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深海の街

 深海の底には人魚の住処がある。そこには喋る魚なんかもいて、色とりどりの魚と人魚の舞なんかが見れる。おとぎ話なんかでは定番だけれど、実際にそんな場所があるはずない。深海の底には実際は暗闇だけが浮かんでる。

 ——と思ってたんだけど、まさか自分がそんな場所に来ることになるとは。


 ここではまるで空気があるように過ごすことができる。ちっとも苦しくなんかない。移動は、ちょっとコツを掴むまで苦労するかもしれないけど。

 この辺り一帯は魔法の壁で囲まれてるらしく、この壁で囲まれてるおかげで悠真みたいにエラ呼吸をしない人間でも過ごすことができるのだという。

 同時に、危険な動物やモンスターも入って来れないようになっていた。


 人魚にはちゃんと家もある。不思議な素材でできた、雪が積もった時に作るあのかまくらのような半円形の家だ。

 不思議なことにここは全く暗くない。不思議な明かりがここら一帯を照らしている。これも魔法のおかげだろうか。


「ユーマ、もう動いて大丈夫なの?」

「ああ、ありがとう。もう大丈夫だよ」

 こんな風に水中なのに喋ることもできる。不思議。これもファンタジーの為せる技なのだろうか。魔法って便利。


 この可愛い人魚の名前はシーラといった。悠真が海上で力尽き、海底に落ちていくところをこのシーラが見つけて助けてくれたというわけだ。シーラは気を失っていた悠真に魔法をかけ、海中に適応させてこの深海の街に連れてきた。

 悠真はあれから三日間目を覚まさなかった。起きてからも二日は動けない状態が続いた。魔力が空っぽの状態で無理やり動いて『転送(テレポーテーション)』まで使ったツケが反動としてきていた。


 悠真は目を覚ましてから動けない間に、シーラからこの場所のことや、助けてもらった経緯などを聞いていた。

 が、実際にこの景色を見ると、圧巻の一言だった。今まで見てきたどの景色よりもファンタジーだった。この世界ではこの深海の街も認知されているのかとシーラに聞いたところ、一部の人間しか知らないとのことだった。

 ファンタジーな異世界の中でも、更にファンタジーな場所ということだ。


 それはさておき——「助けてもらって、何もお礼もできずに悪いんだけど、早く帰らないとおれの仲間が危ないんだ。また改めてお礼に来るよ」

「どうやって帰るの?」

「おれは『転送(テレポーテーション)』を使えるから」

「ダメだよ。ここは内側からも外側からも干渉できない街なの。外に向かって魔法で帰ることも、外からここに向かって魔法で入ってくることもできない」

 シーラが困った顔で言う。

「え、そうなの?」

 今度は悠真が困った顔をする番だった。さて、どうしよう。


「そうだ、来た時みたいにシーラに海の上まで送ってもらうことはできないかな?」

「いいけど、女王様の許可が必要かも。実はここにユーマを連れてきたこともまだ言ってないんだよね……」

 再び困った顔をするシーラ。

「何かまずいの?」

「外海から許可なく誰かを連れ込んではいけないの。でも二年前にも人間を連れ込んだ娘がいるし、たぶん大丈夫!」

 笑って誤魔化すシーラ。

 それなら先に言っといて欲しかった。今からでもこっちから挨拶に行った方が良さそう。


「じゃあとりあえずその女王様のところへ連れてってくれる?」

「そうだね。行こうか」


 街の奥に一際大きな建物がある。例えるならすごく大きな砂の城って感じ。その建物だけは円形ではなかった。

「ほら、こっちこっち」

「ちょ、ちょっと待って」

 シーラはスイスイ泳いで建物に向かっていく。悠真はまだ移動に慣れ始めたばかりでそこまで速く進むことができない。海中の動きは難しい。

 街にいる人魚や魚が不思議そうな顔をして悠真を見ている。この街に人間が訪れるのはとても珍しいことだった。無理もない、この街に辿り着くということは、生身で海の底に辿り着くのと同義なのだから。

 もしくは、悠真のように溺れて海に沈んでみるといいかもしれない。運が良ければ可愛い人魚に助けてもらって辿り着けるかも。


 建物に近付くとその大きさがよくわかった。海の底にどうやってこんな建物を建てることができるんだ。

 中に入ると、水の上下の流れで上の階に行けるようになっていた。水のエレベーターってところか。


 女王がいたのはだだっ広い部屋ともいえないフロアだった。椅子以外は何もない。窓はあるが、海中なのでもちろんガラスはハマっていない。

 女王、と言うだけあって、いや、言うだけあってというの変だが、女王はデカかった。普通の人魚のサイズではない——しかし、とんでもない美女。

 悠真は女王を見上げた。


「シーラ、そちらはお客さんですね」

 シーラが口を開ける前に、女王が口を開けた。

「は、はい! 海中で溺れていて、このままでは死んでしまうと思い、助けて連れてきてしまいました」

 シーラが緊張している。この穏やかな女王様は怒ると怖いんだろうか。

「悠真と言います。これまで挨拶に来ずにすみませんでした」

 できるだけ丁寧に言う。なんだかこっちも緊張してきた。

「ユーマさん。ようこそ人魚の国へ。あなたが海上に魔王を連れて現れた人間ね」

「なぜそれを!?」

「ふふ、この国は外の世界については敏感なんです」

 女王様はどうやら怒ってはいないようだった。安堵のため息が出る。

「あなたが心配している国はまだ無事のようですよ。あなたが魔王の腕を切ったことで、魔王は一度魔界に帰りました」

「ほんとですか!?」

「ええ」

 女王様がにっこり笑う。再び安堵のため息。今度はさっきより深いため息だった。


「次に魔王が攻めてくるまでになんとか地上に帰りたいんですが、おれを地上に送り届けてくれませんか?」

「そうですね……。こちらからもユーマさんに一つ頼みごとをしても良いなら」

 女王が悪戯な笑みを浮かべる。妖艶な女王。


 なんだかまた厄介なことに巻き込まれそうだけど、もうすでに魔王との戦いなんてものに巻き込まれてるんだからもうなんでもいいや。

悠真は三度、ため息を吐いた。今度のため息が安堵のものでないことは誰が見てもわかった。

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