◆バーヌサイド◆
い、生きてる。
驚いて、上半身を激しく起き上がらせる。
って、起き上がれる。
両手を見る。
手が動かせる。
目が、見える。
雑踏の音がうるさい。
耳が……。
そっと頭に手を持っていけば、失ったはずの耳がある。
顔、腕、首……肌がすべすべに戻っている。焼けただれた跡も、切られた傷跡も鞭うたれた跡も、引きちぎられた指さえも元通りだ。
病で曲がった骨も、折れた骨も……すべて治っている。
匂いが。
自分の変化に驚いていると、彼女の匂いが鼻に届く。
目の前には「少年」の姿をした彼女。
匂いは大人の女性なのに、不思議と「少年」」の形をしている。
迷いはなかった。
奴隷ではなく、僕を人として扱ってくれた彼女だけれど……。
彼女の奴隷になりたいと、心からそう思った。
どうせ、奴隷であり続けなければならないなら、ほかの誰でもない、彼女のものになりたい。
すぐに彼女の前に跪いて、願う。
どうか、僕を、あなたのものにしてください……と。
彼女からは、驚きと戸惑いの香り。それから……どうしようもなく愛しいという香りもしてきた。
ああ、彼女に僕は好かれている。
愛しくて愛しくて仕方がないと、香りは告げているのに、彼女は僕を奴隷にしてくれない。
否定しても、否定しても、香りは嘘をつけないのに。
バーヌって呼ぶよと言われた。
バーヌ……それが僕の新しい名前。
嬉しい。
三回回ってワンとは何だろう。
あなたが望むなら、僕は何だってする。
僕を奴隷にしてくれるならば、何だって。
僕の願いは、あなたの奴隷になること。
ああ、願わくば、その愛しいという感情に、少しでも発情の匂いが混ざりますように。




