いい人といい人じゃない人
「ああ、失礼何でもありません。父から護衛付きでちょっとした勉強をさせられているだけです。商売相手として信用できる店を探す目を養えと」
「子供に高そうな奴隷の護衛をつけて勉強って……ど、どんな方が……ちょっとお待ちください、あのっ」
おかみさんが焦った声をだして私たちの後を追おうとしています。
高そうな奴隷?バーヌって高そうな奴隷に見えるんでしょうか?
値段ってどうやって決めてるんでしょう。見た目も重要ってことであれば、まぁ、高そうですよね。
これだけのイケメンで、バーヌ(犬)に似てかわいい耳と尻尾を持っているんですからっ!
「【鑑定】」
肩をつかまれたので、振り返って鑑定魔法発動。
「は?」
びっくりして、おかみさんの手が離れました。
鑑定結果は相変わらず名前しか出ないんですけど、さっき検索窓でいろいろ検索したから情報はいっぱい持っているのです。
「ボク、鑑定魔法が使えるんだ。おかみさんの名前はルルリアーネ。だけど、小さいころから貴族みたいで名前負けしてるってバカにされたから、アーネとだけ名乗っているみたいだね」
何でもない小さな秘密を暴露すると、おかみさんの顔が青ざめました。
「鑑定魔法で、物の価値はすぐに分かるんだけど、人を見る目は経験を積まなくちゃ立派な商売人にはなれないんだって。行こう、バーヌ」
バーヌの手を取って店を出ます。
店を出たところで、バーヌが声をかけてきました。
「ユーキ、あの、さっきの話は?」
「ああ、作り話。嘘つくのは悪いことだけど……悔しかったんだ」
ぐっと奥歯をかみしめると、バーヌがしゅんっと頭を垂れました。
「申し訳ありません。僕が……奴隷だから、適正価格で買い取ってもらえなくて……」
違う、違う。怒りに握り込んだ指先が冷たくなります。
「ボクは、自分がいやになる。こうしてバーヌに謝らせてしまった自分がほんとうに嫌だ」
くるりと振り返り、後ろを歩いていたバーヌの顔をじっと見ます。
「あのね、あの人は、バーヌが奴隷だから足元を見ただけじゃなくって、ボクも子供だから言いくるめようとしてたし、他の人にだって、足元を見てちょっとずるいことする人なの!だから、バーヌが悪いんじゃなくて、あの人がいい人じゃなかったってだけ」
バーヌが小さく首を傾げる。
「僕は、ユーキほどいい人を他に知らない。ユーキを基準にすればみんないい人じゃないよ……」
「なっ、だから、ポーションはその効果を見せるために飲ませただけで、恩にきる必要ないし、善意じゃなくて、僕の利益を考えてのことだから」
いい人なんてとんでもない。今だって嘘をついておかみさんをだましましたし。
いくら腹が立ったからって……。
「いいえ、ポーションより前。僕が道に倒れていたときに、大丈夫かと声をかけてくれたでしょう?本当に心配してくれているのが分かった」
あ、ああ、そういえば。でも、あれも、元はと言えば、私がバーヌにけっつまづいて上に倒れたからで……。




