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災厄の目覚め

 王都ヨキアから更に北に大きな山脈がある。

 極寒の地の更に極寒の山々。並みの人間ではとても立ち入ることのできない山の中に魔族たちの拠点があった。

 正確に言うなら、「拠点に通じる道」だ。それは魔界に繋がっており、更に言うとその道を通ってたどり着くのは魔界の五大魔王の一人ベルハルトの城だった。


 ベルハルトは五大魔王の中でも一番攻撃的な性格をしていた。人間の街など、力で押せばすぐ潰れるだろう。そんな考えでベルハルトはヨキアを攻め続けていたが、なかなか陥落せずに膠着状態に陥っていることに彼はイライラしていた。


 並みの街であればすでに陥落していてもおかしくなかったが、ヨキアは軍国の王都であり、エレーナという優秀な軍師がいた。

 魔法兵器の備えも十分、ギルドにもランクの高い冒険者が揃っている上に、兵士たちもそれに負けない手練ればかりだった。

 そんなヨキアを攻め落とすのは、いくら魔族であろうと簡単なことではなかった。


 しかし、ベルハルトにはそんなことは関係ないのだ。とにかくヨキアを落とせばこの大陸を攻める足がかりになる。とっととあの街を落として次々と人間を蹂躙したいが、もどかしくも部下たちは苦戦している様子だ。


「まったく、なんてザマだ! 人間の軍なんざ力で蹴散らせばいいだろう!」


 彼の部下たちはバツが悪そうに俯いていた。その様子が更に彼を苛立たせていた。


「……あの山は確かヤツが封印されていたな」

「まさか!? ベルハルト様、ヤツは我々でも制御しきれませんよ!」

「うるさい! 貴様らが間抜けだからヤツを起こすしかないんだろうが! ヤツの封印を解け!」


 彼の部下はベルハルトの剣幕に押されて、返事をした。


「わかりました……。ヤツを、"ヒュドラ"の封印を解きますよ」


 ****


「敵は五大魔王がうちの一人、ベルハルトだ」

 作戦会議室で、エレーナが悠真たちに説明をする。

 この街が相手にしてるのは五大魔王のうちの一人の魔王軍で、まだ姿を現していないが、いよいよとなると必ず魔王が直接攻めてくるだろうと言うことだった。


 なんか想像以上にヤバイ。魔族一人だけでも一国を滅ぼしかねなかったのに、それが何体もいて、その上魔王だって?

 流石に魔王なんて勇者以外勝てないんじゃ……。


「ベルハルトは魔王の中でも策を弄するタイプではなく、力で押してくる短気なタイプのようだ。無論、戦闘力はその辺の魔族の比ではないだろうな」


 悠真たちの顔に緊張が走る。

 まさか異世界で魔王と戦うことになるなんて。


 会議室には各部隊の隊長が集まっている。昨日ドラゴンたちを追い払ったのは魔法部隊という部隊だったようだ。

 しかし彼らも魔族の攻撃を食い止めるたびに犠牲を払っていて、かなり消耗している様子だった。


「どうやらヤツらは北の、この山脈あたりから来ているようなんだ」

 エレーナが地図を指しながら説明する。


「ここに軍を向かわせるのか?」


 クラウスの質問にエレーナが答える。

「いや、この山を登るのはかなり厳しい。魔族たちと戦う前に兵が消耗してしまって戦いどころではなくなってしまう」

「ではどうすれば……」

 続いてアリスが尋ねた。

「うむ、もうすぐ少数精鋭の調査部隊が帰ってくる。流石の魔族でもあの厳しい山に拠点を築くことはできないはずなんだ。必ずからくりがある」

「あの山ごと魔法兵器で破壊するってのはー?」

 フリーダの発想はなかなか暴力的だった。

「それはできない。あの山にはかつて魔王すら追い込んだと言われる魔物が封印されている」

「それは絶対ダメですね……。そいつを起こさないように静かに戦う方法を考えましょう」

 魔王だけでもお腹いっぱいなのに余計なやつまでわざわざ起こす必要はない。


「大変です!」

 不意に会議室の扉がバンと開き、何人かの兵隊が入ってきた。


「調査部隊だ。何があった?」

「"ヒュドラ"の封印が……解かれました!」

 調査部隊の一人が息も整わないまま、そう叫んだ途端、会議室の空気は一気に凍りついた。


「なんだって……!? どういうことだ! 順を追って説明しろ!」

 さすがのエレーナも少し取り乱しているようで、語気がかなり強くなっていた。


「はい……。まず、魔族たちがどうやってあの山に出現しているのかを確認しました。やつらは転送魔法のような魔法陣を山中に設置して、そこを通って来ていたようです。魔族たちの会話によると、それは魔界に繋がっているとか」

 魔界……そんなものまであるのか。


「やつらはその転送魔法陣からやってきて、ヒュドラの封印を解いてしまいました。止めようとしたのですが、我々では力不足で……」

 調査に特化した少数部隊だもんな。魔族と戦えっていうのは確かに無理がある。


「それで、ヒュドラは今どんな様子だ」

「封印が解けたばかりでまだ動きは鈍いですが、魔族の会話から、やつらはヒュドラをこの街にけしかける気です!」


「ふふ……面白くなってきたじゃないか。なあユーマよ?」

 エレーナの精一杯の強がりだ。昨日知り合ったばかりのおれでもそれぐらいはわかる。

「はは……どうしましょうね……」

 対するおれは、完全に顔が引きつっていた。冷静でいれるはずがない。魔王と同じぐらい強いんだよな?

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