*注:修正前です3*
「冒険者だったあなたなら、強制されようがされまいが、率先して最前線へと身を投じたでしょう」
そうなの?フィーネさんの言うことは本当なの?
バーヌの表情は何を意味しているのでしょう。言われて悔しいのか、図星を刺されて苦しいのか。分からないです。
でも、でも、決して満足している顔でないことは分かります。
「バーヌ、あなたはどうしたいの?教えて」
バーヌが首をこちらに向けました。
困った顔をしています。
「ユーキ、あなたを守りたい。だから、あなたのそばにいたい。ですが、ユーキは、皆を助けたいのでしょう?ユーキの願いをかなえるために働きたい。ユーキを喜ばせたい」
ああ。
何てことなんだろう。
バーヌは、私のことだけをただ、考えてくれているというのに。
私は……私は……。
バーヌが色々な気持ちで苦しんで悩んでいるなんて、気が付いて上げられませんでした。
「ありがとうバーヌ。ボクの願いは……バーヌと同じ。バーヌが傷ついてほしくない」
守りたい。
「バーヌ……それは体はもちろんだけど、心も傷ついてほしくない。今、皆を助けるために行動しなければ、後悔するでしょう?心が痛むのでしょう?」
きっと、バーヌの言葉にはまだ隠していることがあるんだよね。
私を守りたいというのは嘘じゃないけれど、フィーネさんの核心をもったような言い方。
きっと、さっき会ったA級冒険者さんのように、プライドを持って、仲間のために、人々のために、冒険者である自分が行かなければと……そういう考えの立派な冒険者だったんですよね?
自分が力になれるのに、その力を使わないでいることが苦しいんですよね?
「だったら、行って……。私、バーヌのことが心配になってちょっと辛いけど、でも、大丈夫。ちゃんと生きて戻ってきてくれるって約束してくれるなら、ボクも、ボクにできることをして、バーヌの帰りを生きて待ってるから。ね?バーヌが、みんなのために頑張ってくれるの、ボク、嬉しいから」
危険な場所にバーヌを行かせることは不安でどうしようもない。
だけれど……。
「フィーネさん、バーヌを、奴隷でなく冒険者として扱ってください。誰かのおとりにして犠牲にしたりとかそんな扱いじゃなく、他の人達と同じように協力して戦う仲間として」
ぺこりとフィーネさんに頭を下げます。
「はっ、当たり前よ。金狼をおとりにできるような冒険者なんているわけないわ」
また、きんろうという言葉が出ました。
「ジョジョリッ」
フィーネさんが後ろを向いて大きな声を出せば、すぐにジョジョリさんが普通よりも少し長めの剣を1本持ってきた。
「ダンジョン産の剣。買い取った中で一番の上物よ。とはいえ、あなたには物足りないかもしれないけれど、今回の討伐の間貸し出すわ」
一番の上物を、バーヌに?
バーヌがジョジョリさんから剣を受け取ると、しっかりと手に持って二三度ふっています。
「悪くない」
バーヌが私の顔を見ます。
「ご主人様、ではいってまちゅっり」
ほっぺたぶにーです。
どんな場面だって、ご主人様って呼ぶのは許しません。
バーヌは嬉しそうに尻尾をぐるんぐるんと振ってダンジョンへ向かってかけていきました。
……あれ?本当に頬っぺたぶにーはタダのご褒美になってませんか?なんであんなに嬉しそうなんでしょうか。
「ありがとう。ユーキ、君が金狼の主人だったことに感謝するわ」
きんろう=バーヌで間違いないようです。
そして、間違ったことはちゃんと否定しないと。
「バーヌを奴隷じゃありません。奴隷紋みたいな模様が腕にある、僕の……」
家族ですと、そう言おうと思いましたが、この世界の家族の形がいまいち分からないので言葉を飲み込みました。
それこそ、家族だからと、子供だからと、奴隷のように扱う家父長制度みたいものがあるかもしれませんし……。
「バディです」
顔を上げて、はっきりと口にします。
「あら、そうなの?私はてっきり……。だって、どう見ても金狼の方は……」
はい?
どう見ても、バーヌは、どう見えるんでしょう。奴隷そのものに見えますか?それは、私が色々バーヌに頼んでいるからでしょうか……。
ちょっと反省です。今度はバーヌのお願いを聞いてみましょう。
「いえ、何でもないわ。ユーキはどうする?冒険者じゃないんだし、いつダンジョンからモンスターが出てくるか分からなくて危険だから」
逃げても構わないと、フィーネさんは言いたいのでしょう。
バーヌがダンジョンで戦いに行ったのに、私が逃げる?そんなのバディとしてありえません。フィーネさんはそれも承知なのでしょう。一般人は逃げなさいとも言いません。
「フライはどれくらい必要になるでしょうか。四分の一くらいの大きさでも効果はあると思いますので、小さくして使ってください」
フライの山は、10枚ほどだろうか。4等分して使ったとして40回分。
「まだ、材料がありますから作ってきます。それから、材料は、モモシシのレバーです。もっと必要になりそうであれば、誰かにモモシシを狩ってきてもらってください。レバーは鮮度が落ちるのが早いので、古いモモシシのレバーは食べないほうがいいです」
フィーネさんが頷いきました。
「ありがとう。ジョジョリ、冒険者の中から、そうね、鼻のよい犬族ならモモシシの狩りも早いでしょう。何名かモモシシ狩りに出してちょうだい」
ジョジョリさんが頷き、すぐに冒険者たちを見つけて声をかけに行きました。
犬族?
もしかして、もしかして、犬耳の……っ!
バーヌみたいな……。
ん?
あれ?
ふさふさしてないです。
尻尾はちょろりと短くて、ふさふさした毛はないです。耳は、折れ耳です。
体格はずんぐりむっくりです。あれ?バーヌとは尻尾も耳も似てないですよ?
くるりと振り向いた犬族の冒険者の鼻が上を向いていました。あ!
ブルちゃんです。か、かわいい!ぶさかわいいやつです!ふわぁ、ふわぁ!ちょっともふもふしたいのですが、え、駄目ですよね。それどころじゃないですよね。
え?それどころでも知らない人をもふもふしちゃいけませんよね。うううう。
そして、3人のブルちゃんが集められました。兄弟でしょうか。似てます。20歳前後の色違いのブルちゃん。ああああああ、眼福。
って、本当にそれどころじゃないんです。
屋台の会った場所に戻り、急いでフライを作ります。別にフライの形にこだわる必要はないのでしょうが、食べやすさを考えると生は難しいです。
焼いても、他の肉と見た目が明らかに違っているので、得体のしれないものとして、口に入れるのを躊躇する人もいそうです。姿も見えない状態のフライが一番いいと思います。
それに、もし、調合的な意味合いがあるとしても、レバーに効果があったのか、ニンニクに効果があったのか、小麦粉に効果があったのか、不明な段階では、下手に別の物を作るよりも効果があったものと同じものを用意したほうが無難だと思います。
ニンニクは元気になる食べ物ですし、あって邪魔になるものではありませんよね。
油を節約して揚げ焼きにしていましたが、ダタズさんが置いて行った油をたっぷり使うことにしました。そのほうが一度にたくさん揚げられます。
小さめにしてどんどん作っていきます。
ああ、油の匂いでお腹いっぱいです。レバーがなくなったところで、出張ギルドへと運びます。
「あ、ルクマールさん」
怪我人がいる場所にルクマールさんの姿が見えました。大丈夫でしょうか。
「大丈夫ですか?」
フライを係の人に手渡し、ルクマールさんの元にかけよる。
「ああ、感謝したくはないが、今回ばかりは金狼のおかげでな、こうして血の補給に来られたよ」
ズボンの半分が血で汚れているのが目に入りました。
「ああ、ルクマール、いったい出現したモンスターは何なの?A級B級の者たちの話だけじゃ、さっぱり分からないのだけれど……」
ルクマールはフライとポーションを口にしながら、フィーネさんの質問に答えます。
「俺にも分からん。……初めて見るやつだ。話にも聞いたことがない」
「え?話にすら聞いたことがない?それは伝説級でめったに出ないということではなく?」
モンスターの話は私にはさっぱりわかりません。
「強さは間違いなく伝説級だろう……S級の俺に、A級やB級冒険者が何人もいて、さらに、金狼まで加わったというのに、足止めするだけでこちらが負傷者を次々に増やしてしまうんだ」
フィーネさんが小さく舌打ちをする。
「ギルドへ応援要請はしたけれど、近隣の冒険者はすでにお宝祭りで集まっている状況。ほかに戦力になりそうな上級冒険者は、最短で2日後。国に兵を要請も同時にしていますが、こちらも早くても2日後……。これから急がせるにしても、明日までは期待できないでしょう」
「ちっ。それじゃぁ、1日は俺たちだけでアレの足止めをしなくちゃいけないってことか……くそっ」
ルクマールさんが悪態をつきました。
「あなたと金狼の二人がいても、明日までの足止めすら難しいというの?」
ルクマールさんが小さく首を横に振りました。
「ドラゴンだ」
フィーネさんが首を傾げる。
「ドラゴンスレイヤーであるあなたたちなら、足止めどころか討伐もできるんじゃないの?」
「無理だ。ドラゴンの弱点と言われる首の根元に、刃が立たない」
「え?」
「それだけじゃない。ドラゴンの首が9つ。尾が9つ」
九頭竜?
八岐大蛇?
頭の中で和風のドラゴンを想像する。
首の根元がつながっていれば、弱点になりえないんですね。
「なんですって?」
フィーネさんが顔色を悪くした。
「まるで、一度に9体のドラゴンを相手に戦っているようなもんだ。とてもじゃないが、足止めだけでも、俺たちだけでは……」
「9体のドラゴン……」
「A級冒険者一人にB級冒険者5人のチームが4つ、A級2人にB級2人のチームが3つ、それから、俺、金狼で、首1つずつと対峙している。俺が抜けた今、金狼が2つ抑えているはずだ」
フィーネが頭を押さえた。
「C級も回した方がいいかしら」
「いいや、人数ばかり増やしても、足を引っ張る可能性がある……できれば、A級以上、少し俺たちと交代してもらえる人間が欲しい。この状態で1日はとても無理だろう」
フィーネが爪を噛みました。
「思っていたよりも状況は悪いようね。9つの頭があるドラゴン、ドラゴン共通の弱点である首の付け根に刃が立たない……。情報がないか調べてみるわ」
「ああ、頼む。俺は戻るよ。坊主、ありがとうな!」
と、ルクマールさんはすぐにダンジョンへと戻っていった。
情報……。
「フィーネさん、鑑定魔法で、弱点とかそういうの分からないんですか?」
「鑑定魔法……戦闘力や属性は分かるけれど、火属性だと分かっても、火に耐性があるとは分かるけれど、弱点までは……ああ、もしかしたら、王都にいる、上級鑑定士であれば……」
上級鑑定士?
「ありがとう、念のため上級鑑定士の派遣も依頼しておくわ」
フィーネさんが戻ろうとしたところで、ドゴーンと、地響きとともに、人々の叫び声が聞こえてきました。




