きんろう
「追加分です。また行ってきます」
バーヌがあっという間に2匹捕まえて持ってきた。
「ほかの肉でも調理できますか?」
バーヌの質問に、ダタズさんが頷いた。
「では、ちょっと大物狙ってきます。そのほうが早そうだ」
大物?
「バーヌ、無理して怪我しちゃだめだからね!」
熊とか猪とか強暴そうな獣を想像してバーヌに声をかける。
振り返ったバーヌの尻尾は大きく揺れて、嬉しそうな笑顔を見せて森へと走っていった。
うっ。なんてかわいい尻尾だ!
「金狼……」
勤労ですね。そのとおりです。奴隷に仕事頼んでます……。命令じゃなくて、勤労感謝です。
大丈夫、ただの仕事の範囲。……だよね?しっぽがかわいいからってセクハラもしてません。あ、セクハラじゃなくて、もふハラ?
ああ、でも危険な動物に向かっていくなら、それはやらせすぎで……やっぱり止めたほうがよかったかな……。
「おい、さっきの、金狼じゃなかったか?」
「は?なんでこんな初級ダンジョンにいるんだよ。見間違いだろ?」
「いや、だけどお宝祭りだし……」
え?きんろうって、勤労でなくて、人の名前?
「もう、パンがあと3つしかない。せっかく追加で狩ってきてくれたが」
パンが3つか。
「パンはあと3つになりましたので、ここからは肉のみの販売となります」
「あー、遅かったかぁ。仕方がない、手持ちの硬いパンで我慢するか」
並んでいた冒険者ががっかりと肩を落とす。
手持ちのパンが硬い?
硬いなら、スープに浸したりして食べたらいいような気が。ああ、どうせなら具だくさんの野菜スープがいいですね。
「肉を10本だ。パンなんていらん。肉があれば幸せだからなっ!」
と、うん、そういう方向性もありますね。
「10本で、3本セット3つとバラ1つになりまして、銅貨17枚です」
と、接客を続けていると、ドサッと何か重たいものが地面に降ろされる音がした。
「お待たせしてすいません」
バーヌの声が聞こえてきた。
「うわっ、これはモモシシじゃないか、しかも若いモモシシ。柔らかくて上質な最高級の肉が取れるぞ」
ダタズさんが驚きの声を上げている。
へぇ、最高級の肉!
思わず振り返って見る。
あ、想像よりも大きいです。馬くらいの大きさはあるでしょうか。足の短い牛みたいな動物が横たわっています。
角がとても鋭くて、闘牛士がおなかを刺されてしまうシーンを想像してぞっとしました。バーヌが無事でよかった。
ほっとしてバーヌの顔を見る。
バーヌと目が合うと、嬉しそうに……いや、あれは僕頑張ったよすごいでしょほめてほめてっていう顔をしている……ように思える。耳が何かを期待して小さくひくひくしてるからね。ああ、あれがバーヌ(犬)だったら、間違いなく「よくやったね!いい子だね!」と、全身もふもふしまくるのにっ!
「ああ、でももうタレが残り少ないな」
ダタズさんの残念そうな声。
「あと、どれくらいできますか?」
並んでいるお客さんを見る。噂を聞きつけてやってきた人が後ろに並ぶため、売っても売っても列は続いている。
ダタズさんに数を聞き、一人5本……いや、パンがないため10本買う人がいると考えると、とても足りない。
「バーヌ、売り子頼んでもいい?」
慌てて、列の最後尾までかけていく。




