凶器!
「あ……。そうだバーヌもお腹すいてない?何か食べようか」
もう、いろいろあきらめることにします。
「すぐに何か取ってきます」
え?取ってくる?買ってくるんじゃなくて?
お金持ってないよね?えっと、まさか取ってくるんじゃなくて、盗ってくる?
「バーヌ、待って、ちょっと!」
ああ、なんか、ドッグランに連れて行ったバーヌのように一目散に走っていっちゃっいました。
「ユーキは街の中にいてください」
ええ?街の中に?バーヌは街の外に行くってこと?
「僕がユーキを養います」
バーヌが振り返った。
振り返って私のこと見るしぐさまでバーヌみたい……。
は、ははは……。
思わず涙がポロリと落ちました。
なんか、成り行きで奴隷を持つとか意味が分かんないんですけど、異世界に一人放り出されて……。
バーヌ。
バーヌ。
2年前亡くなったバーヌの生まれ変わりに会えましたよ。
違うのかな?もし違ったとしても、きっと、バーヌが私のために出会わせてくれたんですよね?だって、ずっと張りつめていた心がふわりとほどけたんです。
泣けなかったのに、私、泣いてる。
ああ、やっぱり一人でずっと妹を探して旅するの不安だったんです。もし、倒れても誰も助けてくれる人がいません。
……ううん、違う。違う。妹が見つからなかったらどうしようとか、このままずっと一人で生きて行かなくちゃいけないのかなとか、鑑定で調べればいろいろなことは分かるけれど、それでもやっぱりこの世界のことは全然分からなくて……。
奴隷なんていびつな関係です。
だけど、ちょっと嬉しいのも事実なんです。一緒に行動できる誰かと出会えたことが……。
はぁー。さんざん泣いた。どれくらい泣いたのかな。ぐぅーっとお腹が再び悲鳴を上げている。
泣いてばかりはいられない。とりあえずぼろ雑巾よりひどい恰好していたから、バーヌの服を買おう。サイズは分からないけれど、ざっくりとしたサイズで売っている服なら問題ないだろう。男性用のLサイズのシャツとズボン。
「お待たせいたしました、ご主人しゃみゃ」
姿を現したバーヌの頬っぺたをつかんで伸ばします。
「敬語、それからユーキ」
「あ、はい、えっと話し方はその、ちょっとかたっ苦しい話し方がデフォルトなので、なかなか治せないかもしれませんが……えっと、ユーキ、戻ってきました」
うーん、見た目年上の人に敬語っぽいしゃべり方をされていると思うとむず痒いのですが、よく考えたら私って28歳ですし、バーヌが年下って可能性もあるんですよね。見た感じ30歳前後に見えますが、西洋風顔立ちですから、実年齢20代前半とかありそうです。
それに、獣人の成長スピードが分からないけれど、犬の寿命は人よりも短くて、大人になるのも早いから、実はまだ5歳とかそういう可能性だってないわけじゃないですよね……。
年下から敬語で話しかけられると考えれば、まぁ、それほど特殊なことじゃないでしょうか。
「えーっと、んじゃ、言葉は少しずつもうちょっと砕けてくれればいいから、えーっと、それ、とってきてくれたの?ありがとう」
お礼を言うと、バーヌが嬉しそうに笑って、尻尾が揺れます。
もう!その尻尾、凶器ですよっ。
もふりたくなるじゃないですか!
イケメンの笑顔ってだけでも胸きゅんものなのに、何なんですかっ!もう!




