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楽して帰れる方法ないの?

「よーし、結構貯まったな」

 悠真は皮袋の財布の中身を見てにやけていた。中には小型金貨が5枚入っている。


 ギルドで冒険者登録を済ませた日、悠真はそのまま依頼を受けることにしていた。

「これ、受注したいんだけど」

 受付嬢に紙を渡す悠真。

「はい、ゴブリンを3体討伐の依頼ですね。こちらはポイントが貯まらない依頼になりますが、良いでしょうか?難易度の割には報酬は高いですが」

「うん、問題ないよ」

 悠真は難易度が低く、報酬が比較的高い依頼をあえて選択していた。金策はそこそこに早く情報収集して元の世界に帰りたかったのだ。

「では、よろしくお願いします」

 受付嬢は悠真の依頼受注を受理した。


 そして2日後、同じようなクエストを受け続けた悠真の所持金は小型金貨5枚となっていた。

「よし、これだけあれば当分宿に泊まれるな。これで情報収集に集中できる」


 悠真はギルドの酒場で聞き込みを開始していた。相席になった冒険者たちに話を聞いて回る。

「なあ、変なこと聞くようだけど、別の世界から来たっていうやつを知ってたりしないか?」

「いや?知らないなあ」

 相席の男が答える。

「わたしも知らないわねえ。別の世界なんて聞いたことないわ」

 別の女が答える。


「うーん、収穫なしか」

 数時間後、悠真は酒を飲みながら考え込んでいた。

(神様はなにか知っている様子だった。教会のシスターに聞いてみるか?)


 悠真は考え事に集中し、周りが見えていなかったが、背後に男が立っていた。

「よう、ユーマじゃないか」

 クラウスだった。悠真の肩にポンっと手を置き、隣に座る。

「あ、クラウスか」

「どうしたんだ?なにか考え事か?」

「ああ、クラウスは別の世界から来たってやつを聞いたことあるか?」

「いや?だけど、別の世界に行く方法ってのがあると、噂に聞いたことあるな」

「えっ!?ほんとか?」

「ああ……。城にいるような連中はもしかしたらなにか知ってるかもしれないぜ。王様の所には情報が国中の情報が集まるからな」

「城か……。王様にはどうすれば謁見できるんだろう」

 クラウスはニヤリと笑った。

「最近、街を襲ってきた大型の魔物を倒してな、近々王から直接褒美をもらえることになっている。おれの頼みを聞いてくれたら連れていってやるぜ?」

「ほんとか?頼みってなんだよ?」

「おれの宝を取り戻すのを手伝って欲しい」

 普段真面目な態度を取らないクラウスが、急に真剣な目になり、悠真の方を見た。

「宝?取り戻すって、誰かに取られたのか?」

「ああ、『勇者』だ。あいつに持っていかれちまった」

「ええ?勇者が泥棒するのか?」

(ああ、まあゲームの中では割としてたな。タンス漁ったりとか)

 悠真の頭の中には国民的RPGの絵が浮かんでいた。

「やつは勇者の冒険に必要だとか言っておれの宝を無理やり奪っていっちまいやがった。抵抗したが、おれもさすがに勇者には勝てなかったよ」

(宿屋の亭主が勇者が探し物してるとか言ってたっけ。まさかクラウスが持ってたものなのか?)

「クラウスでも勝てないのか」

「ああ、だがお前とおれで二人でかかれば勇者を倒せるんじゃないかと思ってな」

 クラウスは悪戯な笑みを浮かべ、悠真の方を見た。

「ええー、いや勇者倒すなんて無理だろ……。それにおれはこの世界を旅するつもりはないぞ。早く帰りたいんだ」

「帰るって、故郷はどこなんだよ?」

「ああ、いや。まあそれは置いといて、王様に会うだけにしてはめんどくさすぎる。ちょっと考えさせくれ」

「わかったよ。気が向いたら声をかけてくれ。王様に会うのは3日後だ」

 クラウスはやれやれといった様子で、席を立つ。

(うーん、どうしよう……)

 悠真はまた考え込んでしまった。


 次の日、悠真はさらに聞き込みを進めていたが全て空振りだった。教会、ギルド、露天商など歩き回ったが、誰も別世界についての情報を知っているものはいなかった。

(うーん、こうなったら考え方を変えてみるか)

 悠真は集める情報を「別世界の情報」から「王様への謁見方法」に変えることにした。


「ここの国の王様に謁見にするにはどうすればいいかな?」

 悠真はギルドの受付嬢に話していた。悠真が最初に登録する際に手続きをした受付嬢だ。名前はカミラというらしい。

「うーん、ある程度の身分がないと直接お会いするのは難しいでしょうね。旅人からの情報は貴重なので国としては情報収集として旅人に会って情報を受け取る門は開いていますが、王様が直接出てくることはないはずです」

「身分か、B級以上とかでもだめなの?」

「ここの王様は謁見するためにクラスで判断していません。例えば街を守ったとかの具体的な功績に対して、直接褒賞が貰えたりすることはありますが」

(クラウスが言ってたやつだな。だけど条件が曖昧で少し厳しいな)

「うーん、なにかこう、これをしたら会える!っていう具体的な方法ない?」

「そう言われましても……」

 カミラは上を向いて少し考えた。

「あ、国に大型金貨100枚寄付すれば王様から直接表彰されるそうですよ」

「……無理でしょそれは」

 悠真はがっくりと肩を落とした。この世界で大型金貨100枚分となると、日本円にして1000万円以上の価値となる。

「ユーマさんなら、クラスを上げて難易度の高い依頼を受けていけば1年もかからないと思いますけど……」

「いや、めんどくさいからやめとくよ」

(1年かけて王様に会って大した情報持ってなかったら泣いちゃう)


 悠真は宿の部屋に戻り、ベッドに横たわっていた。

(おれは手っ取り早く帰る方法を探したいんだよなー。めんどくさいのは嫌だし、なるべくなら時間もかけたくない)

 悠真は無意識のうちに「楽して帰る方法」を探していた。王様に会えても勇者を探して長旅をするのはごめんだし、ましてや勇者を倒すなんてめんどくさいことに巻き込まれるのは絶対に避けたかったのだ。1000万貯めるなんてもっての外だ。


「あー、早く毎日定時で仕事を終わって帰って漫画読んだりゲームしたりする単調な生活に戻りたい」

 悠真は、自分に授けられた異世界のスキルを使って無双することや、異世界の生活を楽しんだりすることに対して欲がなかった。多少、美人が多いことについては内心喜んでいたが。基本的にめんどくさがりの悠真にとっては単調で変わり映えしない生活こそが理想だったのだ。


(よし、クラウスの提案は断ろう。やっぱりめんどくさすぎる)

 悠真はそう心に決め、そのまま眠りについた。


 二日後、悠真はギルドの酒場にいた。そこへクラウスがやってくる。

「明日が王様への謁見の日だけど、結局どうすんだ?」

「やめとくよ、おれはもう少し街で情報を探ってみる」

 クラウスの顔が少し暗くなったが、その後すぐにいつもの軽そうな笑顔に戻った。

「そっか、残念だな!あんたとならうまくやれそうな気がしたんだけどな」

「悪いな」

 悠真は少し罪悪感を覚えながらも、クラウスに謝った。

「気にするな、じゃあな」

「ああ」

 そうしてクラウスはギルドを出ていった。


「さて、もうしばらく街で聞き込みしてみるか」

 めんどくさがりだが、楽して帰る方法を探す努力は惜しまない、どこか矛盾のある悠真だった。

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