評価
「坊主、すげー手腕だな……」
手伝ってくれてる冒険者さんが唖然とした。
「ちょっと前にも似たようなところで働いたことがあるので」
28歳、接客業。イベントごとの列整理とかもしたことがあるんです。
「手伝っていただきありがとうございました。これ、お礼には少ないのですが……」
と、肉を挟んだパンを差し出す。
「おう、いいのか?ありがとうよ!」
「では、気を付けて行ってきてください。あの……お二人に何かあれば、私も悲しみますから……」
冒険者ががしっと私の頭をつかんで乱暴になでまわした。首がぐらんぐらんします。
「ダタズのためにありがとうな!」
二人の後姿を眺めながら、出来上がり次第、お客さんに商品を手渡していく。
「おれは、肉7本な」
「はい、3本セットが2つとバラで1本になりますから、全部で銅貨12枚いただきます」
即答すると、冒険者がうっとつまった。
「ん?今ので合ってるのか?」
後ろの人に聞く。
「えーっと、ちょっと待ってろ」
指を立ててみて、お金の計算をしているようだ。
ああそうか。計算を普段しない人もいるんだよね。
何本だといくらになるっていう一覧表みたいなメニューを用意したほうがいいのかな?
それにしても一人で買っていく数が思った以上に多い。
よほど今まで肉に飢えていたのか、それとも単にもともと大ぐらいなのか……。
「ダタズさん、あとどれくらいできますか?」
「今ので1匹使い終わりましたので、あと1匹分です」
並んでいる人たちを見る。……うん、足りない。
「バーヌ……頼んでもいい?お肉、足りなさそうです」
「ええ、もちろん。では、行ってまいります」
と、バーヌが森の中に消えていった。
「お待たせいたしました。パンを3つと肉を3本ですね。銅貨15枚になります」
お金を受け取り商品を手渡しながら、ついでに宣伝。
「この味はダタズの店でしか食べられません。街に来た時にはよろしくお願いします」
すでに食べ終わった人から、うまかったよと、今まで食べた中で一番だと、誉め言葉をいくつかいただいた。中には明日も来るのか?どこで食べられる?という質問をする人もいたので、宣伝することにした。
「ありがとうございました!」
ぺこりと最後にお辞儀。
「お、おおう、いや、こちらこそありがとう」
びっくりした顔をしてお客さんが去っていった。
ん?何かおかしな接客をしたのかな?
「坊主は、どっか大きな商店で貴族相手に仕事してたのか?」
次のお客さんに尋ねられた。
「いいえ、貴族様にはお会いしたことはありません」
……貴族。
やっぱりいるよね、どっかには。なんか、怖いイメージしかないです。
奴隷もいる世界の貴族様だよ?無礼を働いたらすぐに首を切られそうです。絶対近づきたくありません……。
「そうか。計算もよくできるし、それにそうして丁寧な言葉で最後に頭まで下げられると……なんか、冒険者なんてしてる俺らもちょっと貴族にでもなったようなこそぐったい気持ちになるな」
え、そうなんだ。いや、普通の接客ですけどね。……お客様は貴族どころか神様な世界では……。日本のおもてなしクオリティがまさか異世界でも特殊だとは。




