勘違い
「なぁ、お前は食ったか?なんでもめちゃくちゃうまい肉が売ってたって聞いたんだが」
ん?もしかして……。
「ダタズの店だと言っていましたか?だとしたら食べましたよ。とてもおいしかったです」
味を思い出す。
焼き肉のたれに近い味。この世界では食べたのは初めてだったから珍しいんだと思う。本当においしかったですよ。シチューにもクルルの実を隠し味に使うといっていたので、あのたれにも果実系が何か隠し味で使ってあるのかもしれません。
「うわー、マジか。食べたかったな。くそ、もうちょっと早くついてればなぁ……っ」
ルクマールさんが悔しそうに頭をぐしゃぐしゃと両手でかいた。
……そういえば、お母さんに料理はもう食べさせないといわれてショック受けてましたね。もしかして、食いしん坊?
「大丈夫ですよ。今、夕食タイムのための仕込みをしているところで、夜にはまた売りますから」
ルクマールさんが興奮気味に私の両肩をつかんだ。
「マジか?本当か?その情報は……っと、お前、そういえばずいぶん情報ツウだったな。あー、坊主の名前は?まだ聞いてなかったよな?」
「ユーキです」
ルクマールさんが私の頭をぽんっとなでた。
「ユーキか。いい名前だ。それで、お前は何しにダンジョンに来たんだ?冒険者ってわけじゃないよな?」
ふふ。
とてもいい人です。よほど水虫問題が解決したのがうれしいのでしょうか。でも、お金いっぱいもらいましたし、恩を感じなくてもいいんですけど。
「あの、ルクマールさんは文字書けますか?」
「ん?ああ、そりゃぁ、うまくはないが、冒険者だからな。一応依頼書を読んだり、依頼達成報告書を書いたりするときに必要な文字は覚えてるぞ?」
子供だと思われていることを利用して、脈絡なくどんどん話をしていきます。
「夜のメニュー表を書きたいんですけど、ボクは文字が書けなくて手伝ってもらえませんか?」
ルクマールさんが眉根を寄せた。
「夜のメニュー?お前、まさか何かよからぬことを?いくら女みたいなかわいい顔してるからってな、ほかにもうちょっと金稼ぐ手段ならあるだろ?」
へ?
ああ、誤解させちゃったようです。
「冒険者になりたいっていうなら、俺が面倒みてやる、あ、面倒を見るってのは育て上げてやるって意味だぞ、養うって意味じゃないからな?その、男を囲う趣味はないから安心してくれ」
いやいや、いい人だけど、誤解したまま話を進めすぎですよ。
「ルクマールさん、違いますよ。夜に出す食事のメニューをかいてほしいんです」
「は?食事?」
ポカーンとした顔をするルクマールさん。
「そのめちゃめちゃうまい肉を売る店の手伝いをしてるんですよ。夜のメニュー表を作りたいんですが、文字が書けなくて」
ルクマールさんの目が輝いきました。
「なんだ、ユーキ、お前がその噂の凄腕の子供か!」
凄腕の子供?いや、どんな噂になってるのでしょう?まぁ、確かに計算とかは多分この世界基準じゃ早いとは思いますけど……。噂されるほどのことなでしょうか?




