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勇者を追って

「あの、王様に取り次いで頂きたいのですが」


 話は悠真とアリスが別れた日に遡る。アリスは悠真と別れた後、ヴォルツの城の前で番をしている兵士に話しかけていた。

「失礼ですが、あなたは?」

 兵士がいつも通り仕事をする。城に入る者の身分は必ず確認しなければならない。

「わたしはアリス・アングレームと申します」

 アリスは身分を証明するプレートを兵士に差し出す。

 兵士はプレートを確認し、名前を確認すると畏まった。

「これは、失礼しました。どうぞお通りください」


 アリスは城に入り、案内の兵士に謁見の間まで連れられる。

「ここでしばらくお待ちください」

「はい」

 アリスは兵士の言う通り、謁見の間に入り、王様が座るであろう玉座の前で待っていた。

 程なくヴォルツ国の王様が来て玉座に座る。いかにも王様という格好で、王冠はしていないものの、立派なマントを羽織っており、いかにもな白い髭が生えている。顔にはいくつも皺が刻まれているが、優しい目をしており穏やかな顔立ちだ。現代でいうと還暦ほどの年齢だろうか。


「よく来たな、アリス。元気だったか?」

 孫を見るような優しい目でアリスを見る。

「はい、突然訪ねて申し訳ありません」

 アリスが跪き、答えた。

「良い良い、普通にしておれ」

「はい」

 促され、アリスが立ち上がった。


「父上、母上は息災か?」

「それが……。本日はそのことでお伺いしました」

 アリスは顔を曇らせた。

「ほう」

 ヴォルツ国王はアリスが続きを話すのを待った。

「このままではウィベックが滅びてしまいます!」

 アリスが身体を震わせ、言葉を詰まらせた。

「なにがあったのかね?」

 ヴォルツ国王は慎重にアリスに尋ね、アリスが続きを話すのを辛抱強く待った。


「大臣が国の乗っ取りを計画しています。あろうことか国に魔族を引き入れて、計画実行の機会を狙っているんです。お父様とお母様は魔族に操られしまっています」

「それはまことか!」

 ヴォルツ国王は身を乗り出した。

「ええ、『予知』ではっきりと見ました」

「其方のスキルであれば間違いないな……」

 アリスは「予知」のスキルを持っていた。極めてレアなスキルでこのスキルを持っていることが知れると良からぬ連中が利用するためにアリスを狙ってくるだろう。アリスはこのスキルを持っているため、人一倍スキルを他人に知られることについては敏感だった。


「わたしの予知は全てを見れる訳ではなく、予知夢としてたまに断片的な映像を見るだけのものですが、それでもハッキリと王族全てが殺される映像を見ました。……もちろんわたしも」

「ぬう」

 ヴォルツ国王の額に一筋の汗が流れた。


「魔族を相手に戦える兵士は我が国にはいない。ギルドに協力を募るか」

「いけません。実はここに来るまでの間、数人の追っ手がわたしの命を狙ってきました。そして、おそらくその追っ手を差し向けたのは……」

 アリスは言葉を詰まらせたが、ヴォルツ国王は辛抱強く続きをまった。

「お父様です。父様は大臣は操られてしまって人が変わったようでした」

 アリスは俯き、目に貯めた涙が落ちるのを堪えていた。

「ヴォルツが国としてギルドに協力を募り、戦力を差し向ければ今のお父様は容赦無くヴォルツに攻撃を仕掛けるでしょう。そうなれば戦争になってしまいます!」

「うむむ……」

 ヴォルツ国王は考え込んだ。


「だが、儂に助けを求めてこの国に来たではないのかね?」

「はい、この国に勇者様が滞在しているとお聞きしました。勇者様にお会いすることはできないかと」

「『勇者』か……」

 ヴォルツ国王は苦い顔をして続けた。心なしか「勇者」という言葉がどこか皮肉のように聞こえる。

「確かに滞在しておったが、ちょうど先日、ここから南の国に向かうと出ていったよ。入れ違いでウィベックに行ったのかも知れん」

「そ、そうですか……。では急いで戻らねば」

「だが、あの勇者には期待せんほうが良い。別の方法を探すべきだ」

 ヴォルツ国王の声にはかすかな怒りの色がこもっていた。

「なぜですか……?」

 アリスが目を見開き問う。

「あの男は勇者であることを笠に着てこの国で傍若無人に振舞っておった。儂も直接会ったがとても頼みを聞いてくれるような人物とは思えん」

 アリスは少しの間思案した。

「しかし、勇者様には変わりないはずです。ちょうどウィベックに向かっているなら追いかけて説得してみます!」

「う、うむ……。だが、護衛はつけた方がよかろう。大人数は目立つということならせめてギルドで2、3人募ろうではないか」

「いえ、ギルドの募集を待っていたら勇者様に追いつけなくなってしまいます。心配してくださりありがとうございます。でも、わたしも旅の心得はあります!幼い頃からお父様に連れられ何度もこの国を訪れたのをお忘れですか?」

 アリスは悪戯っぽく笑ったが、無理しているのがわかる、力のない笑顔だった。

「うむ……。言い出したら聞かん頑固なところは父上そっくりだな」

 ヴォルツ国王は言葉を切って続けた。

「だが、ギルドの募集はする。後からでも護衛には追ってもらうこととする」

「わかりました。ご配慮感謝致します」


「いくら急いでいるといっても、ここには着いたばかりであろう?旅の準備も必要だ、今日はここでゆっくり休んで、明日立つことにしなさい」

「そうですね、そうさせていただきます」


 アリスが謁見の間を出た後、ヴォルツ国王は思案していた。

(しかし、魔族とは……。あの勇者が使命を果たすとは限らん以上、なんとか手を考えねばならんか)


 アリスは案内された部屋のベッドに座っていた。

「ふう……」

 自国から長旅をしていたアリスに取って、久しぶりの休息だった。

(早く戻って国を取り戻さないと……)

 アリスはベッドに倒れ込んだ。

(ユーマさん、どうしてるだろう。あのヴァンとも互角に戦っていた。あの人に助けて貰えたら……。でも、彼にも事情があるようだし、こんなことに巻き込めない……)

 そこでアリスは何かに気づいて勢いよく身体を起こした。

「ヴァン!森の主を差し向けたとはいえ、絶対に死んでないわ。鉢合わせしないようにしないとわたし一人ではとても太刀打ちできない。ヴァンはこの国でも要注意人物に指定されているはずだから市街にまでは入ってこれないはずだけど……」


 翌日、アリスは兵士から旅の備えが入った鞄を渡された。

「一通りのものは揃えておいた。門の外には馬も用意させてある。くれぐれも無茶はするんじゃないぞ」

 ヴォルツ国王が言った。

「ありがとうございます。このご恩は必ずお返しします」

「其方が無事に帰って来れば良い」

 アリスは一礼して来た道を戻った。


 アリスは街を出る前に一度、振り返り街を見渡した。

(いないか……)

 アリスは無意識に悠真を探してしまっていたが、アリスの目が悠真を捉えることはなかった。


「王様の言いつけ通り、城で所持している中でも足の速い馬を用意しておきました」

「ありがとうございます」

 アリスは馬の手綱を受け取り、馬に跨った。

(必ず勇者様に追いついて国を救ってみせる……!)

 アリスは決意を元に馬を走らせた。

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