水虫さん再び
ああ、きっとお店に奥さんと一緒に立っていた時にはよく繰り返されたやり取りなのだろう。
奥さんの病気……。ダタズさんを鑑定したときに出てきた情報を思い出す。
妻の病気を心配している情報があふれんばかりに出てきた。
出血が止まらないらしい。どうやら怪我ではなく女性特有の病気のようだ。不正出血、それも大量で、長く続いている。子宮筋腫なのか子宮癌なのか。内膜症なのかよくわからないけれど……。血が足りず、日に日に弱っていくらしい。ポーションをいろいろ試したけれど、一時的に少し良くなるだけで治ることがなかったようだ。
止血剤的な効果のあるポーションがあればいいのかなぁ。
欠損部分まで治してしまうような効果特大のポーション、バーヌを治したあれ、作れないでしょうか。娘さんが入れた植物の情報は結局分からず終いだったのです。目についた適当な雑草をちぎって入れたため、それが何で、どれくらいの量で、どういうタイミングで入れたのか。4歳の子の記憶では情報がゼロに近いみたいです。
「では、夜のメニューはモモシシの焼いた肉と、肉をはさんだパンと、モモシシと野菜たっぷりシチューにしましょう。さっそく必要な材料を街へ戻って仕入れてきますが……」
ダタズさんがちらりとモモシシを見た。
「肉の下処理はその間に僕がしておきますよ」
バーヌがトンっと自分の胸を叩きました。
ダタズさんが街に向かって歩き出し、バーヌがモモシシの解体作業を始めました。
「すごい、バーヌは何でもできるんだね」
捕まえてくるだけじゃなくて、捌くこともできるんですね。
「ご主人様が望めば、できないこともできるようにしみゃうすぅ」
また、ご主人様って言いましたね。
「ユーキだよ。ご主人様って言わないのっ!もうっ!もふもふしちゃうよっ!」
バーヌのほほが赤くなります。
「もふもふ……?何をされるのかわかりませんが、お望みであれば……」
と、バーヌが両目をつむりました。
何、その、チューされるの待つ女子高生みたいな顔っ。綺麗すぎてどきどきするからやめましょう。
もしゃもしゃもしゃっ。
あ、やばい。理性が飛んでしまいました。
思わずバーヌの頭をなでて耳を触ってしまいます。もふもふ。なんとかしっぽを触るのは我慢です。
ふぅ。あぶない、あぶないです。
「ぼ、僕が望んでいるのは、ダタズさんの店が無事に開けることだから、バーヌ、解体の続きしてね!」
ぱっとバーヌから距離を取る。
うろうろ……。
私は何をしたらいいのでしょう?そうそう、さっき自分で言っていたものをいろいろと準備しましょう。
看板とメニューと……あ、文字が書けません。
「おう、坊主、やっぱりまた会ったな!」
上から声が降ってきました。
見上げるとそこには……。
「水む……えっと、ルクマールさん!」
危ないです。思わず水虫と言ってしまいそうになりました。水虫に悩んでいた大きな体の筋肉イケメンのルクマールさんがいました。
乗合馬車には乗っていなかったけど、そのあと歩いて移動したとしたらめちゃくちゃ早いですよね。
……私の胸くらいまで足です。ああ、コンパスの違い?それに体力もありそうですし。




