獲物
「こんなものしか獲れなくて申し訳ありません、その、少し自分の腕を過信していました。どうやらまだ完全に体がもとに戻っていないみたいで、鍛え直さないと駄目みたいです……」
えーっと、右手には、ウサギくらいの大きさで黒い毛の丸まるとした猪みたいな形の獲物が2匹。
左手には、ラフランスみたいな形でリンゴのように赤い果物が10個ほど抱えられています。
私が泣いてたのって、1時間もないよね?その間にこれだけ食べるものを獲ってきたっていうの?すごいんですけど。街の外まで出て帰ってくる往復の時間も必要ですよね?
あれ?そういえば、バーヌの顔や体の汚れがきれいになってます。
「水浴びした?」
バーヌが夏場にホースの水をかけてやると喜んで遊んでいた姿を思い出します。あ、犬のバーヌの話です。
「ああすいません。途中で川に寄り道をしました。申しわけありません」
バーヌがはっとして耳を伏せました。
いや、可愛すぎるぅ。
怒ってないですよ。
「ちょうどよかった。服を買ったの。サイズ合わなければ、交換してくるから来てみて」
さっきかったシャツとズボンを差し出すと、耳がピーンと立ち上がりました。
か、可愛いぃぃ。
「ご主人様……」
頬が紅潮しています。
ふわっ。ちょ、なんかイケメンの紅潮顔って、フェロモンとか発する機能でもあるんでしょうか。
「今すぐご主人様を抱きしめたい……」
ん?小さな声でバーヌが何かを言いました。何でしょう?
「何?」
「いえ、すぐに着替えてきます。ここにこのままいると、理性が……」
理性?
バーヌは路地に入って服を着てすぐに戻ってきました。
「ごめんね、もうちょっとカッコいい服を着せてあげられなくて……」
せっかくのイケメンなのに勿体ない感じになってしまいました。
「今まで着た服の中で一番気に入っています」
にこっとバーヌが笑います。
「ご主人様からの初めてのプレゼンt……」
また、ご主人様って言いましたね?バーヌのほっぺをぎゅっと引っ張ります。
「で、これ、どうやって食べるの?」
果物のほうはそのまま食べられそうですけど、……まさか、生肉齧るとかないですよね?
「これは食べずに売ります。いえ、調理済みの食べ物と交換してもらいます。そうですね、あそこに行ってみましょう」
きょろきょろと何か探すしぐさをしたかと思うと、獲物を持ったままバーヌは通りの奥へと歩いて行きました。
慌てて後を追いかけます。
バーヌは1件の食堂へと入っていきました。
「すいません、ヌルク2匹とリリラの実を買い取っていただけませんか?お代は、2人分の食事と銅貨でください」
店の奥から恰幅のいい女性が出てきました。おかみさんかな?
「【鑑定】」
待っているだけでは退屈なので、おかみさんを鑑定します。
だいたい食べなくてもこれで料理の味が分かるんですよね。あと、料理の料金も。私一人なら、入る前に確かめるんですけど、もうバーヌは入っちゃったしなぁ。




