勇者の真相2
「勇者ってそんな簡単に殺せるの……?」
悠真からかろうじて出てきた質問がそれだった。他の三人も驚きを隠せないようだった。
でも、なるほど。それで合点がいくことは多いな。なぜあんなやつが勇者なのか、神様が勇者を選定するというなら、もっと正義感があって、性格のいいやつを選ぶというイメージだったからな。
神様が選んだのではないなら、なるほど納得だ。
「もしかしてあの時の……」
フリーダはかつて奴隷だった時に、屋敷が魔物に襲われた際に助けてくれた中に、明らかに他とは違うオーラを放っていた人物を思い出した。あれが勇者だったのかも、とフリーダは思った。
「現勇者の……と呼ぶのも腹ただしいが、レイにはどうも何か隠されたスキルがあるように思う。いくら不意をついたとはいえ、そう簡単にリザリオ……あの前勇者が殺されるはずがないからな」
前勇者はリザリオというのか。なんだか口馴染みがいい名前だな。そんな名前の知り合いはいなかったはずだけど。
「確かにあいつの強さは尋常じゃなかったよな。ユーマの攻撃を受けて平然と立ち上がってやがった」
「ああ、おれと同じ身体強化系のスキルでも持ってるんじゃないかな。じゃないとあの頑丈さに説明がつかない」
結構全力で蹴ったんだけどな……。あいつはあいつで、何かに動揺していたように見えたけど。
「ほう……お前は身体強化系のスキルを持ってるのか?」
エレーナが嬉しそうにニヤリと笑った。
なんだか嫌な予感しかしない。正直に言うとまためんどくさいことになるな、これは。
「ユーマは『身体能力常時10倍』のスキルを持ってるんですよ!」
うおおい!! いらんことを言うんじゃないアリス! なんか誇らしげにしてるし!
「なにっ!?」
「ええーーっ!!」
エレーナの反応は予想できたけど、そういえばフリーダにも言ってなかったっけ。
「まさかと思って部屋に招いたが、まさかそれほどとはな……」
ん? 『まさか』ってどういうことだろ。
っていうか後ろでフリーダが「すごいすごい!」と叫びながら身体を揺すってくるんだけど。
落ち着いて話せない……。
「そういえば、なぜわたしたちの話を聞いてくれる気になったのですか?」
ナイスだアリス! そう! それが聞きたかった。
その質問をした瞬間、エレーナの雰囲気が変わったのがわかった。今までは自信たっぷりで揺らがない態度だったけど、その質問をした一瞬は、なんだか神妙な雰囲気になった。
「その剣はどこで手に入れたんだ……?」
エレーナは質問に答えず、代わりに悠真にそう質問をした。
——この剣、現勇者のレイもなんだか気にしてたよな。一体この剣に何があるっていうんだ?
「いや、気付いたら持ってたとしか言いようがないんですよね……」
本当だ。気付いたら収納に入ってたんだ。それ以外言いようがない。
「どういうことだ? お前はその剣を扱えるのか?」
矢継ぎ早に質問をされる。なんだか、ごまかしたり冗談を言うような雰囲気ではなさそうだ。
「いや、収納ってスキルを持ってるんですけど、なんか最初からそこに入ってたっていうか……。剣はまあ普通に使えます」
「ふむ……」
エレーナはしばらく俯いて考え込んでから、顔をあげて話を続けた。
「その剣は『光剣術』というスキルがないと使えないはずだが……」
「ああ、なんかいつの間にかそのスキル持ってました。最初はなかったんですけど……」
「どういうことだ……」
エレーナが部屋の中をウロウロしながらブツブツと何かを呟いてる。うーん、一体この剣に何があるっていうんだ。
「あの……」
声をかけても反応しない。ずっとブツブツ言ってる。どうしよう……。
「おい! 一体その剣に何があるっていうんだ?」
クラウスが耐えかねてエレーナに尋ねた。おれはこういう時つい気後れしちゃうんだよな。元来おれは気弱なんだよ。
「ああ! すまない。つい考え込んでしまった。わたしの悪い癖だな」
ようやくエレーナが反応してくれた。
「その剣はな、元々は勇者が使っていた剣なんだ。勇者といっても、前勇者の方だぞ」
「え、勇者が……?」
なんでそんなものがおれの手元にあるんだ?
「あれ? 見たことある剣だなと思ってたけど、確かに屋敷に助けてくれた人が持ってた剣だ!」
じゃあやっぱりあの人が勇者だったのかな? とフリーダは思った。
「確か屋敷が魔物に襲われて助けてくれた時に、今の勇者のレイと一緒に何人かいたって言ってましたね」
「そうそうー! あ、そういえば、エレーナもいたよ!」
——! なるほど。フリーダの屋敷を助けたのはそのときの勇者一行ってことか!
「ん? どういうことだ?」
フリーダがエレーナに事情を説明する——。
「なるほど、あの時の……。しかしすまんな、君の弟がどうなったかわたしもわからんのだ」
「なんで!? 助けてくれたんでしょ?」
いつも陽気なフリーダが感情的になる。無理もない。
「わたしはあの魔物に深くを取ってしまってな。しばらく離脱していたのだ。救助者の行方を知ってるのは前勇者のリザリオと、レイだけだ」
「そんな……」
「フリーダ……」
ガックリと肩を落としたフリーダをアリスが慰める。こういう時、なんて声をかけたらいいんだろうな。
「じゃあ、ユーマが前勇者と同じ持ち物を持っていたから興味を持ったってことか?」
クラウスが話を戻す。
まあ確かになんでおれが勇者のものを持ってるのかは気になるな。
「それもあるが……ユーマといったか? お前、リザリオの親族とかではないのか?」
——? どういうことだ?
「いや、そんな名前の人は親族にいませんけど……」
だいたい、異世界に親族なんていないし。
「顔が似てるという訳ではないんだが……なんていうか、立ち居振る舞いとか雰囲気がすごく似てるんだよ」
「ユーマが……ですか?」
アリスが悠真の顔をまじまじと見る。
なんか近い近い。やっぱアリスってかなり可愛いよな。
「——はっ。すみません!」
まじまじとアリスの顔を見ていたらアリスも顔の近さに気づいたのか、顔を赤くしてさっと離れた。
「ああ、それにそのやる気のなさそうな締まらない表情も似てるな」
失礼な。こんなにキリッとしてるのに。……してるよな?
というか、前勇者はそんな感じなの? もっとこう、正義感に満ち溢れた爽やかな人じゃないの?
「まあリザリオの関係者じゃないにしても、お前を包む雰囲気は、なんだか期待できるものがある。それでここに呼んだという訳だよ」
「……というと?」
「今この街は魔族との臨戦態勢にあるということは知ってるな?」
「はあ、まあ……」
嫌な予感。
「君たちにも、この近くに拠点を構えてる魔族の軍との戦いに参加してもらいたい」
やっぱり……。
「わたしの国も魔族に襲われました……。わたしにはこの国に起こってることが他人事と思えません。ぜひ手伝わせて欲しいです」
アリスが悠真を伺うように見る。
「……ダメでしょうか?」
うーん、その顔には弱いんだよな……。
「……わかったよ。やろう」
「ユーマ!」
「そうこなくちゃな、ユーマ」
「うん! わたしも手伝うよ!」
おれ以外は元々やる気だったみたいだな。また勇者に追いつくのが遅くなるな。
「助かるよ。部屋を用意するから今日はゆっくり休んでくれ。明日作戦を説明する」




