行列のできるお店
「お前らがパーティーメンバーか?」
冒険者が私とバーヌを品定めするように上から下まで見た。
「違いますよ!今から出張ダタズの焼肉屋さんをするんです!ぜひ買いに来てくださいね!」
「は?出張?焼肉屋?」
冒険者が首を傾げている。
あ、ダタズさんも首を傾げた。
「おーい、このあたりに場所が取れそうだよ、机は無理だが、いくつか丸太を並べてみた」
少し先に行っていた2人組の冒険者の一人が手を振っています。
「ありがとうございます。行きましょう!あ、というわけで、お店はあそこです。また後できてくださいね」
と、声をかけてきた冒険者に手を振って壺を大事に抱え直して走っていきます。
「ここで、料理してください」
「ああ、分かった。なんだか分からないが、まぁ、難しい料理じゃないからここでもできるよ。たまには外で料理するのも気分が変わっていいかもしれない」
ダタズさんが青空を見上げてから、肉をさばき始めます。
バーヌが火をおこす。
冒険者の二人が、呼び込みと接客だ。
そして、私は、さくらです。
ほら、美味しそうに食べている人がいると自分も食べたくなりますよね?必要な役割ですよ?
「できたよ」
と、焼肉がお皿の上にのせられて目の前に差し出されました。特製ダレが食欲をそそる香りを発しています。直火焼きなので、少し焦げたところがまた香ばしくておいしそうな香りをしています。
「いただきまーす!」
箸がないので、お肉は串にさして出されました。焼肉だけど、焼き鳥みたいに串にささっているという。
「はふ、はふ、はふ、ダタズさん、おいしいです。すごく、お肉、おいしいですっ」
匂いと、私がおいしそうに食べているのにつられて、冒険者が寄ってきた。
「俺にもくれ!3本だ!」
「はい、1本銅貨2枚、3本だと銅貨5枚におまけするよ、パンにはさんだほうは銅貨4枚、こっちも3つなら銅貨10枚におまけだ」
と、接客係の冒険者さんの声に、すぐに次々に注文がはいる。
「俺にはパンのやつ3つくれ!」
「こっちは5本と5個だ」
やっぱり。携帯食より絶対作りたてのご飯のほうがいいですよね。
街まで戻らなくていいから、冒険者たちは得するし。
「ダタズさん、次々焼いてくださいね。ああ、足りるかな、お肉……」
と、その前に、ちょっと混乱しているようですね。
「すいません、お客様、一列に並んで順番にお願いしてもいいですか?そうしないと、誰が先に注文したのか、何を注文したのか分からなくなってしまいます。こちらの能力不足でわがままを申して申し訳ありませんが、ご協力をお願いいたします」
おいしいお肉を食べてお腹満足したところで、お店の手伝いに入る。
「あー、並べって?」
「申し訳ありません。見ての通り子供の手伝いです。ダタズさんの奥さんが病に倒れてしまっていまして……」
冒険者の一部からは不満が漏れる。我先にという生き方をしていた人間には「並ぶ」という行為はどうにもまどろっこしいのだろう。
しかし、こちらが悪いと謝ることで理解を示してくれた冒険者もいる。極めつけに病人がいる話で同情してくれた人たちが、素直に並び始めた。
並んだ人たちが、並ばない人たちに睨みをきかせてくれたおかげで、さほどの混乱もなく綺麗な列ができました。
ありがたいありがたい。




