耳の引力
「だめ、無理だよ、その、ボクはまだ子供だし、お金もないし、えっと、奴隷を養えないから」
「大丈夫です、自分の食い扶持くらい自分で稼ぎます。いえ、ご主人様を僕が養います。奴隷ですから、食べ物を持ってこいと命令していただければいいのです!」
め、命令……。
「あー、そ、それに、ボクはえっと、旅をしなくちゃならないし」
「大丈夫です。病になって、体の自由が利かなくなり、いろいろな事情が重なって奴隷落ちしてしまう前までは、冒険者をしてたので、旅には慣れています。護衛としても役に立つと思います」
護衛?
もしかして、1か月に1回の乗合馬車に乗らなくても次の街に移動できるようになるのでしょうか?
もしそうなら……馬車代の節約にもなりますし、妹を探しやすく……。
「守れと命令してくだされば」
うう、命令……。
ダメダメ、やっぱり奴隷なんて無理です。命令とか、そんなの……人としておかしいです。同じ人なのにっ。
「このまま僕を見殺しにする気ですか?」
もうっ、小首を傾げないでください!
頭なでちゃいますよっ!
「ほかにも人がいっぱいいるんですから、別の人に頼めばいい……」
くるりと背を向けてダッシュ。
駄目、むりぃー。私にご主人様とか、むりぃー。逃げます。逃げます。
って、無理でしたー!
逃げるのが無理でしたー。
私の脚力じゃ逃げきれませんでした。先回りされて、また道をふさぐように膝をついて待っていますっ。
「お願いします。ひどい扱いをするご主人様の元で働きたくありません。それに、命を救っていただいたご恩返しもしたいのです」
ひどいご主人様というところで、ちょっと胸がずきりとする。
で、でも、駄目駄目。。
「いや、本当、恩返しなんていいし、えーっと、ボク、鑑定魔法が使えるから、いいひと探してあげる。そうだ、ジョーンさんもいいひとだよ?」
膝をつき、私よりも頭2つ分低い位置から見上げる破棄奴隷。
視線は耳に釘付けです。
ずいぶん薄汚れた金の髪に白かったはずの肌。汚れているのに、めちゃくてゃイケメンすぎて輝いて見えるけど、そんな顔よりも耳が……。
耳がぁ!魅力的すぎて……。
ちょこちょこと、時々何か警戒するように動きます。ああ、私が何か話をしたときにもぴくんと動きます。
うううー。
触りたい。もふりたい。
いや、だめだめ。
「僕は、ご主人様がいいです。お願いです。僕を奴隷にしてください」
だから、無理ですよ、命令とかしたくないですし、奴隷を持つなんて人として終わってる感じがして、なんか、絶対無理なんですっ!
どうしたら諦めてくれるんでしょう。意地悪なことを言えばいいのかな?
「無理だったら無理、僕の奴隷になんかなったら、バーヌって呼ぶよ?」
びしっと意地悪を言ってみます。
「かまいません」
なんでっ、犬扱いなんですよ?勝手に名前つけられちゃうんですよ?嫌でしょ?嫌だよね?!
しかもバーヌの名前の由来は、バウって鳴く犬、縮めてバーヌなんですよっ!犬の中の犬の名前なんですよっ!
うぐぐ、まるっきり嫌そうな顔をしません。むしろ、すごくうれしそうな顔。
ああ、なぜ?
そうか、よく考えたらバーヌのこと知りませんでしたね……。
仕方がありません、もっと意地悪なことを言います。




