの顔がありました。




