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情報、そしてお金を求めて

 悠真が教会を出る頃には日が落ち始めていた。

「そろそろ宿を探さないとまずいかな」

 悠真は空を見上げて言った。


 宿を探して道を歩いているところ、一人の少女が悠真の腕を横から引っ張った。

「お兄さん旅の人?宿探してるならうちにおいでよ」

「お、こんな小さい子でも客引きをしてるんだ」

 茶髪の可愛らしい子で、歳は10〜12歳だろうか。と悠真は思った。

「失礼な!わたしはもう13よ!」

「ごめんごめん。ちょうど宿を探してたんだ、案内してくれない?」

 悠真は苦笑し、少女に謝罪をした。

「いいわ、こっちよ」

 少女に連れられて悠真は道を歩いた。


「ここよ」

 宿はそれほど立派ではないが、素朴で手入れの行き届いた建物だった。

「良いところじゃん」

 悠真は感心した様子だ。

「当たり前よ!」

 少女は自慢げにふんぞり返った。


 宿に入ると大きな男がカウンターで悠真を出迎えた。

「いらっしゃい」

「ただいま!」

 少女が元気よく言う。

「おう、お客さん連れてきてくれたのか」

「お世話になります。一泊いくらですか?」

「1泊大型銀貨2枚、食事付きだ」

「それじゃあとりあえず2泊分お願いできますか?」

「毎度あり。食事を取りたければもうすぐ用意できるから食堂で待っててくれ」

「わかりました」


(アリスと素材の売れたお金を分けたけど、残りのお金が心もとない。明日ギルドに行ってみるか)

 悠真は大型銀貨を入れた袋を見て、考えていた。

「おまちどおさん」

 亭主が食事を運んできた。

 パンに塩漬けの肉、それにスープだ。

(食事はやっぱりこんなもんか)

 悠真は何となく街の雰囲気から食事内容を察していた。現代日本のような食事を取るのは少なくともこの街では無理そうだと感じた。


「あ、親父さん、一つ変な質問をしてもいい?」

「なんだ?」

「別の世界から来たという人を知らない?」

「別の世界?そんなの聞いたことねえよ」

 亭主は眉をひそめて答えた。

(やっぱりそう簡単にはいかないな)

 悠真は元の世界に帰るのは簡単じゃないことに薄々感づいていた。


「あ、そうだ、もう一つ」

 悠真はスープを一口飲み、あまり興味が無いような素ぶりで質問した。

「この街に勇者がいるって本当なの?」

 亭主が苦い顔をする。

「あー、ちょっと前までいたよ。大きな声では言えねえが、いなくなって清々したね」

 悠真が首を傾げた。

「ん?勇者なのに?」

「勇者だかなんだか知んねえが、態度がすげえ悪いんだよ。なんだか探し物してるみたいで、知らないと言ってるのにしつこく街の住人に聞いて回ってやがった。ギルドにいた冒険者なんか何人か殴られたらしいぜ」

「それはひどいな……。そんなやつが何で勇者なんだ?」

「よく知らないが、国王様に勇者だと証明して見せたようで、どうやら本物らしいんだ」

(そもそもこの世界の勇者はどんな使命があるんだろ)

 悠真は少し疑問を抱いたが、あまり自分とは関係ないと思い直し、考えるのをやめた。それより、勇者を探しているアリスのことが気にかかった。

(そんな様子じゃ、アリスの頼みを聞いてくれるようなやつじゃなさそうだな……)


「そう言えば、明日ギルドに行こうと思ってるんだけど、ギルドってどこにあるのかな?」

「それなら、教会を超えた先の方、お城寄りの方だな」

「わかった、ありがとう」

「ああ、ごゆっくり」


 部屋に入りベッドに寝転がりながら悠真は考えていた。

(アリスは勇者を追ってまた旅をするのだろうか。国を救いたいと言っていたけど……)

 勢い良く体を起こし、吹っ切るように悠真が言う。

「やめやめ!おれはおれで帰る方法を探さないといけないんだ!」

 ベッドに倒れこむ悠真。

「しかし、こんなにちゃんとしたベッドで寝るなんて久しぶりな気がする」

 悠真はベッドで寝れる喜びを噛み締めながら眠りについた。


 翌朝、悠真はギルドに向かっていた。

(もっと情報を集めたいが、先立つものがないとベッドで寝ることも叶わなくなる)


 ギルドの建物はとても立派な建物で街の中でも大きな存在感を放っていた。

「うおー、なんか入りづらいな」

 立派な門構えに躊躇する悠真だったが、意を決して扉を開く。


 中は酒場も兼ねているようで、強面の戦士のような男やローブを纏って杖を持っているいかにも魔法使いのような風貌の女性など、様々な格好の人々が思い思いに酒を飲んだり食事を食べながら会話をしている。中には酔っ払ってかなり大きい声で喋っている男もいる。

(うおお、怖っ)

 小心者の悠真は絡まれないようことを祈り、そろりとカウンターまで向かった。


「おお、何だ!えらい優男だな!そんなんで依頼を受注できるのか!?」

 悠真がカウンターに向かっている間に男がテーブルの席から叫んだ。

(案の定絡まれてしまった)

 悠真は顔を引きつらせた。しかし返事もせず、歩みを止めることなくテーブルに向かっていく。悠真はこの手の酔っ払いを相手にするとキリがないと思っていた。関わらず無視をしておけばその内飽きるだろうと思っていたのだ。


 カウンターには3人の受付嬢がいた。悠真はそのうちの一人に話しかけた。

「あの……」

 悠真が受付嬢に話しかけた瞬間、男の叫び声が聞こえてくる。

「おいー!無視すんなよー!」

 受付嬢が悠真に困った顔で話しかける。

「ごめんなさい、今日は大型の魔物を討伐できたとかで、ちょっとお酒が多く入ってるみたいで」

「いや、気にしてないよ」

 悠真が答える。

(ほんとは早く何とかしてほしい)

 悠真の額に冷や汗が流れた。


「おらっ!無視すんなって言ってんだろ!」

 男が悠真の肩をぐいっと引っ張る。スキンヘッドで筋肉質の大男だ。悠真より頭二つ分ほど背が高い。

「ちょっ、やめてくださいハインツさん!」

 受付嬢がカウンターの向こうで止めようとするが、男はなおも悠真に絡む。

「お前のようなヒョロガキが来るようなところじゃないんだよ!」

(ガキって、こう見えても26歳なんだけどな。まあいいけど)

 もともと童顔の悠真は若く見られることには慣れていた。

「ごめんなさい、何か失礼があったらなら謝ります」

 魔物を倒すことには慣れたとはいえ、喧嘩慣れしていない悠真は男の迫力に押され、穏便に事を済まそうと取り繕った。


「うっせえよ」

 男が酒瓶を悠真の頭に振り下ろす。

「キャー」

 受付嬢が思わず顔をそらす。

「うわっ」

 悠真は怖気付きながらも男の動きを目で捉えた。スキル『身体能力常時10倍』のおかげで動体視力も上がっていたのだ。

 悠真は男の振り下ろしを、後ろに軽く飛びのいて躱した。


「なにぃ!?」

 男が驚いて悠真の方を睨みつける。

「ちょ、やめてくださいよ。そんなの当たったら死んじゃいますって」

 悠真は慌てて手を前にかざして男を説得する。

「て、てめえー」

 男は攻撃を躱された動揺でさらに興奮して酒瓶を悠真に向かって投げつけるが、悠真は難なくそれを躱す。

「クソがー!」

 男が悠真目がけて走り出し、その勢いで殴りかかった。

 悠真が男のパンチを躱しながら叫ぶ。

「もう、やめろって言ってるだろ!」

 男の攻撃を躱した悠真がそのまま男の腹を殴ると、男は吹っ飛んでテーブルに突っ込んでいった。するとさっきまで喧騒に包まれていたギルド内は急に静かになった。

(あ、やりすぎた……。10倍っていきなり言われても、力加減が難しいんだよな)


「何だ、優男がハインツを吹っ飛ばした」

「あの力、何者だよ」

「ハインツはB級冒険者だぞ」

 あたりがざわざわし始める。


「貴方、とっても強いんですね」

 受付嬢がポカンとして悠真をまじまじ見ていた。

「あ、ああ。そこそこね」

 悠真は苦笑いしていた。


「あんた、強いなー。ハインツを一撃とはね」

 若い男が拍手をしながら悠真に近寄ってきた。赤髪で、少しチャラそうな男だった。

「おれの名前はクラウスだ。よろしくな」

 クラウスが悠真に手を伸ばす。

「あ、ああ」

 悠真がクラウスの手を握り自己紹介する。

「おれはユーマ。よろしく」

「ユーマか。この街では見ない顔だな。旅人かい?」

「そんなところ。この街には昨日着いた」

「そうか、他の国ではさぞ名のある冒険者だったりするんじゃねえの?」

「冒険者ってのは、ギルドに登録した人の事を言うのか?」

「おいおい、まさかギルドは初めてか?」

 クラウスが顔を引きつらせる。

「ああ、そうだよ」

「まじかよ!そんなに強いのに今まで何してたんだ?」

 クラウスが大げさな身振りで驚いた。

「いや、まあちょっとな」

「まぁいいや、今から登録するんだろ?あんたおもしろそうだ。なにか困ったことがあったら言ってくれ、おれも旅の冒険者なんだ。おれで良ければ力になるぜ。おれはまだしばらくこの街を拠点にするつもりだからな」

「ああ、ありがとう助かるよ」

「じゃあな」

 そう言うとクラウスはギルドを出ていった。


「なんかフランクなやつだな……」

 悠真はクラウスが出ていったギルドの扉を見ながら呟いた。


「クラウスさんが女性以外にあんなに友好的に他の冒険者に話しかけるなんて珍しいですよ」

 カウンターの向こうの受付嬢が言う。

「ん?そうなの?彼は何者?」

「クラウスさんはハインツさんと同じ、B級冒険者なんですが、本当の実力はもっと上ではないかと噂されています。実際、前にクラウスさんもハインツさんに絡まれたことがあって、ハインツさんは倒されています」

「そうなんだ」

(悪いやつじゃなさそうだよな)

「そのB級冒険者ってのは?」

「あ、ここへは登録に来たのでしたね。では改めて説明します」


 受付嬢が冊子を出して説明し始めた。

「ギルドに登録した人は皆『冒険者』と呼ばれるようになります。冒険者にはランクがあり、初めはみなさんF級からとなります。これはクラスと呼ばれるのですが、クラスを上げる方法はそのクラスで受けれる依頼の中で難易度の高い依頼をいくつか成功させることです」

「『いくつか』ってのは?随分あいまいな基準なんだね」

「ああ、それはですね。難易度によって成功した時にポイントが付与されるのですが、そのポイントを超える必要があります。例えば、F級からE級に上がるには10ポイントが必要です。ただし難易度の低い依頼は0ポイントなので、いくらこなしてもクラスは上がりません。もちろん、難易度が低くても報酬は貰えますが」

「なるほど」

「もう一つ、依頼に失敗した場合はポイントは減少することになります。0を下回るとマイナスになり、マイナス10ポイントでライセンスが剥奪されるので気をつけてください」

 言葉をきって受付嬢は続けた。

「そして、ただポイントをためるだけではなく、そのクラスで受けれる難易度の中で最も難易度の高い依頼を少なくとも一つはこなしている必要があります。要約すると、次のクラスに行けるほどのポイントが貯まっていること、そのクラスの最も高い難易度の依頼を1つはこなしていること、この二つがクラスが上がる条件になります」

「なるほど、理解したよ」

(まあ、元の世界に帰るまでの最低限の衣食住ができれば良いし、クラスを上げる必要はないか)


「冒険者のライセンスを発行しますが、このライセンスでできることを説明しますね」

「できること?」

「ええ、例えば冒険者ライセンスを見せないと通れない関所や、入れないエリアがこの世界にはいくつも存在します。そのため、冒険者しか入れない関所を通るために冒険者ライセンスを発行する商人などもいますよ」

「なるほど」

「また、クラスによって入れるエリアも異なります。E級で入れるエリアも、F級で入れない。ということもあります」

(うーん、必要次第ではクラスを上げることになりそうだ)


「また、クラスによって船や飛空船に乗る時の賃料が安くなりますね。クラスが高いほど割引額が多くなります。クラスの高さは信用の高さにもなるので、色々融通が効くことが多くなります。国によってはC級以下の冒険者は国王への謁見ができない、なんてこともあります」

「冒険者以外の人は謁見できないってこと?」

「いえ、冒険者以外であれば、それぞれの職業の実績を別の手段で見ると聞いています」

「ふむ」

「あ、信頼といえば、ポイントが下がることは依頼の失敗だけではありません。街の中で罪を犯したり、暴れたりなどして悪い行いをすればポイントが下がってしまいます」

「え、じゃあもしかしてさっきハインツってやつを殴ったおれはいきなりポイント下がってる?テーブルも壊しちゃったし……」

「いえ、あれはハインツさんから仕掛けられたので、ハインツさんのポイントが下がっています。彼は度々お酒に酔って暴れることがあったのですが、今の行いでさらに下がったので、おそらくC級に落とされるでしょう。テーブルの弁償もハインツさんがさせられます」

「よかった」

 悠真は安堵した。


「では、ライセンスはこちらになります。失くさないように気をつけてくださいね。依頼を受けるときはそこの掲示板に貼ってある依頼の紙を剝がして受付まで持ってきてください」

 受付嬢は酒場の壁際にある掲示板の方を見て言った。

「ああ、ありがとう」

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